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「おい、メガネ!おまえに話しがある!」


「……はあ?」


話しがあると呼び出され来てみれば、いきなり、メガネ呼ばわりされた。いや、確かにメガネはかけているけども。


「親父、息子をメガネ呼ばわりはどうかと思うんだが……」


しかも、この厳つい完パゲのオッサン。何を間違ったのか、お袋に俺を孕ませたご本人だ。つまり、父親。


表現が生々しい?でも、これが現実だし。


「とりあえず、座ろうかメガネ君」


「いや、座るけどさ」


なんかこのままメガネで通されそうだ。


「重大なお知らせだ!」


俺が座るや否や。親父は早速話し始めた。


「メガネ。おまえ、確か今日誕生日だったよな?」


「まあ、そうだけど。今更、祝ってくれるとでも言うのか?」


幸か、不幸か、今日は俺の18才の誕生日だった。この歳にもなって誕生日だなんだと、騒ぎ立てるのはどうかと思って得になにも言ってなかった。


俺自身、昨日、静花に言われるまですっかり忘れてたし。


「だーれが!メガネなんぞの誕生日なんか祝うか!ばーか!」


この親父……。後で母さんにゲイバーの(ハートマーク)みゆき(ハートマーク)ちゃんといいところまでいったことばらしてやる。


「じゃあ、なんのようなんだよ」


「メガネ!おまえ一週間以内に結婚しろ!」


「親父……。俺、親父みたいな父親をもてたこと一生の汚点に思う」


馬鹿だ。糞だ。とは思っていた親父だが、ここまでとっ拍子のないアホなことを言われるとは流石に予想の斜め上をいった。


確かに18才になったわけだから、結婚出来ないことはない。


けど俺は高校生で、それに相手が……まあ、いないこともな……ごめん、嘘つこうとした。彼女いない歴=年齢です。


「なんじゃ?相手、おらんのか?」


しれーっとした感じで、え、マジで?みたいな表情をしやがる親父。よし、後で母さんに親父秘蔵のBL本の隠し場所チクろう。


「それにしたって、俺まだ、学生だし」


「やっぱり!おらんのかー!いまどきメガネなんざはやらんもんなー!」


話し聞かねーし。メガネ関係ねーし。声でけーし。


「だいたい、なんでいきなり結婚しろだなんて、わけわかんないこと言い出してんだよ」


「それをメガネに教えるいわれはないわ!」


意味わかんねーし。話しん何ねーし。青海苔前歯についてるし。


「とにかく!一週間以内に結婚しろ!」


「あー……。はい、はい、結婚しますよー……っと、じゃ、もう寝るから」


「おー!結婚してくれるか!」


大袈裟に喜んでみせる親父。


バカらしい。話しに付き合うだけ時間の無駄だ。さっさと寝よう。


立ち上がり居間から退散しようと部屋の外に足を向けた。


「お、そうだった」


と、去り際、不意に後ろから声をかけられる。


「もし、一週間以内に結婚出来なかったら、男としての魅力がないってことだから、その場合メガネには女になってもらうからな」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「……なんつーか。ご愁傷様。茜の親父は相変わらずすげぇーな」


昼休み。俺は昼飯を食べながら友達の照井に昨日あったことを話して聞かせていた。


「余談だが、俺の茜って名前も一週間後への布石だとか、なんとか意味わかんないこと言ってた」


「まあ、普通、茜なんて女の子に付ける名前だもんな。んで、茜は結婚すんの?」


「する、しないの問題じゃないんだ。俺は結婚しなきゃいけない!」


糞みたいな俺の親父だが、そんな親父でも、俺は一つだけ尊敬――と、まではいかないが、凄いと思っていることがある。絶対に口にだしていわないけど。


あの、親父、言ったことは何があろうと絶対に実行するのだ。


今回の俺が結婚出来なかったら女にするって言うのも間違いなく実行すると思われる。


無茶苦茶で、ただのざれ言だとほっとくのは簡単だ。


だが、しかし、親父のこれまでの行動と職業が医者だということを踏まえると俺は本当に女になる可能性があった。


親父に一般常識は一切通用しないのだ。


男から女になる……。


男として生まれ。男として育ち。男として普通に女の子を好きになることもあった。


もう、理屈じゃない。


とにかく女になど絶対になりたくない!


「んまあ、もし、本当に女になっちまった時は俺が嫁に貰ってやるから安心しろよ」


素敵スマイルでそんなことをさらりと言ってのける。友達――改め、ランクダウンして顔見知りの赤の他人である照井。


なんとなく。前々からそっちの気配を漂わせていたが、今の発言で確証を得た。こいつ親父の同族だ。


俺、狙われてる!


「照井。俺、おまえの友達やめるわ」


「え、えぇ!?き、急にどうしたんだよ、茜!?」


「おまえの性癖を知った今。俺は保身の為におまえと絶交する。はい!ゆびきった!」


「ちょ、ちょっと、待てよ!そんな絶交だなんて……!」


「バカヤロー!てめぇは俺に触るんじゃねぇ!妊娠すんだろうが!」


言うや、否や、俺は変態照井の魔の手から逃げるべく一目散に逃げ出した。さらば、照井。


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