偽傷5
「よかったじゃないか」
アルさんは、一部始終を黙って聞いてくれていた。
「こんな俺が、いまさらですよ」
「卑下する必要はないよ。見てる人は、ちゃーんと見てるってことだよ」
「……」
「その証拠に相棒だって頼ってきたじゃないか」
「あれは、ただの鳥じゃないですか」
「バカだなー。ただの鳥が餌も与えない相手にボディーガード頼むわけないよ。信頼されてるってことだよ。それに、息子さんが悲しい思いをしたことは間違いないだろうけれど、芯さんだって同じように辛かったんだろ? だから、息子さんを救う為に離れた。芯さんは、二度も息子さんを救ったんじゃないか」
「ただの育児放棄です」
アルさんは、澄んだ瞳で続ける。
「それよりも大事なことをしたんだよ。たぶん、芯さん前世カルガモだったのかもしれないなぁ。話してくれたように、あいつらは天敵からヒナを守る為にわざと傷付いた振りをする。身を挺して子供を守るんだよ。でも、面白いんだ。成長する為の環境は与えるが、エサは与えない。そういった意味でも多分一緒なんじゃないかなぁ。良いか悪いかは別として、兄弟が面倒見てくれるっていう安心材料もどっかにあったんじゃないの? だから、息子さんが《《働けている》》って表現したんだと思うよ」
「……」
アルさんの言葉に嗚咽が漏れてしまった。
「こんな幸運そうそうないよ。大切にしてみたらどうだい?」
アルさんは、そういうとニイと欠けた歯で笑った──