偽傷4
「ご協力に感謝します」
川に辿り着いた一家は身を隠せる繁みを新居としていた。
見届けた俺は、同行した警官に軽く頭を下げて急いで立ち去ることにした。すると、その警官が力強い声で呼び止めてきた。
「失礼ですが、お住まいはどちらですか?」
「恥ずかしながら、ホームレスをしております……」
「どちらで、ですか?」
「やましいことは、なにもしていません」
「それは分かっています。むしろ、感謝されることをしたじゃないですか」
「カルガモの引っ越しぐらいで……」
「それだけじゃありません。僕の命を救ってくれました」
「気付いて、いたのか……」
「忘れるわけないじゃん、父さん」
「なんで、直ぐに言わなかった?」
「働いている、働けている姿を見せたくて」
「凄く、凄く……立派だったよ」
「なんで、いなくなったの?」
「それは……」
「臓器あげた所為でおかしくなった?」
「そ、それは……」
俺は、妻を早くに亡くして息子と二人で暮らしていた。そんななか、息子の病気が発覚して臓器提供をしたところ原因不明の体調不良に苛まれて働けなくなってしまっていた。そうして、ノイローゼから将来の不安も重なり息子を道連れに自殺まで考えてしまった。そうして、気が付けば家を飛び出していたのだった。
「失踪する数カ月前から、会社には行ってなかったみたいだね」
「あ、ああ……」
「いま、体調は?」
「まぁまぁ、かな」
「あれから、信也おじさんの家で育てられたんだ」
「そうか……」
話しを聞くことしかできない。俯いたままの俺に息子は続ける。
「彼女がいてさ。来年結婚するんだ」
「よかったな。おめでとう」
「こんど会ってよ」
「それは……」
「父さんのお陰で今があるんだ。だから、会って欲しい」
「わかった……」
そうして、連絡先を受け取って公園に帰った――