極道とアラクレンダの裸族
「いやっ、全裸ってえのも、そんなに悪くはないぜっ」
全裸であることにすっかり慣れてしまった冒険者達は、やはり、身ぐるみを剥がされて、全裸になったイバイ・バンキに向かって、そう声を掛けて励ました。
「確かに、これはこれで、解放感があっていい」
「あぁっ、ありのままの、俺を見てくれ、そう思えて来やがる」
「なんで今まで、自分が服を着なくちゃいけないと思い込んでいたのか、不思議になってくるぜ」
「あぁっ、俺は、もともと、裸族だったのかもしれねえなあ、そんな風にすら思えて仕方ねえ」
口を揃えて、全裸生活を絶賛する冒険者達。この世界に住む人間達の変わり身の早さ、いや、適応能力はすざまじく高い。それが唯一、褒められる取り柄と言ってもいいぐらいだ。
冒険者達の未知なる領域、新たなる冒険の扉、未踏の性に対する冒険、簡単に言ってしまえば変態的な性癖を、石動は、こじ開けてしまったのかもしれない。
これから先、アラクレンダの町には、全裸の変質者が大量発生することになるかもしれないが、しかし、これまでの蛮行に比べたら、全裸の変質者など、まだ随分とマシで、まるで可愛いものではある。
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『やっと、これで、解放される……』
その一方で、誰しもが、そう思っていた。
集められたお宝、その取り分をようやく決めた、石動とムゥジャ達三人組。
この惨状を前にしては、全裸の解放感によるプラスを差し引いても、とてつもない徒労、冒険者達には虚しくすら思えて来る。
この、馬鹿馬鹿しくて、グダグダな茶番、しかも、くだらない茶番でありながら、常に死の危険に晒されているという、極めて悪質な、危険な遊戯。それにここまでずっと付き合わされて来たのだから。
「おいっ、これだけのお宝があれば、この世界じゃあ、何が買えるんだっ?」
冒険者退治のクエスト依頼、その成功報酬である分け前を見て、石動は、全裸の冒険者に尋ねた。
「いやあっ、物件にもよりますが、中古の城ぐらいだったら、買えるんじゃないですかねえ……」
「んっ??」
「まぁっ、なんだか、分かったような、よく分からねえような例えだなあっ、おいっ、お前、例え下手だなっ」
「すっ、すいやせんっ」
ご機嫌を伺い、とりあえず謝りはしたが、この冒険者からすれば、不本意なことこの上ない。
集めたお宝を山分けする際に、手伝っていた冒険者達には、石動が、この世界の金勘定が出来ないことは、すでにバレている。
『あーあっ、なんで、こんな金の計算も出来ねえ野郎に、これだけのお宝を、くれてやらなきゃなんないんだろうなっ……』
「はぁっ……」
全裸の冒険者達みなは、虚無感に襲われる。
「どうすんのよっ? こんなにいっぱい、手に持ち切れないわよっ?」
「うん、あたしたちだけじゃあ、運べない、無理かも」
そして、おとぼけ三人組もまた、似たような状況であった。
山積みにされた財宝を前に、どうすればいいか分からずに、右往左往しているバトゥコタとズッチィ。
最初こそ、全裸の冒険者達を前に、顔を真っ赤にして、目を逸らし、恥ずかしがっていた彼女達だが、もう今では、お宝に夢中で、それどころではない。何の問題もないかのように平然とした顔をしており、やはりこちらも、適応するのが早過ぎる。
「うーん、そうだねえ、どうしようか……」
そんなおとぼけ三人組を、見るに見かねた冒険者達は、アドバイスをはじめる。いや、助言というよりは、それはもう指示だった。
「あそこに、サポーターが背負う用のでっかいリュックがいくつか置いてあるからよ、それに詰めたほうがいい」
「あと、酒場の裏手に、酒や食材を運ぶ時に使う荷馬車があるはずだから、それを使うんだな」
さすがはベテラン冒険者達、その経験から、この状況でどうすればいいのか、的確な指示を出す。性根は腐ってはいるが、冒険者としては、やはり優秀なのかもしれない。
しかし、こちらも心中は複雑で、冒険者達の気分は晴れない。
『あーあっ、なんで、装備やアイテムの使い方も分からねえ、こんな子供どもに、これだけのお宝を、くれてやらなきゃなんないんだろうなっ……』
「はぁっ……」
全裸の冒険者達はみな、再び、徒労感に襲われる。
「ああっ、ここの人達って、やっぱり本当は、いい人達なんじゃないかな」
そんな全裸冒険者達の気も知らず、笑顔を振りまき、呑気にそんなことを言うムゥジャは、やはり、天然の煽り体質、ナチュラル畜生の素養が高いのかもしれない。
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「いいかっ、てめえらっ」
コンパネを操作して、自分の取り分をアイテムボックスに収納した石動は、最後に、最も大事なことを言った。
「まぁっ、今日のところは、これぐらいで勘弁してやるがっ……」
『これぐらい、のレベルが高けえっ!!』
ボコボコにされた上、全裸にされて、有り金すべてを取られ、ギルドという職場まで潰された冒険者達からすれば、そう思わずにはいられない。
「まぁっ、今度、俺のクライアントに手を出したら、ただじゃあ済まさねえからなっ」
『別に、今日も、ただで済んでねえんだがっ!!』
『有り金全部、払ってるじゃねえかっ!!』
「まぁっ、さすがに次は、生かしておいてやる訳にはいかねえからなっ」
石動と別れた後に、ムゥジャ達三人組が報復の対象となるのは、誰がどう考えても、火を見るよりも明らか。
「よおーくっ、覚えておくんだなっ」
それを防ぐためにも、石動は何度も、冒険者達に念を押した。
『やっと、これで、本当に、解放される……』
大多数の冒険者達は、ここまで無事に生き残れたという妙な達成感で、感慨深さすら覚えていたが、だが、やはり、ギルドマスターだけは、まだ歯軋りをして悔しがっていた。
「クッソ、覚えてやがれよっ……」




