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極道とバーテンダー

「オヤジ、酒だっ」


酒場のカウンターまで辿り着いた石動。


バーテンダーの服を着た、白髪交じりの男に向かって、威勢良くそう言ったまではいいが、よく考えてみると、この世界では、まだ酒を飲んだことがなかった。


 ――まぁっ、飲める範囲のもんが出て来るといいんだけどよっ


まだ、この世界の住人の味覚を信じていない石動は、とんでもなくマズイ酒が出て来るのではないかと、気が気ではない。


木製のタンブラーに入れられて出て来る、赤い液体。


まずは、鼻をひくひくとさせてニオイを嗅ぐ。それから、恐る恐る口に入れてみる。味は、前世で飲んでいた酒と、さほど変わりはなさそうだ。


 ――まぁっ、ワインみたいなもんかっ


とりあえず、飲めそうな範囲のもので、ホッと胸を撫で下ろす。



そんな石動の様子を、いぶかしがるように見ている、店の初老男性。


「あんた、余所者よそものかいっ?」


「あぁっ、まあなっ」


 ――別世界から来てんだから、余所者よそものにはちげえねえがっ、まぁっ、余所よそにも限度ってもんがあるわなっ


「なんだっ? ここは、一見さんは、お断りなのかっ?」


「いやっ、そうじゃあねえがっ……ここの連中も、元々は、流れ者だったしなっ」


「ただ、わざわざ、こんな店に入って来るだなんて、随分と、物好きがいたもんだと、そう思ってな」


「まぁっ、物好きには違いねえなっ」


-


酒を出した初老の男は、バオカと名乗った。


「あんたがっ、ギルドマスターって奴かいっ?」


外の掲示板で見た程度の浅い知識で、ここアラクレンダでは、ギルドマスターが一番強いらしいことを知った石動。


「いいや、俺はしがないバーテンだっ」


「ギルドマスターは、ちょっと、出掛けちまってる」


「あぁっ、そうなのかいっ」


ここのギルドマスターが、どれぐらい強いのか、それを知りたかった石動は、残念そうな顔をした。



「その、ギルドマスターってえのは、どれぐらいつええんだっ?」


そう尋ねると、目を輝かせて、まるで自分のことのように、自慢話をはじめるバオカ。


「ここの、ギルドマスターはなあっ、そりゃもう、伝説級の冒険者よっ」


「この町で『イナズマサイクロン』って名前を、知らねえ奴はいねえっ」


バオカはドヤっていたが、その名前を聞いた石動は、完全に引いている。


「おいおいっ、そりゃ、どう考えても、違った意味で、ヤベエ野郎だろっ」


自分をイナズマサイクロンと呼ばせているような男が、マトモな人間だとは、到底思えない。


 ――おいおいっ、なんだよっ、その、地方の売れないプロレスラーみてえな、ネーミングはよおっ


 そんな、ふざけた呼び名の奴が、俺より強いってえのだけは、勘弁して欲しいとこだぜっ


-


「なあっ、あんたは、ギルドに登録しに来たのかいっ?」


一気に酒を飲み干す石動に、今度はバオカが聞いて来た。


「いいやっ、登録する気はねえなっ」


「俺は、一つ所に、落ち着いてられる性分じゃねえっ」


子供時分に、威勢会いせいかいの会長に拾われて、極道の組織に所属はしていたが、基本的に石動は、群れを成すのが好きではない。


「まぁっ、単なる、物好きの冷やかしだなっ」



おかわりの酒を注文する石動。


「まぁっ、しっかし、随分と、上手いこと考えやがったなっ」


「冒険者からは登録料を取って、クエストの依頼料は前金で貰う、成功報酬は、冒険者に渡す前に中抜き……」


「おまけに、情報収集に来た冒険者達が、この酒場で飲食代を落として行くとくなりゃあ、あんたら、ぼろ儲けだろっ? 全く羨ましい限りだぜっ」


「うんっ? まあっ、まあっだなっ……」


そこは、曖昧な返事をして、さすがに誤魔化すバオカ。


-


そして、改めて、酒場を見回す石動だったが、店内は男ばかりで、茶色、黒、灰色ぐらいしか色が無く、やはりどうにもむさ苦しい。


「まぁっ、よく考えてみりゃあ、随分と、男臭せえとこだよなっ」


「こういうとこは、若い女のウェイトレスとかが居るもんなんじゃねえのかよっ?」


「馬鹿野郎、そんな若い女なんか雇って置いといたら、こいつ等に、みんな犯されちまうよ」


「なるほどなっ、まぁっ、そりゃそうだろうなっ」



ちょうど、そんな話をしている最中、酒場のウェスタンドア、その前に、鴨がネギを背負ってやって来ていた。


「ちょっ、ちょっとぉっ、本当に大丈夫なんでしょうねっ?」


「うっ、うん、なんか、随分、おっかなそうなところだけど……ここで、いいのよね? ムゥジャ」


「ぼっ、僕が、先頭で入るから、ズッチィも、バトゥコタも、後ろに隠れてて……」


三人組の新米冒険者が、このギルドに登録しようと、やって来たのだ。



ドアを押して、彼等が足を踏み入れると、酒場の店内が、一気にざわめく。


「ヒューッ」

「へッ、へへへッ」

「イッヒ、ヒヒッ」


その声に気づいて、入り口の方を見やる石動。


「おいおいっ、あれまだ、子供ガキなんじゃあねえのかっ?」


石動から見れば、せいぜい、十代の高校生ぐらいにしか見えない三人組。ただ、劣悪な環境のせいで、寿命が短いこの世界では、十代はすでに、大人扱いされることがほとんどだ。


「まぁっ、あれだな、狼の群れの中に、羊が三匹飛び込んで来やがったっ」


先頭の男子、ムゥジャは、白いボアが付いた黒いレザーのロングコートをなびかせて、まるでアニメキャラのコスプレみたいな出で立ち。


後ろにいる女子の一人、バトゥコタは、ホットパンツにロングブーツを履いて、その間の領域は、褐色の生足が覗いている。上もノースリーブのヘソ出しトップスと、露出度が高い。


もう一人の女子、ズッチィも、赤いミニのワンピースに、魔女のような三角帽子を被り、手には杖を携えている。


女子の二人に至っては、まるで性犯罪者予備軍を、敢えて煽りに来たかのような恰好で、女に飢えた荒くれ者どもは、すでに、いやらしい目でジロジロと、舐め回すように見つめている。


「やっ、やだっ、なんか、恥ずかしいんですけどっ」


「うっ、うんっ、冒険者って、こういう服装が定番なんじゃなかったのっ?」


「おかしいなぁっ、僕は、そう聞いたんだけどなぁっ……」



いずれにしても、この三人組、場違い感が半端ない。


 ――まぁっ、あれだな、田舎の高校生が、夏休みになって、勘違いしたド派手な衣装を着て、深夜の新宿歌舞伎町にやって来ました、みてえな奴等だなっ


 まぁっ、焚き火の中に突っ込んで来る虫だっているぐらいだしなっ、そういうのがいても不思議じゃあねえけどよっ


「まぁっ、あれだな、まさに、飛んで火に入る夏の虫ってやつだなっ」


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