表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4


匂う。匂うぞ!


間違いない!こっちから腐女子の匂いがする!


家を飛び出して俺は深夜の街を駆け抜ける。


目指すは俺の大切な妹に爛れた知識を吹き込んだ静菜と名乗る腐女子。


俺の鼻は的確に奴の居場所を捕らえていた。理屈は気にするな!強いて言うならコメディーだからだ!


「ここかッ!」


たどり着いたのは薄暗い路地裏。それはいかにもなめりっさ怪しげな場所で、今現在も裏社会の人達が白い粉を取引してそうな雰囲気を醸し出していた。


匂いはこの先だ。


一寸先は表現違わずまさに闇。夜の闇だけでは到底足りないどす黒い闇が続いていた。


だが、しかし、俺は迷わず闇へと足を踏み入れた。


行こう!今は闇しかなくとも続く道の先には必ず希望があると信じて!……謝罪。ちょっと、ノリで言ってみました。


そして、それは俺が踏み出してすぐのことだった。


「イヤッ!やめて!誰か助けて!」


少女の悲鳴が夜の街にこだまする。


悪漢に襲われている少女(おそらく静菜)。


それを助ける俺。


静菜、俺に惚れる。


勢いで結婚。


性転換せずにすむ。


性格の不一致が原因で離婚。


多額の慰謝料。


払うために死に物狂いで働く。


過労死。


バットエンド。


と、こんな感じの一連の流れが容易に想像できた。


なんたる安易な展開。もう、完全に使い古しだわ。


いいの?俺、ここで静菜ちゃん助けちゃって本当にいいの?こんなどこかで聞いたことあるような意外性のない展開にしちゃっていいの?


いや、まて!俺がよくないよ!ここで静菜ちゃん助けちゃったら俺過労死だろ!?


過労死とか嫌だから!死ぬときはトラックに引かれそうになってる子供を庇って、トラックに引かれて死ぬって決めてるんだから!


「こっちこないでよ!」


再び聞こえてきた悲鳴に近い叫び声。


……とりあえず、助けよう。俺に保身のため困っている人を見捨てるような真似は出来ない。そんなことしたらあいつの同類になってしまう。


俺は悲鳴が聞こえた方向に走り出した。その先には案の定、悪漢数名に囲まれて、しゃがみ込んでいる少女が一人。


それを見た瞬間、頭がかっとなった。頭で考えるより先に身体か動く。


「おらあぁ!」


その後のことはいまいち記憶が定かじゃない。殴ったり、殴られたり。いろいろあったきがする。


気がつくと俺は道の隅っこにボロ雑巾のようになって倒れていて、傍らには泣いていたのか、目を真っ赤にした少女がへたりこんでいた。


まあ、俺はスーパーマンじゃないんだ身体の節々が軋みまくってるけど少女は一応助けられたんだからそれでよしとしよう。


薄れていく意識の中。ふと、俺は静花はなんでいきなり百合の話をしようとしたのかなぁ、なんて、今更なことを考えていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「そんなわけで、静花。なんで急に百合がどーのこーの言いはじめたんだ?」


「あ、それは兄貴がお姉ちゃんになっても私は兄貴のことが好きだから、別に男と女の愛に捕われず、女と女の愛っていうのも案外悪くないんじゃね?って、ゆうのを伝えようと思ったんだよ」


「改めて思ったんだけど、静花は俺のことを異性として好きなのか?」


「同性としても好きだよ」


「まだ異性だ!」


「そんなかたいこと言うなって。別に私は百合でもいいと思うんだけどな。結局は兄貴だし。それに親父が言ってたんだけど姉妹丼ってのも出来るらしいから最高じゃないの?」


「……静花、今何て言った?」


「ん?姉妹丼?」


「そう、それ。ちなみに誰から聞いたって?」


「親父だけど?」


あの人間の屑がああああああぁぁあぁ!


つまり、目的はそれだったんだな!わけのわからん約束を一方的に押し付けたのは結局、俺を女にして、静花もろとも自身の欲望のはけくちにするためだったんだな!


最低だ!人間としても!親としても!ゴミとしても!


そうじゃなくて!


親父の野郎!静菜に続き、静花になんて汚わらしい知識吹き込んでやがるんだ!幸い、まだ単語の意味までは理解していない様子の静花だが……。親父!本気で許すべからず!


そうだ!やっちまえばいいんだ!夜道で後ろからぽこって裏山に埋めてくればいいんだ!よし!そうしよう!


「あ、兄貴。もうすぐ、式、始まるってよ」


沸点をかるく超過して、気体になりかけていた俺の脳が静花の言葉にて、一瞬にして冷め、冷静さを取り戻した。


「……え?もう?」


反射的に聞き返した。


「え?じゃねーよ。兄貴の準備は万端なんだから、あとは静菜ちゃんの準備だけなんだし」


いよいよか……と、思うと改めて緊張してきた。


「それと兄貴、その服、なかなか似合ってるぜ」


満面の笑みを浮かべた静花はぐっと握り拳を突き出し、親指をたてる。


「……あ、ありがとよ」


着慣れぬ服に身を包み、知らぬまに気が高揚していたのか、静花に真っ正面から褒められて柄にもなく照れてしまう。なんとも恥ずかしいというか、むず痒い。


いや、それにしても、まさか18才でテールコートなんざ着るとは思わなかった。


まだまだ、先のことだと思ってたんだけどなぁ……。


今日は結婚式だ。


誰の結婚式かって?


俺と静菜ちゃんのだけど?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ