極道とLuckの効果
「まぁっ、あれだな、お前らとは、ここでお別れだなっ」
ウェスタンドアを手で押して、酒場から出て来た石動は、ようやく外の空気に触れる。
酒場の入り口前に積まれていた死体の山は、全裸の冒険者達によって、すでに別の場所へと運ばれていた。
石動の前に立っているのは、ムゥジャ、バトゥコタ、ズッチィの幼馴染三人組。
「あっ、ありがとうございました、お陰で、無事に生き残ることが出来ました」
改めて、きちんと礼を言うムゥジャ。
「ごっ、ごっ、ごめんなさいねっ、あっ、あなたのこと、悪く言っちゃって」
顔を真っ赤にして、もじもじしながら、先に謝ったのはバトゥコタだった。
「んっ??」
何のことか、すっかり忘れていた石動は、首を傾げる。
「おうっ、そう言やあっ、おめえには、インポ野郎、呼ばわりされたなっ、」
「もっ、もうっ、やっ、やだあっ!」
先ほどまで、全裸の冒険者達を、平然と直視していたのに、今さらここで恥ずかしがるというのは、一体、どういう了見なのか。
「うっ、うんっ、あたしも、ロリコン、ド変態とか言っちゃって、ごめんなさい」
ズッチィも、己の非礼を詫びる。
「ふんっ」
まさか、この世界で、そんな程度のことで謝罪されるとは思っていなかった石動は、思わず鼻で笑った。
「まぁっ、あれだな、俺は、気が強い女は嫌いじゃねえっ」
その反応を見たバトゥコタとズッチィは、ほっと胸を撫で下ろす。
「ああっ、よかった、やっぱり、あなた、ドМだったのね?」
「うん、やっぱり、変態紳士さんで、助かった」
現実逃避で妄想した設定は、彼女達の中では、まだ生きていたらしい。
「馬鹿野郎っ、そんなことあるかいっ」
自分に立ち向かって来るような、気が強いタイプの女と、まるで格闘技のように、くんずほぐれつするのが、石動は好きなので、ドМではないが、特殊性癖のある、若干変態でも、あながち間違いではないのかもしれない。
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「まぁっ、しかし、あれだな、こう言っちゃあ悪いが……」
別れ際、これまでずっと疑問に思っていたことを、石動は、聞いてみることにした。
「まぁっ、よくお前らみたいなドジっ子どもが、この世界で、これまで無事に生きて来られたもんだなっ?」
いつもの石動に比べれば、若干言葉を選んだ工夫の後が、うかがえなくもない。
「ノンノン、何を言ってるのよっ」
右手の人差し指を左右に振りながら、ドヤ顔をして、その問いに応えるバトゥコタ。
「ムゥジャはねえ、Luckのステータスが、この世界で、おそらく、一番高いのよっ」
『おそらく』が付いているあたり、公式記録ではないらしい。
「うん、ムゥジャのLuckは、普通の人の何百倍以上もあるの」
「小さい頃からずっと、あたし達は、どんなにピンチになっても、いつも最後は、結局、無事なのよっ」
「うん、それも全部、ムゥジャのLuckのお陰なの」
このドジでマヌケな、幼馴染三人組のことなので、小さい頃から、命に関わるような窮地は数知れず、それでも、結果、ここまで無事に生きていられている。
「いっ、いやあっ、そんなっ」
頭を搔きながら照れているムゥジャ。
だが、見た目で、何か分かるような違いがある訳でもなく、石動には、どうもにわかには信じ難い。
「まぁっ、でも、あれだな、ボコボコにされてたし、そんな幸運の持ち主には見えねえけどなっ」
そんな石動の疑問に、ムゥジャは笑顔で応えた。
「何言ってるんですか、結局、こうして生き残ってるんですから、僕ら、超ラッキーじゃないですか」
「こうして、今回も無事だったし、その上、こんな大金まで手に入れちゃいましたし」
ムゥジャの言葉に、石動も思わず唸る。
「なるほどなっ」
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「まぁっ、でも、なんだかっ、自分が幸運だと思っていたら、本当に幸せになれます、そんなことをぬかす、胡散臭い宗教みてえな話だなっ」
それでもまだ、半信半疑の石動。
「ホントなのよっ、あたし達が小さい頃、村に立ち寄った、すっごく偉い賢者の人が言ってたものっ」
「うん、因果律すら、書き換えられるかもしれないとか、なんとか、かんとか……」
必死で説明して、伝えようとするバトゥコタ、ズッチィ。
因果律がどうのこうのという話は、石動には全く分からなかったが、でも確かに、そう考えると、合点が行くことは多い。
この世界で、はじめてアラクレンダの町に来た人間同士が、ギルドの酒場でバッタリ出会う、その確率というのは、どれぐらいのものなのか。
「まぁっ、つまりは、俺と出会ったのも、そのLuckの効果の内ってことかっ」
因果律を書き換えることすらも出来るかもしれない、ムゥジャのLuck。
実行犯は石動ではあるが、その石動をここに導いた、真の元凶はムゥジャのLuck、ムゥジャがここにやって来た時点で、このギルドが潰される運命は、決まっていたのかもしれない。
「なるほどなっ」
他者に、自分の道を決められるのを極端に嫌がる石動だったが、もし本当にそうだったとしても、今回は、それほど悪い気はしなかった。
それは、この三人組が、どこか憎めないマヌケなキャラクターだからなのかもしれないし、もしくは、それもまた、Luckの影響なのかもしれないが。
「したたかな奴でも、運が悪けりゃ死ぬし、マヌケでも、運が良ければ生き残れるっ」
「そいつはっ、おもしれえじゃねえかっ」
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「いやあっ、本当にすごいなぁっ」
全く予期していなかった幸運過ぎる結果に、笑顔で興奮しているムゥジャ。
「こんなに可愛いお嫁さんが二人もいて、こんな大金まで手に入るなんて、僕は本当に、超ラッキーですよ」
ムゥジャの言葉に、嬉しそうに恥ずかしがる、バトゥコタとズッチィ。
「もうっ、やだっ、ムゥジャったら」
「うん、人前で、そんなこと言ったら恥ずかしい」
予想していなかった展開に、キョトンとする石動。
「おいおいっ、なんだっ、こいつ等二人とも、お前の女なのかっ?」
驚く石動に向かって、ドヤ顔でダブルピースを決めるバトゥコタとズッチィ。
「そうよっ! ハーレム要因一号でーすっ!」
「うん、ハーレム要因二号です」
女子二名は笑顔で、ムゥジャに抱きついて、左右の腕に胸を当てるようにして、しっかり絡みついた。
「おいおいっ、マジかよっ、俺なんかっ、女には全くご無沙汰だってえのにっ、こいつ等っ、ただのリア充じゃねえかよっ」
この世界では、十五歳以上は、大人扱いされることがほとんどだ。
「こちとらっ、子供だと思って、助けてやったってえのに、こいつらっ、しっかり、やることやってやがんなっ」




