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偽傷
夜、公園の池を眺めていると、俺の隣には佇んでいるヤツがいる。
「調子は、どうだい?」
こっちをチラっと見上げたような気もするが、よう分からん。
小さいそいつは、月の明るさと外灯を頼りに水面を見ているようだった。
「最近、太ったんじゃないか?」
抗議するように、虫の声を掻き消してグェ!っと一鳴きすると、そいつは今夜の御馳走を見つけたようで勢いよく水の中に飛び込んでいった――
「芯さん、さいきん相棒はどうしてんの?」
隣の段ボールハウスから顔を出したのは、アルさんだった。
「見かけませんねー。縄張り変えたのかもしれません」
「あれま。挨拶もなしかあ。鳥だけに自由に羽ばたいたのかなあ」
「俺らだって、挨拶して出ていく人の方が少ないでしょう」
「ちがいないねー」
ニイと欠けた歯で笑うアルさんは、ホームレス歴40年のベテランだ。
(挨拶もなし、か)
刺さるものがあるのは、紛れもなく罪悪感だろう。だが、あの時の俺には、最良の選択としか思えなかった――