極道とクエスト依頼
「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」
「やっ、やめてえっ!!」
ギルドの酒場、その建物の横にある、薄暗い路地へと連れ込まれた女子二人、バトゥコタとズッチィ。
冒険者と称した、ならず者の男達五人は、会話も早々に、いきなり腕力へと打って出た。
ビリッ ビリッ
チンピラ冒険者ルカビが、バトゥコタを背後から羽交い締めにすると、別の男は、彼女の胸元を掴んで、服を引き裂いた。
ズッチィもまた、両脇からならず者どもに押さえ込まれて、正面の男に、服を引き千切られている。
「ちっ、ちくしょうっ!!」
「何すんだよっ!!」
必死に抵抗しながら泣き叫ぶ、バトゥコタとズッチィ。
「ウッへへヘヘッ」「イッヒヒヒヒッ」
下卑た笑いを浮かべる冒険者達は、獲物を捕獲して満足気だ。
「まぁまぁ、そう言うなって」
ズズズッ
後ろから強引に抱きついているルカビは、日焼けしたバトゥコタの小麦色の首筋に舌を這わせる。
「すぐに気持ち良くしてやるからよおっ」
涙ぐむバトゥコタの目には、日向から差し込む、太陽の光が、眩しい。
その逆光の中に映る、大きな黒い影。
「いやっ、いい手際だなっ、おいっ」
「なかなかのコンビネーション、連携プレイじゃねえかっ」
「それも、スキルとかで、修得すんのかっ? レイプスキルとかよおっ?」
ならず者の男達の背後、女二人の正面に現れたのは、巨漢の男。
「おいおいっ、てめえらっ、あれかっ?」
「ただの柄が悪い、普通の冒険者だと思っていたがっ、性の冒険者かなんかかっ? 」
「昼の日中に、こんな場所で、子供どもを集団レイプ未遂とか、随分と、冒険しやがるなあっ?」
「俺が居た世界だったらっ、通報されて、速攻でブタ箱行きだぜっ?」
石動は、毒舌でもあり、皮肉屋だ。
-
「たっ、助けてっ!!」
「おっ、お願いっ!!」
誰かが助けに来てくれた、思わず、そう期待したバトゥコタとズッチィ。
しかし、そこに居るのは、強面の厳つい大男。どう見ても、自分達を助けね来てくれた正義漢には見えない。完全に悪役の顔だ。
女二人が、見る見るうちに落胆し、絶望して行くのが、手に取るように分かる。
石動の外見であれば、犯罪者側に間違われても、致し方ない。
「なんだっ? てめえも、仲間に入りてえのかっ?」
ここに居るならず者達も、すっかり、自分達の同類だと思い込んでいる。
「このっ、ムッツリスケベ野郎がよっ、イッヒヒッ」
期待を裏切られたバトゥコタとズッチィは、その反動で、ヘイトが酷い。まるで、女子とは思えないような言葉で、口汚くなじり、罵声を浴びせる。
「ちくしょうっ! 見てんじゃねえよっ! この下衆野郎っ!」
「うんっ! このっ、ロリコンッ、ド変態っ!」
「おいおいっ、今日はよくディスられる日だなっ」
「馬鹿野郎っ、お前らみてえなっ、子供の裸なんざあっ、こちとら、興味はねえんだよっ」
それはそれで、子供扱いされたのが、癪に触ったようで、やはり罵られる。
「ふざけんなっ! このインポ野郎っ!!」
「うんっ! だったら、来んなよっ!!」
「まぁっ、どっちにしろ、ディスられんだなっ」
多感な十代、年頃の女子は難しい。
-
そこで、ようやく、本題を切り出す。ただ助けるだけではない、極道らしい、お礼参りの方法を、石動は思い付いていた。
「おいっ、お前等っ、この俺を、雇いなっ」
「はっ?」
「うんっ!? なんだよっ、金目当てかよっ!」
エロ目的ではなく、金目当てだと思って、再びがっかりする女子二人。
「まぁっ、この俺に、クエストを依頼しろってことだなっ」
「クエストの依頼っ!?」
「うんっ!? 一体、 何のクエストよっ!?」
口角を上げて、石動はニヤリと笑う。
「馬鹿野郎っ、そんなの、『冒険者退治』に決まってんじゃねえかっ」
「さっきは、大人しくしてたが、ここの奴等っ、随分と、舐めた真似してくれたからなっ」
「後で、全員、シメてやろうとは思ってたんだよっ」
「まぁっ、いい口実が出来たってもんだぜっ」
目の前で、大きく開いた右手を、ゆっくりと結び、力強く、硬い拳骨をつくる石動。
「こんなロクデナシどもっ、モンスターと大差ねえっ、俺が、まとめて退治してやるよっ」
助かりそうな光明が、女子二人には見えはじめる。
「でっ、でもっ、お金なんて、持ってないよっ!」
「うんっ、ここの登録料しか、持ってないっ!」
「まぁっ、心配すんなって、後払いでいいからよっ」
「あっ、後払いっ!?」
「うんっ! 後になっても、無いものはないっ!」
「だからっ、心配すんなってっ」
「まぁっ、あれだな、成功報酬ってやつだなっ」
「キッチリ、お前らの慰謝料をふんだくってやるからよっ」
「まぁっ、そういうのはっ、極道の専売特許、一番得意なシノギだからなっ」
「とりあえずっ、取り分は、山分けでいいぜっ」
石動が何を言っているのか、よく分からない女子二人。
「ほらっ、早く決めねえと、お前ら、このまま、すっぽんぽんに、剥かれちまうぜっ?」
助かるのなら、この際、何でもいいと覚悟を決める。
「わっ、分かっわよっ!!」
「うんっ! とりあえず、なんとかしてよっ!!」
-
この会話を聞いていた男達も、さすがに黙ってはいられない。
「ちっ、さっきから、うるせえ野郎だっ!!」
「どうせ、口先だけだっ」
「おめえみたいな、カッコつけ野郎が、今までに何人も死んでったぜっ」
「やっちまえっ!!」
女の服を破る係だった男達は、ナイフを取り出し、振り返ろうとする。
「あんたっ! こんなもったいぶっておいて、弱かったら、承知しないんだからねっ!!」
「うんっ! そうだっ! そうだっ!!」
多勢に無勢を心配する女子をよそに、次の瞬間、ならず者の男達は、宙を飛んでいた。
「えっ!?」
何が起こったのか、全く見えなかった女二人は、同時に感嘆の声を上げる。
殴られた男達は、壁に激突、体を強かに打ちつけて、そのままピクリとも動かない。
「クソ、強っ……」
「うん、無茶苦茶、強い……」
あっという間に、四人のならず者どもが倒され、残るは、バトゥコタを背後から羽交い締めにしているチンピラ、ルカビただ一人。
「むしろっ、この状況でも、まだ女にしがみついていられるってえのはっ、すげえなっ」
「ある意味っ、そのドスケベ根性は、見上げたもんだぜっ」
バトゥコタに抱きついて離れようとしないルカビは、ナイフを取り出して、彼女を人質にしようとする。
だが、それよりも早く、石動の大きな手は、ルカビの顔を鷲掴みにした。
そして、その太い指先は、ルカビのこめかみにめり込んで行く。
「ぐはっ!!」
激痛のあまり、ナイフを落として、呻き声を上げるルカビ。
石動は、極道らしく、ルカビを恫喝する。
「おうっ、てめえっ、俺のクライアントに何してくれてんだっ!? あぁっ!?」