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伯爵令嬢セシリア・モーランド参る

作者: 浅村鈴

目が覚めたらどこかに生まれ変わっていたようだ…。


「ここ何処?私は誰?」


目が覚める前の私は真鍋桜34歳。デザイン事務所を経営していた。服飾のデザイナーでもあった。

自宅に帰る途中道路に飛び出した幼児を庇い車に轢かれた……。多分助からなかったんだろうな。今此処に生まれ変わってるって事は……。

色々考えていると部屋のドアが開いた。


「セシリア!気がついたのね!良かっ」た!!


お母さんかな?


「きっと教会へのお布施が聞いたんだよ!」


お父さんかな?でもお布施って…。騙されてない?


「ネックレスと交換して手に入れたあの薬草が効いたのよ!」


「そうだよ!あの商人の言う事は本当だったんだよ!あの草はハイポーションの素だって!」


お姉ちゃんとお兄ちゃん?でもあの草って?ヨモギじゃね?騙されてない?


結果から言うと此処はエルモノラ王国で私はセシリア・モーランド。4歳。一応貴族でモーランド伯爵の次女らしい。高熱を出した事で前世の記憶が戻ったみたい。

初めは貴族だぁ!と喜んでいたけど、一族皆、人が良すぎて騙されたり、恵んでしまったり。

食事って言われた時には楽しみだったのよ。だって貴族の食事よ!食堂に行ったらパンとちょびっとベーコンと野菜が気持ち程度に入ってた。


昨日お隣の領主さんが狩のお裾分けに鹿肉貰ったんじゃなかった?


こそっと執事に聞いてみた。


「昨夜、怪我をして働けない領民家族にあげてしまわれました。働き手が動けないと困るだろうからって」


「えー!?育ち盛りでお肉も食べれない我が家の方が大変じゃないの!?」


「皆様人が良すぎますから……。ですが、病後のお嬢様には栄養が必要ですから、万が一の事を考え少しだけ退けてあります。後でお肉料理とデザートをお部屋に持っていきます」


「さ、さすがロンドだわ!」








前世の記憶が戻って一年、私は5歳になった。

家族、一族は相変わらず人が良くて、愛情はたっぷりだけど、貧乏暇なしで、お腹はなかなか満たされなかった。

屋敷に勤めてくれている執事のロンドと侍女のベルは先代のお爺さまから生涯の給金を先払いして貰っていたから、我が家にお金が無くても勤めてくれている。

我が領地には森があってその狩場をお隣のスエズ男爵に貸した時は狩ったお肉を持ってきてくれた。男爵は私を可愛がってくれて、自身がしている商会で販売している甘いお菓子を懐から出しプレゼントしてくれた。

部屋でその甘いお菓子を大事に食べながら、考えた。


このままじゃいけないって!


お腹を空かせる自分も嫌だし、周りだって幸せにしたい!

私が立ち上がるしかない!!でも我が家にはお金が無い……。

私は出来上がった事業計画書を持ってスエズ男爵に会いに行った。それを見た男爵は驚いていた。

そりゃね、5歳児が事業計画書を持って来て投資してくれと言ったら驚くわよね。それに前世で30年生きた私が作った計画書だもの。完璧なのよね。ふふっ。

完璧な計画書と5歳児の土下座に驚き資金を出してもらえる事になった。養女に来て後継にならないかと言われたけど、丁重に断った。私が養女に行ったら家族皆泣くだろうから。

私の代わりに表だって動いてくれたのはロンド。流石に5歳児だと取引に信用ないものね。


商売は軌道に乗り、お腹いっぱい食べれる様になった……はずだった。

なのに、食卓のメニューは変わらず。

理由は収入が増えた分家族が困った人に分け与えていたから……。


なにしてくれてんねん!!


後日、我が家と商会は切り離した。

商会の会長には奴隷上がりの侍女ローズマリーを抜擢した。ローズマリーは元々商人の娘で親が騙されて奴隷に落とされていたけど、幼い頃から経営を教え込まれていた。そんな彼女を執事のロンドは奴隷市で見つけ買い取って私の侍女に付けてくれていた。

商会の事はロンドとローズマリーに任せた。

父と兄には領民達と新しい農産業を、母と姉には孤児院のお世話を一族の腕の立つ者には魔物討伐と狩を裁縫が出来る者は針仕事を調理が上手な者と接客が上手な者はカフェを頼んだ。

やる事が出来ると不思議と人は他の事に構っていられないのよね。






♢♢♢♢♢♢♢♢♢







商会も成功し、10年後には国一の商会になっていた。 

売れ筋は私が開発したシャンプー、リンス、化粧水とハンドクリーム。

女性の味方セシリィ商会

資金も貯まり新しくマイセシリィと言うドレスのブランドを立ち上げた。

私が作ったドレスを気に入った王妃様が私の後ろ盾となってくださって、立ち上げから3年後、第2王子の結婚式で王子妃になるエルメ様の花嫁衣装とご自分のドレスもご注文下さり、それを見た貴族や国民にマイセシリィの名前は轟いた。


成功を収めたセシリアはご褒美に王宮の晩餐に呼ばれていた。


「素晴らしかったわ。セシリア!」


「本当に素敵な衣装をありがとうございました!」


「他国の皇族や貴族からも紹介してくれと来ておる。セシリアが我が国の国民である事、羨ましがられたよ」


「僕もエルメの素敵な姿を見せて頂き感謝しています」



王室の方達が絶賛する中、1人だけ仏頂面の者が居た。


「僕には何が素晴らしいのか全く分かりませんね。だいたいそいつ元々は貧乏伯爵の娘なんですよね?なんでそんな奴に母上がデザインを頼んだのか分かりません」


こんな奴は無視無視。その場の雰囲気壊しちゃいけません。それにしてもどれも美味しい!料理長腕を上げたわね。


王宮の料理長とは新メニューの相談でたまに商会で会っていた。いつも手土産に手作りデザートを持って来てくれる、私をよく分かってる人の1人。前世の料理のヒントはお金にもなるのよね。

そんな事を考えながら食事をしていると、右手を払い除けられ、フォークごとお肉が床に落ちた。


「「「「あっ!!」」」」


それを見た人達はそろって声を上げた。

セシリアの前で食べ物を粗末に扱えばどうなるのか、社交界では有名な話だったから……。


「人の話を聞け!」


払い除けたのは王太子だった。


「なんだ?震えてるのか?」


セシリアの身体は小刻みに震えていた。


「………のよ」


「ん?謝るなら許してやるが」


「食べ物無駄にしてなにしてんのよ!」


セシリアは王太子の襟首を掴んで殴った。


「拾いなさいよ!大事なお肉!」


セシリアの圧に押され、言葉に従い王太子はフォークに付いたお肉を拾いテーブルに置いた。

それでもセシリアの怒りは収まらない。



「この馬鹿者が!食べ物無駄にして!

このお肉はお前が狩ったの?

お前が捌いたの?

お前が美味しく料理したの?違うでしょう?

王族だからっていつも目の前に美味しい物が出てきて、感謝も無く日々当たり前に食べてたんでしょう?

その腐った根性叩き直してやる!

王様、王妃様、この馬鹿は私が預かります!!良いですよね?」



「「よろしくお願いします!!」」


二人は臣下の私に頭を下げた。



「あ!余った料理はいつものように持ち帰りますからよろしくです」


侍女に向かい笑顔でお願いした。

そしてセシリアは王太子を引きずりながら連れて行った。

馬車に乗せ領地に向い、領地に着いたら着替えを済ますとすぐさま領地にある森に二人で籠った。



セシリアは火を起こし、先程狩った野うさぎを捌き料理して食べていた。


「僕のは?そんな物でも食べてやるから早く用意しろよ」


「これは、私が狩って調理したから私が食べているんです。出せと言うのなら、この食べ物の対価は?」


「何言ってんだ?僕は王太子なんだぞ!」


「裸の王太子ですね。

貴方は狩をする術も料理の対価を払う術も持ってない。いわば役立たずですね」


「な!」


王太子は悔しさと空腹で震えていた。


泥だらけになり、服もボロボロになったが、何とか野うさぎを狩る事が出来、捌き、食事にありつけた。

捌きながら、温かい体温が冷たくなるのを感じ、さっきまで自分と同じ様に生きていたのだと実感し、涙が止まらなかった。


「命を頂くから、感謝を込めて

いただきます

と言うのですよ」


自分は食事に感謝した事があっただろうか?周りの者達にも、両親にさえ……。


「ふぅっ……」


涙が止まらなかったが、大事な命全て頂いた。


「ご馳走様でした。ありがとうございました」


「帰りたいですか?」


「いえ、今は帰れません。

僕は知らない事ばかりです。だからもっと教えて下さい!勉強させて下さい!」



「好きにしたら良いわ」


一言だけ言ったセシリアは笑っていた。



キルフォード・ロードウェイ王太子は隣国に留学と言う事にした。

僕に何かあっても弟夫婦が居る。

国を担う自信がつくまで僕は王太子ではなく、キルになる。



キルとしてセシリア様に同行し各国を周ったり、狩をしたり、商談をしたり、驚いたのは魔物討伐に参加していた事だ。普通は女性は魔物討伐には参加しない。だが、モーランド領は男女関係なく討伐の力がある者は討伐にでていた。セシリア様もその一人。

セシリア様は狩り人達に剣姫と呼ばれていた。

剣姫と呼ばれるに相応しい剣技だった。セシリア様曰く魔物も食材で美味しく頂くためには剣捌きも必要なのだそうだ。

俺も精進しなければ!


セシリア様に付いて1年が経った頃、領地の孤児院でカナリアと言う少女と出会った。

セシリア様がシスターと話す間、子供達と遊んでいると、なんで自分がしないといけないの!?と怒鳴って癇癪を起こす少女がいた。

自分とそんなに年は変わらない少女だった。セシリア様と出会う前の自分と重なった。

次に彼女を見た時は子供達に泣かされていた。


「お姉ちゃん何も知らないんだ」


「恥ずかしい〜」


「大っきいのに馬鹿なんだ〜」


「こら!馬鹿って言ったらダメなんだよ!誰だって初めは分からなくて当たり前なんだってセシリア様やシスターが言ってたじゃ無い!」


「そうよ!お姉ちゃん、私が教えてあげるよ」


「私も!」


「じゃ僕も!」


「あ、ありがとう…」



まるで昔の自分を見るようだった。

それからはセシリア様と領地に来る度に孤児院に行き彼女を観察した。

いつも泣いていた彼女が3ヶ月が過ぎた頃笑顔を見せた。

出来た事が嬉しそうだった。

半年経った頃、自分が焼いたパンだとご馳走してくれた。

少し焦げていたけど、温かくて美味しかった。

少しずつ話すようになって、領地に来た経緯も聞いた。

過去の自分を恥ずかしがり、でも前を向いていた。

カナリアは輝いていた。

僕はカナリアに恋をしていた。



「そろそろ、キルフォードに戻る頃じゃ無い?」


「え?ですが……」


「王太子として周りを固めて、婚約者を選ばないとね。そんな歳よ。

それにこの国では王太子は自分の意思で婚約者候補に打診出来たわよね?」


キルはセシリアの言いたい事を理解し、王太子として王都に帰る事を決めた。



王太子としての地位固めをして、カナリアの実家である、シャレード公爵家に婚約の打診をした。

セシリアからカナリアをシャレード公爵家に帰すと事前連絡を貰っていたから。






そして今日やっとキルフォードとして彼女に対面できる!

僕は窓際に太陽を背に立っていた。


ガチャリ


待ちに待ったドアが開いた。



「はじめまして。カナリア・シャレードです」


カナリアは美しく装い、綺麗なカーテシーをしてくれた。



「よく来てくれました。急な呼び出し、申し出申し訳ない。顔を上げて下さい」



顔を上げ王太子の方を向いたが、窓からの光で王太子の顔は良く見えなかったが、臣下の礼をし、声を掛けた。


「……この度のお申し出ですが、お断り…」


「待って下さい!」


王太子はカナリアの返事を遮り振り返った。


「え?キル?」


王太子の顔を見てカナリアは驚いていた。見知った顔だったから…。


「返事の前に僕の話を聞いて下さい。

僕は王太子のキルフォードです。2年前まで甘ちゃんの我儘王子でした。後に国王になる人間なんだから自分の思うようにして良いって思ってた馬鹿な奴です。そんな僕を怒り、引き受けて王族とはなにか、何を考え、何をしないといけないのか考える事、そして世界を見せてくれたのがセシリアだった。

はじめはセシリアに着いて国内外を見て回った。一年前、孤児院で君を見た。高飛車で、してもらえない事に癇癪を起こし、まるで昔の自分を見るようだった。次に見た時は出来ない事に泣いて、また次に見た時には出来る事を探して頑張っていた。その後、子供達の世話をしながら、楽しそうな溢れる笑顔の君を見た。

いつからか、僕の隣にいて欲しいと思いました。

どうか僕と婚約して下さい!婚約中に僕との結婚が考えられなかったら言って下さったら婚約破棄します!

だからどうか僕と……」


キルフォードの言葉を逆切りカナリアが声を出した。


「私を婚約者にして下さい!」


「カナリア!?本当に?」


「はい!私で良ければよろしくお願い致します!」


「やったぁー!!」



「ご婚約おめでとうございます」


セシリアが国王夫妻と入ってきた。


「「セシリア!!」」


「2人がこの国を率いて行くなら、この国の国民は安心ね」


「2人で考えながら精進します!」





カナリアは王太子の婚約者となり、2年後2人は結婚式をし王太子妃となった。

式のドレスはセシリアが作り、マイセシリィのドレスを着た花嫁は幸せになれると後々まで語り継がれた。

そして、2人の治世の元では、貴族でなくても、体を壊しても、親が居なくても

ロードウェイ王国の国民なら餓死する事は無かった。

食べる事は生きる事。

美味しい物が食べれたら笑顔になれる。

温かい物を食べたら気持ちも温かくなる。

皆んなで食べたら笑顔になれる。

ロードウェイ王国は幸せが溢れていた。


セシリア・モーランドのおかげで……。



読んでくださってありがとうございます!

感謝ばかりです。

良ければ評価頂けると次回作のパワーになります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] セシリア格好いい-!! 結婚してもしなくてもいいですね。しないでも子供産んでいたら新しい女になるかも。 王太子と結ばれないところがいいですね。
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