偽傷3
「最後の難所だな……」
相棒の行き先を確認しつつ、障害となりそうなものを排除して同行していた。
苦労したのは、最後尾のヒナの旺盛な好奇心だった。
電柱、植樹、ゴミ箱、更には、散歩中の犬や猫にまで。
さすがに猫に近寄って行った時には、ドキリとした。しかし、もっと驚いたことは、その姿を見た相棒が急いで猫の前に躍り出ると羽を広げてうずくまるような態勢を取ったことだった。さながら、襲われるのを待っているかのうように。身を挺して我が子を守ろうとするその姿。本来であれば、純粋に感動するはずなのだろうけれど、俺には過ってしまうものがあった。それは、残されたヒナ達が生きていけるのかどうかということ。親がいなくなってしまっては、どうすることも出来ないんじゃないかという無慈悲な現実。
「とはいえ、子供を犠牲にするよりは、マシだな」
本能的な行動に対して、すべてを補完できるわけじゃない。その結果、思いもよらない方向に転がっても仕方ないじゃないか。
後ろめたさを目一杯に踏み付けて、今は六車線の大通りを渡ろうとタイミングを計っている最中だった。幸い、俺が進まなければ相棒も進まない。なので、横断歩道を渡るアイデアは悪くなかった。問題なのは、最後尾のヒナが途中で戻ってしまうので絆の固いこの一家は全員途中で振り出しになってしまうことだった。
「あー、いたいた」
声を掛けてきたのは、若い警官だった。
「通報がありましてね」
心臓が、飛び出てしまいそうになった。
「あ、あの……」
「大丈夫ですよ。つぎ、青になったら誘導しますね」
爽やかな笑顔が俺を更に動揺させた。
直視できない。
「で、でも、一羽もどってしまうんですよ」
声が上ずってしまう。警官は、そんな俺を他所に「内緒にしてくださいね」というと、どのヒナかを確認するとさり気なく掌に乗せた。その様子に相棒は、真反対に慌てる様子はなかった――