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極道と裸の王様

王が目覚めると、そこは深い森の中だった。


「……ぅぅっ」


まだ混濁する意識の中で、記憶が曖昧になっている。


「……寒いな」


「……そうだ」


 ――私は気を失っていたのか?


意識を失った王を人質に取り、三卿に用意させた馬で、王を連れて、城から逃走した、勇者こと石動。


半日ほど馬で走り、追っ手がいないことを確認すると、アロガ王を、深い森の中に捨て、置き去りにしていた。



「……寒いな……寒過ぎるわっ……」


 ――夜露に濡れたせいか……

 体中も全身濡れておるわ……


「ん?」


そこでアロガ王は、異変に気づく。


「な、な、なんとっ!?」


自分が全裸であることに、アロガ王はようやく気づく。


衣服はもちろんのこと、はめていたはずの高価な指輪なども、一切ない、まさに身ぐるみ剝がされた状態で、ずっと森に倒れていたのだ、アロガ王は。


 ――そうだっ!!


 クッソ、あの外道な勇者めっ!!


 まさかこのワシが、あんな奴に不覚を取るとはっ!!


思い出される記憶と共に、ふつふつと、怒りが込み上げて来る。


「おっ、おのれっ!!勇者めっ!!」


「これほどまでの屈辱、かって受けたことなどないわっ!!」


顔を真っ赤にして、血管を浮き出させているアロガ王、強く握りしめた拳が、怒りでワナワナと震えている。


「許さんっ!!許さんぞっ!!」

「決っして、許さぬぞっ!!」

「覚えておれよっ!!勇者めっ!!」


勇者への怒りを、憎悪を抱き、復讐を誓うアロガ王ではあったが、ここがどこで、どうやって道を帰ればいいのかは全く分からなかった。


-


「……おっ、王冠は、どうなったのだっ?」


しかし、王冠のことに気づいたアロガ王の顔は、それまでとは一転して、一気に青ざめる。


 ――あれこそは、まさしく、アロガエンスの正統な王位後継者としての証、王家の至宝……


 もしや、万一、あんな勇者に、奪われでもすれば、どんなことに悪用されるか、分かったものではないわっ


 それこそ、お家の存亡にすら関わりかねん……


必死に、殴られた時の記憶、その細部を、思い出そうとするアロガ王。


 ――確かに、殴られた瞬間、頭から外れ、どこかに転がって行った


 わざわざ、あれを拾ったとは思えん、きっと、城に残されているはず


そう結論付けたアロガ王は、ひとまず、安堵する。


「王であるワシを、あのように殴るとはっ……」


そして、殴られた時の記憶を、詳細に思い出したため、再び、烈火のごとく、怒りはじめた。


「あの勇者めっ!! 決して生かしてはおかんぞっ!!」


-


数多あまたの戦場を駆け巡り、アロガエンスの英雄と讃えられていたアロガ王。戦場では、数々の苦難を、自らの力のみで、乗り越えて来た。


しかし、その武勇とは反して、血筋は、由緒正しき血統書付きの、生まれながらにしての王族。


さらに、これまでの人生、いくさで負けたこともない、無敗を誇っているため、このように、身ぐるみを剥がされたことなど、あろうはずもない。


それ故に、こうした、露出プレイ、羞恥プレイには、全く慣れていない、耐性がほぼない。



とりあえず、森で見つけた大きな葉っぱで、股間を隠し、村を探すために、歩き出そうとする。


しかし、何度やってみても、両手を離すと、当然ながら、ハラリと葉っぱは、下に落ちる。


相当な内股にして、股間の葉っぱを、両の太ももでぎゅっと押さえつけたが、それでは、今度は、歩くことが出来ない。


「何故だっ、何故なのだっ」


おそらく、こんな馬鹿げたことを、今まで、試してみたことすらないのだろう。


「人類の始祖とされる、かの男は、全裸でありながら、両手フリーで、見事に、股間に葉っぱをつけておるではないか……」


「古代の英雄を模した彫刻でも、両手フリーどころか、エレガントに、果物なぞをかじる余裕すら見せているというのにっ……」


いにしえの英雄に出来て、何故、ワシには出来ぬのだっ」


「ワシとて、アロガエンスの英雄と呼ばれし、武王ぞっ」


いにしえの英雄にあって、ワシに無いモノが、まだあると言うのかっ!」


それからも、何度か試した後に、誰もが気づく、当然の結論に辿り着く。


ひもかっ!? ひもなのかっ!? ワシには、ひもが足らんのかぁっ!!」


-


「おぉっ、まっ、町かっ……」


散々歩き回り、ようやく、近くに町を見つけたアロガ王、道往く、町の女に声を掛けようとしたが……。


「きゃあああっ!!」

「変質者よっ!!」


股間を葉っぱ一枚で隠したほぼ全裸で、真っ赤に血走った目の、鬼のような形相をした大男が、興奮しながら息を荒げて、声を掛けて来たら、当然そうなる。


アロガ王の姿を見て、走って逃げ去って行く女。


「おっ、おっ、おのれっ! 無礼者めえっ!!」


「王の顔を見て、気づかぬ上に、変態だ、などと申すとはっ!!」


女の態度に、怒り心頭のアロガ王だったが、写真の無いこの世界で、王の顔を知っている国民など、ごく一部の人間に限られている。


それに、不満があるのであれば、一家に一枚、もしくは一人に一枚、自らの肖像画でも、配っておくべきだろう。


-


とにかく、町まで辿り着いたアロガ王。


だが、そこでも、町の人々からは、白い目で見られ、ほぼ全裸の姿を、嘲笑する者達が、後を絶たない。まるで、晒し者にされているようなものだ。


腹も減っているし、服を買う必要もあったが、いずれにしても、金が無い。身ぐるみを剥がされたのだから、金など、持っているはずがない。


「おいっ、見ろよっ、あいつ、身ぐるみ剥がされたんだぜっ」


「ははっ、こりゃまた、随分と、マヌケな野郎だなっ」


町の男達が、そんな話をしている声が聞こえて来る。


「貴様らっ!! 」


「ワシは、この国の王っ、アロガ・ゴーマエンスであるぞっ!!」


怒号を上げる、アロガ王。


「あぁっ、いるんだよなっ、頭がおかしくなっちまって、自分が王様だとか、言い出す奴がっ」


アロガ王の覇気に、人々は一瞬(ひる)んだが、目の前に居る、全裸の男を、王様だと信じる者はいない。いや、むしろ、国民からすれば、それは、さすがに、信じたくはないだろう。


ついに、ブチ切れたアロガ王は、周囲で笑っている町の者達を、次々とぶん殴りはじめた。


そして、そこで、アロガ王は気づく。


「そうであった……」


「この国は、ワシの国……であれば、この国のすべてのモノが、ワシのモノではないかっ」



全裸で店に入って来て、いきなり、服を奪おうとする男。


店主は、これを止めようとしたが、その男は、店主をぶん殴って、服と金を奪い、高笑いをしながら、堂々と、店から出て行った。


結局、ここは、力がすべてをねじ伏せる、異世界。


裸で、放り出されてしまえば、王様ですら、店主をぶん殴って、物や金を奪うことしか思いつかないのだから、この異世界の民度は、極道の石動と、大して変わらないということになるのだろう。


次話から新章

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