「ゆめのなか ~はやく‶おとな″になりたい‼~ 」
❅冬の童話祭2024参加作品です。
「わたし早く‶おとな″になりたい!」
「ぼくだって早く‶おとな″になりたいもん!」
「わたしの方が先になるもん!」
「いーやぼくだね!」
「ゆうくんなんかに負けないもん!」
「みかちゃんなんかに負けないもん!」
「「いーだ!」」
あらあら朝から大きな声でケンカをしているのは誰でしょう。
二人の目の前でお母さんがそろそろ怒りそうなのにも気付かない程のケンカです。
「いいかげんにしなさい!」
ああ、とうとうお母さんの雷が落ちてしまいました。
怒られても二人はどこ吹く風。
ツーンとお互いにそっぽを向いています。
ゆうくんとみかちゃんは双子の兄妹です。
朝ごはんを仲良く食べていたはずなのにどうして「おとなになりたい」ことでケンカになったのでしょう。
理由はこうでした。
二人は双子ですが、ゆうくんの方が先に生まれたので一応お兄ちゃんです。
妹のみかちゃんはそれが何だかとっても悔しかったのです。
何でも順番は先に生まれたゆうくんが一番。みかちゃんは二番でした。
おかしをもらう順番もゆうくんが先。みかちゃんは二番。
おばあんちゃんとの電話でもお母さんは「まずはゆうくんにかわるね」と言います。
みかちゃんはゆうくんのつぎにおばあちゃんとお話がやっとできるのです。
だから、大人に早くなればゆうくんより一番に何事も出来ると思ったのです。
朝ごはんで目玉焼きをもらう順番がゆうくんが先だったことにみかちゃんのもやもやは爆発。
「何でいっつもゆうくんが先なの!」
とお母さんに聞きます。
朝の忙しいなか、お母さんは二人の幼稚園のお弁当を作りながら言いました。
「大きくなったら考えるわね」
だからみかちゃんはお母さんの言葉で「おとなになったらいいんだ」と思ったのでしょう。
目玉焼きをもしゃもしゃ食べてるゆうくんに対してみかちゃんは、
「わたしの方が大人になったらゆうくんより一番になるのよ」
と自慢する様に言ったのです。
かちん、とゆうくんはみかちゃんの言葉に反応しました。
「みかちゃんがおとなになったら僕だっておとなだよ?」
ゆうくんの言うことは最もでした。
かちん、とみかちゃんもなりました。
「どっちが早くおとなになるかって言ったらわたしよ!」
そしてお話は始めに戻るのです。
二人は幼稚園のバスの席でもそっぽを向いてケンカのまんまです。
その日は幼稚園から帰っても二人は口をききませんでした。
「二人ともいつまでケンカしてるの。仲直りしなさい」
お母さんが言っても、
「「ふーんだ!」」
と二人は目も合わせません。
そのままお風呂に入って寝ることになったのでした。
並んだお布団に入って二人はいつもなら「おやすみ」のあいさつをするのに今夜はしませんでした。
ぽん!
「あれ? ここはどこ?」
みかちゃんは言いました。
さっきまでお部屋の天井をみていたはずなのに。
周りがいやにうるさい気がします。
「みかさん!」
突然呼ばれてみかちゃんはハッとしました。
みかちゃんはお父さんが家で使っているのと同じパソコンの机に向かって座っていました。
「みかさん何してるの! 次これやってよ!」
「え、え?」
訳が分からなくてみかちゃんは周りを見ました。
よく見ると、テレビで見た事のある光景です。
お義父さんが働く“会社”という場所にそっくりなのです。
「私、わからないよ!」
そう思わず言ったみかちゃんに知らない人が呆れた様に言いました。
「子どもじゃないんだから。みかさん大人でしょう」
「え!」
びっくりしたみかちゃんは立ち上がります。
さらにびっくりしたのは見える景色が全然違う事です。
見える景色が高くなっています。
「もしかして、私大人になったの?」
嬉しくなったみかちゃんはばんざい! と手を上げました。
けれど。
「何やってるの! 仕事しなさい!」
という怒鳴り声があちこちから聞こえます。
みかちゃんは仕方なくパソコンに向かいます。
それから何と目の回るような忙しいこと忙しいこと。
みかちゃんは疲れてしまいました。
夕方になって、やっと「帰っていい」という時間になってみかちゃんはよろよろと席を立ちます。
「大人って忙しいんだ。何だか嫌だな。毎日きっとお仕事ばっかりなんだ!」
そして言いました。
「わたし、まだ子どもでいいー!」
「みかちゃん、みかちゃんどうしたの!」
「あ、お母さん……」
「ゆうくんも夢でも見たのかうなされていたのよ。だいじょうぶ?」
隣を見ると、ゆうくんがボーっとしたように布団から起き上がった所でした。
みかちゃんは心配になってゆうくんに飛びつきます。
「ゆうくん、どうしたの!」
「あ、みかちゃん。ぼくね大人になっててお仕事ばっかりしてたんだ。毎日毎日お仕事ばっか。大変だったんだ」
「わたしも同じだったわ」
「ぼく早くおとなになりたくない」
「わたしも。あんなにおとなって大変って思わなかったわ」
二人は顔を見合わせました。
「「おとなにはゆっくりなろうね」」
その様子を見ていたお母さんは笑って言いました。
「今度はみかちゃんとゆうくんの順番を交互にするわね」
「「交互?」」
「二人の順番を順番にしあいっこするのよ」
お母さんが手を上げて、
「賛成の人いますかー?」
と二人に聞きます。
「「さんせいー‼」」
ゆうくんとみかちゃんは笑顔で言いました。
~おわり~
お読みくださり、本当にありがとうございます。




