表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィーネ・クリスタル  作者: 青空ミナト
4/211

宮殿


「ここに来るのも、ひさしぶりじゃの~」


 アル達は、広大な敷地しきちに作られた宮殿の中を歩いていた。白い石がうめ込まれた床は、表面がぴかぴかにみがかれ、通路の所々には銀色のよろいを着た兵士が立っていた。


「しかし、ロンが兵隊だったとはなあ」


「すごいですね!王族警備の護衛軍なんて!」


「もう十五年も前の話じゃ」


「ロン軍団長ってか?なんか想像つかないよ」


「なんじゃ、あのりを見ておったじゃろ?」


「確かにロンさん、すごいのこなしでしたね」


 マリーは、耳にかかった髪を左手でかき上げながら、楽しそうに歩いていた。茶色い肩掛かたかけカバンが、歩幅に合わせて小さくれ動いていた。


「そうじゃろ?わしって実はすごい人なんじゃよ」


「よく言うよ。のぞきしてたくせに」

 

「うるさいのう!アルもノリノリだったじゃろ!」


誤解ごかいまねく事言うなよ!」


「あの~宮殿内では、もう少しお静かにお願いします…」


 宮殿の中を案内する兵士は、困惑こんわくした様子でロン達の先頭を歩いていた。


「フフッ。私は、ゴール大臣だいじんの所に報告に行きますね。ロンさんは別の用事があるんですか?」


「うむ。マリーとアルは、ゴールの所に行ったらええぞ。わしは、その間にゼルナンに会いにいくからな」


「ゼルナン?だれ?」


「え、もしかして、国王ですか?」


「うむ」


「うむって、いや、そんな簡単に会えるのかよ?」


「大丈夫じゃろ」


「大丈夫じゃないですよ。もう、簡単に言うんですから。はあ…」


 若い兵士は、歩きながら大きなため息をついた。


「まあ、おたがい用事を済ませたら、丁度良い時間になるじゃろ」


「そうですね。アル君の魔法の事も、調べてもらおうと思います」


「そうか。なら、魔学室まがくしつに案内してもらえば、何か調べてもらえるはずじゃ。では、また後でな」


 広い突き当たりに着くと、ロンはアル達と分かれ、宮殿の奥へと進んでいった。アル達は別の兵士の指示で、突き当たりの左にある大きな部屋へと案内された。


「これはこれは!ご無事ぶじで何よりです、マリーさん。半年間の調査、ご苦労様でした!」


 ややぎわの後退した小太りの男性が、部屋の中に笑顔を浮かべて立っていた。黒い髪は短く整えられ、胸元にボタンのついた茶色い服を着ていた。


「ゴール大臣だいじん、おひさしぶりです。こちらは私の調査に協力して下さった、アルさんです」


「アルです」


「初めまして、ゴールと申します。おもに外務を担当しております」


「アルさんの協力もあり、遺跡での調査を安全に終わらせる事ができました。こちらが報告書になります」


 マリーは、肩掛かたかけカバンから分厚ぶあつい紙のたばを取り出し、ゴール大臣だいじんに手渡した。


「おお!ありがとうございます。いや~助かりますよ!マリーさんの調査は、この国の十年分の調査よりも価値がありますからねえ」


「そんな、お上手じょうずを」


「いやいや、我が国の考古学は遅れておりますからなあ!長期間の調査、ご苦労様でした」


「こちらこそ、貴重きちょうな遺跡を調査させていただいて、ありがとうございました。それと、実は一つ、調査とは別でお願いしたい事があるのですが」


「ほう、なんですか?」


「魔法の事で、少し調べてもらいたい事があるんです」


 





 宮殿の中には、魔法を専門に研究している、魔学室まがくしつという機関きかんがあった。アルとマリーはゴール大臣だいじんにつれられて、魔学室まがくしつへと続く長い廊下ろうかを歩いていた。


「この部屋にくわしい者がおります。では、私は別の仕事がありますので、ここで…」


「はい、ありがとうございます」


 マリーは丁寧ていねいにお辞儀じぎをすると、背筋を伸ばし、ゆっくりととびらを開けた。広い部屋の中には本棚ほんだながいくつも置かれていて、分厚ぶあつい本がびっしりと並べられていた。部屋の真ん中にある木の机には、鉱石こうせきのようなかたまりが数個、無造作むぞうさに置いてあった。


「すみません、どなたかいらっしゃいませんか?」

 

「はーい!」


 本棚ほんだなの奥から、小さな女の子が歩いてきた。白いローブを羽織はおり、人形のようなかわいらしい顔をしていた。ツインテールにした茶色い髪は、先の部分が肩の下まで伸びていた。


「あれ、子供だ。なあ、他にだれかいないのか?」


「私が担当者だ!」


 小柄こがらな少女はアルをにらみつけた。


「はあ…子供の相手はつかれるんだよなあ……」


「アル君、静かに!」

 

「え、なんですか?」


「こちらは、魔学室まがくしつの担当の方です!」


「こいつが?ほんとに?」


「本当だ!」


 少女はアルのひざを思い切りった。


「いてっ!」


「ふん!私はルーナだ!用がないなら帰ってくれ。研究でいそがしいんだ」


「ルーナさん、すみませんでした。失礼な事を言ってしまい、おびします。実は魔法の事で、少しお聞きしたい事があるのですが……」


「魔法?」


「はい」


 マリーは、アルがナンジュの街で突然、魔法を使えるようになった事を説明した。


「ふ~ん、手から水がねえ」


「はい。アル君、首飾くびかざりを」


「いって~…」


 アルは苦しそうにまゆをしかめながら、首飾くびかざりの石を少女に渡した。


「ふむ」


「なあルーナさん、これって魔空結晶まくうけっしょうってやつなのか?」


だまれ」


「あ、はい」


 少女は首飾くびかざりをじっと見つめると、机の上に静かに置き、両手を青い石にかざした。小さな手に呼応こおうするように、首飾くびかざりの石が強く光り出した。


「うわっ、なんだ?おれの石が……」


 甲高かんだかい音と共に、青い光が部屋中に広がっていった。部屋全体が強い光に包まれたかと思うと、徐々に輝きが弱まり、ひしがたの石へ光が集まっていった。


「ふう…」


「ルーナさん、大丈夫ですか?」


「ああ。これは、魔空結晶まくうけっしょうではないな。ザラを回復させるだけではない。たぶん、もっと強力な効果のあるものだ」


「強力な?どういう事ですか?」


「さっきのはザラを感知する魔法なんだが、石の中からとても強い力を感じた。私では、制御せいぎょできそうにないほどの」


「……」


「おそらくこの石には、何か条件がそろう事で、持ちぬしのザラを増幅ぞうふくさせる効果があるのだろう。私の推測だがな。お前がいきなり魔法を使えたのも、そのためだと思う」


「へえ~!ほんとかよ!すげえ石だな」


魔空結晶まくうけっしょうよりも貴重きちょうなものだと思う。私も初めて見るよ」


「ルーナさん、ありがとうございます」


「ああ、助かったぜ!」


 アルは少女の頭をなでた。


「き、貴様きさま…」


「アル君!」


「手をどけろー!」


 少女の右手から突風とっぷうが吹いた。






 

 アル達は、兵士の案内でロンのいる部屋へと向かっていた。 


「ったく、いきなり魔法を使うなんて…」


「さっきのはアル君が悪いよ」


「え~そうですか?」


 アルは、頭にできた大きなこぶをさすっていた。


「それにしても、とんでもない石だね。ザラを増幅ぞうふくさせるなんて」


「マリーさんでも知らなかったんですか?」


「うん。私は魔法専門の研究者ではないから、知らない事もたくさんあるんだよ」


「こちらです」


 案内の兵士が、茶色いドアの前で足を止めた。


「失礼します!」


「だからサリー、急な用事なんだ。君の事を忘れていたわけじゃないんだよ」


うそよ、あなたはいつもそう言って!」


 広い部屋の中で、二人の男女が何かを言いあっていた。男性の方は背が高く、整った美しい顔立ちをしていた。金髪の髪は短く整えられ、たけの長い白い服には、きらびやかな宝石の装飾そうしょくがほどこされていた。


「私の事なんか、どうでもいいんでしょ!」


 水色のドレスを着た女性が声を大きくした。若々しい容姿ようしに、桃色の口紅くちべにがよく似合っていた。


「なんだなんだ?」


「どうやら喧嘩けんかみたいだね」


 アル達は、部屋の入口から様子をうかがっていた。


「ああ、サリー。私には君が必要なんだ。わかってくれないか」


 男性は悲しそうな顔で女性をせた。


「…本当?」


「本当さ。君がいないと生きていけない……さあ、わかったら自分の部屋に戻っておくれ」


 女性は少し落ち着いた様子になると、笑顔でうなずき、そのまま部屋を出ていった。


「いやあ、すみません、ロンさん。話の途中で邪魔じゃまが入ってしまって」


「あいかわらず役者やくしゃじゃのう。何が、君がいないと生きていけない、じゃ。八人もつまがおるくせに」


「は、八人?」


 アルは口を開けておどろいていた。


「ロンさん、私は全てのつまを愛していますよ。平等びょうどうにね」


「ほんとか?どうもあやしいのう」


 ロンは目を細めながら、部屋の外に目を向けた。


「ん?おお、マリー!もう終わったのか?」


「はい。あの、そちらの方はもしかして……」


「ああ、国王じゃよ」


「これはこれは、お見苦みぐるしい所をお見せしました。ゼルナンと申します。ロンさんのお知り合いの方ですね。どうぞ、おかけになって下さい」


 部屋の中には細長いテーブルがあり、背もたれのついたイスが並んでいた。奥には黒板こくばんのようなものがあり、会議や打ち合わせができる部屋のようだった。


「実は、まだ話が終わっていなくてのう。ゼルナンよ、どうじゃろうか?このまま二人にも、一緒いっしょに話を聞いてもらってよいじゃろうか?」


「私はかまいませんよ」


「あの~私のような部外者がいても、大丈夫なのですか?」


「問題ないぞ。マリーにも、聞いてもらったほうがいいかもしれん。アルはどっちでもいいがの」


「なんだよ、それ」


「では、時間もないので話を再開しましょうか」


 ゼルナンがテーブルに近づこうとした瞬間、部屋の外で大きな声がした。


はなして!」


こまります!国王は今、来客中ですので…」


「サリーと話してたんでしょ?どいて!」


 黒髪の美しい女性が、白いドレスのすそを両手で引っ張りながら、部屋の中に入ってきた。


「ああ、イザベラ。今日は約束の日ではないだろう?」


「ええ、そうね。あなたが約束を守った事のほうが、少ないと思うけど!」


「そう言わないでおくれ。君の事は、本当に大切に想っているんだよ」


うそばっかり!いつも私の事だけ忘れるんだから!どうでもいいんでしょ?」


「ロンさん、あれは?」


「うむ、ゼルナンの四番目のつまじゃ。また、長くなりそうじゃな」


「はあ。全然進まないな……」


 アルは大きなため息をついた。



 


 


 


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ