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フィーネ・クリスタル  作者: 青空ミナト
182/211

神を宿した光


「なあ、リリー。レギリアの使ってたあの魔法、いったいなんなんだ?」


「イルジットをたおした時の?」


「ああ。体の周りに、すげえ綺麗きれいな光がまとわりついて」


「そうか……まだ、トネルは読んでなかったわね」


 雪深ゆきぶかい山道を、リリーとトネルが隣り合うようにして歩いていた。黒いローブをにまとい、分厚ぶあついフードで頭をすっぽりとかくしていた。二人の足もとには白い雪がもり、前へと歩くたびに、茶色いブーツが足首のあたりまでめり込んでいた。


「あれは己の体を作り変える、究極の錬真魔法れんしんまほうの一つよ」


「作り変える?」


「ええ。魔法による攻撃をはじき返し、深い傷を瞬時しゅんじなおしてしまう。自ら消費したザラすらも、その力で強制的に回復させる。魔法で肉体を作り変える事によって」


うそだろ?そんな事が…」


「古代にみ出された、人を人ならざる者へと変える究極の魔法……大賢者だいけんじゃソルシャインのしょには、そう書いてあった」


 リリーは真剣な表情で前を向き、雪の中を歩いていた。風が強くなり、冷たい雪がフードの中へと入り込んできた。


「神を宿やどした光と共に……並の魔法では手も足も出ない。くやしいけど、レギリアの力は頭一つけてる」


「だよなあ。おれも、わりと才能があると思ってたんだけど。帝国の中で、あいつにかなうやつなんていないんじゃないか?」


「そうかもしれないわね。どんなに修練しゅうれんを重ねても、現実は残酷ざんこくなもの。どうしようもない才能の壁がある。それでも、私は……」


 リリーは歩きながら、こぶしを強くにぎりしめた。


「…少し強くなってきたわね。いそぎましょう」


「え~!ちょっと休憩きゅうけいしようぜ?こういう時はだんでも取りながら、あったかいものを……」


「早く次の街に行かないと。のんびりしてたら、また懲罰房ちょうばつぼうに入れられるわよ?」


「うっ…あの暗闇くらやみは、さすがにちょっと……よし、この前おぼえた魔法で、少し速度を上げるか!リリー、ちゃんとついてこいよ?」


「もう…調子ちょうしがいいんだから」


 リリーはあきれたような顔でトネルを見つめながら、小さな笑みを浮かべていた。







「ヒュン!」


 虹色(にじいろ)の光をまとったアルが、トネルの目の前にせまっていた。 


(ばかな!あの光は!)


「ドゴオッ!」


 強く振り下ろされたこぶしが、トネルの体を大きく吹き飛ばした。トネルは砂ぼこりを巻き上げながら地面に何度もぶつかった。


(ありえない!なぜあいつに、あんな力が!)


 トネルは右のひざを地面につき、息を切らしながら立ち上がろうとした。するどい視線の先には、光につつまれたアルの姿があった。


「マリーさんはやらせない!絶対に!」


 アルはこぶしを強くにぎりながら、地面の上に立っていた。肉体には力が戻り、怒りに満ちた表情でトネルを見下ろしていた。


(もともとあれだけの力があった?いや、ちがう!ただの底力そこぢからで、あの領域にはたどりつけない!)


 トネルはけわしい表情でアルの首元を見つめていた。首飾くびかざりの青い石が、虹色にじいろの光の中で、一瞬いっしゅんだけ強く輝いた。


(まさか…!)


「お前はここで止める!おれが!」


「…言ってくれる。ただの護衛が!」


「バチバチ!」


 青い光を放ちながら、トネルがゆっくりと立ち上がった。


「終わるのは貴様きさまだ!り物の力で、いい気になるなよ!」


「バチッ!バチチッ!」


 トネルの周囲から、無数の雷光が立ちのぼった。細い稲妻いなずまが、重力にさからうように次々と上昇し、トネルの髪が上へと逆立さかだち始めた。


「ゴロゴロ…」


 アル達のはるか上空では、灰色の雲が発生し、うなり声のような不気味ぶきみな音を立てていた。


(あれは……雷?)


 アルは虹色にじいろの光をまとったまま空を見上げた。分厚ぶあつい雲の隙間すきまから、かすかに青い光の線が見えていた。


自然魔法しぜんまほうきわめた先に、何があるか知っているか?人智じんちを超えた自然現象にザラが共鳴し、その膨大ぼうだいな力を、己の術として使う事ができる!」


 トネルは両腕を前へと伸ばしながら、手のひらをななめに重ねていた。


「せいぜいえてみろ!自慢じまんの魔法でな!」


「ピシャアッ!」


 光と共に、雲の上から雷鳴がとどろいた。 


雷掌底ヘルグナス!」


 激しい稲妻いなずまが地面へと落ち、トネルの目の前で、青い光のへと変化した。体の数倍の大きさをした巨大なが、雷光を放ちながらアルへと襲いかかった。


「ピシャアアアッ!!」


 光のはじけ飛び、雷鳴と共に強烈な衝撃波を発生させた。地面の土がえぐり取られ、激しい光によって辺りは何も見えなくなった。


「ゴガガガッ!」


 大地の下から無数のとがった岩が浮かび上がり、まばゆい光の中で四方へと散らばっていった。トネルは青い光の中で素早すばやく後ろへと飛びのき、自らの魔法に巻き込まれないよう、大きく距離を取った。


「シュー…」


 光が徐々におさまっていき、地面から焼けげたにおいがただよってきた。灰色の雲はいつのまにか姿を消し、青空の奥で白い太陽が輝いていた。


「ダンッ!ガッ!」


 アルは虹色にじいろの光につつまれながら、広い大地の上に何度も打ちつけられた。体の向きを変えながら地面に幾度いくどとなくぶつかり、トネルのいた場所から遠ざかっていた。魔法によって生じたすさまじい衝撃を止める事ができず、攻撃の勢いのままに彼方かなたへと飛ばされていった。


「うおおお!」


 アルはさけび声を上げながら右手を地面につけた。そのまま手に力を込め、飛ばされる体を必死におさえこもうとした。土煙つちけむりが右手からあふれ、虹色にじいろの光にけ入るように勢いよく吸い込まれていった。


「はあっ、はっ…!」


 地面に両膝りょうひざをつきながら、アルの体が停止した。体をおおう光は消え、青い髪には土がついていた。アルは息を切らしながら立ち上がり、けわしい表情で前を向いた。トネルと戦っていた場所は豆粒のように小さくなり、地面から立ちのぼる白いけむりが、空へと細く伸びていた。


(飛ばされた?あんなに遠くから……でも、なんで無事ぶじだったんだ?)


 アルは目を大きく開きながら、じっと前を見つめていた。遠く離れたけむりの方向から、青い点が近づいてきた。


(えっ…?)

 

「ドゴオッ!」


 アルの体が後ろへ吹き飛んだ。両手を伸ばしながら山なりに低く飛ばされ、背中から地面にたたきつけられた。


「うぐっ!」


「やはり、短時間しか使えないようだな!死ぬまでの時間稼じかんかせぎだ!」


 トネルが右手のこぶしにぎりしめながら、アルの目の前に立っていた。黄色い髪はもとに戻り、先の方に黒いすすがついていた。


「ぐうっ…!」


「焼けげろ!」


 右手に青い光を集中させながら、トネルは腕を振りかぶった。


「カアアッ!」


 突如、白い光が辺りをつつみ込んだ。まばゆい光が周囲に広がり、トネルはとっさに目を閉じた。


「ザザッ!」


 マントをにつけた人間がトネルとアルとの間にって入り、アルの体を素早すばやく持ち上げた。閃光せんこうの中で、アルをきかかえたまま後ろへと飛びのき、トネルから大きく距離を取っていた。


「ヒュンッ!」


 着地した方向から、トネルの方へと水色のかたまりが飛んできた。丸みをびた水のかたまりがトネルの体に直撃した。


「ドポンッ!」


 大量の水がトネルの体をらし、下へと落ちきらずに体にまとわりついた。水飴みずあめのように形を保ちながら、トネルの全身にくっつき、体の自由をうばっていった。白い光が消え、かわいた大地が地平のてへと広がっていた。


「なんだ?いったい……」


「まったく、世話(せわ)の焼けるやつだ」


 仰向あおむけにたおれたアルの隣で、リバインが長いライフルを両手で持ちながら、トネルの体へと向けていた。


「リバイン?お前、どうして…」


「フッ。ひさしぶりだな。ちょっと遠出とおでしたくなってな」


 リバインは、黒いライフルをやりのように右手に持ち替え、アルと目を合わせた。肩の上までまっすぐに伸びた銀色の髪が、小さくれ動いていた。アルは素早すばやく立ち上がり、肩についた土を払いながらリバインの隣に並んだ。


「お前はもう少し、げる方法も覚えたほうがいい。なにかと直感的すぎる」


「へっ!わるかったな。けど、助かったぜ。派遣兵はけんへいってやつに志願しがんしたのか?」


「いや、上が開発した新しい飛行艇のテストもねて、ちょっと情報を伝えにな。兵達はおくれてやってくる」


「情報?それだけの為にわざわざ……」


「まあ、色々あってな。シャンリンはテンヨウに残って研究している。それより、あいかわらず、厄介やっかいなやつを相手にしているようだな」


 リバインはライフルの先端せんたんを地面につけながら、前を見つめていた。身動みうごきの取れなくなったトネルが、地面に立ちながらじっと下を向いていた。


国境沿こっきょうぞいではなく、いきなりヘウルーダのそばで戦闘とは。確か、エレグざんの地下で襲ってきたやつか」


「ああ、ゲルニスのやつらだ!早くマリーさんの所に…!」


「何かあったのか?」


「空からとんでもない攻撃が飛んできて、離ればなれに!」


「そうか。確かに、とてつもないザラが街のほうへと動いている……あまり余裕よゆうはなさそうだな」


 リバインはするどい目つきで左に目をやると、すぐに視線を戻した。


「あの程度ていどの魔法、すぐにやぶってくる。おれがやつを引きつけるから、はさちにするぞ!」


「わかった!」


「バチバチッ!」


 トネルの体から青い光があふれ出した。体にまとわりついていた水のかたまりが、雷光と共にはじけ飛んだ。


(スピードでは勝ち目がないな)


 リバインは後ろに飛びのきながら、左手をマントの内側へと入れた。そのまま手を素早すばやく動かし、地面に向かって灰色の玉を投げつけた。


「シュオー…」


 大量のけむりが地面から立ちのぼり、トネルの周囲をおおっていった。辺りは灰色のけむりつつまれ、何も見えなくなっていた。


(ザラが一つ消えた……けむりかくれて仕掛しかけてくる気か)


 トネルは両手のこぶしにぎりながら、周囲のザラを感知していた。 


「ヒュン!」


 丸みをびた物体が、けむりの奥から飛んできた。トネルは左に素早すばやく飛びのき、透明な水のかたまりを避けた。


「ヒュン!ヒュン」


 トネルの動きを予測するかのように、水のたまが次々と飛んできた。トネルは青い光をまとったまま、最小限の動きで攻撃をかわしていた。


(うっとうしい!ザラを消しながらっているのか!卑怯ひきょう真似まねを…!)


 灰色のけむりの中で、トネルは両膝りょうひざを曲げ力をめた。


「バチチッ!」


 青い光をまとったトネルが、弾丸だんがんのように前へと飛び出し、深いけむりの中をっ切った。


「シュオンッ!」


 けむりの一部が拡散し、トネルの目の前に、ライフルをかまえたリバインの姿が現れた。黒いきりが、螺旋らせんを描くようにリバインの体にまとわりついていた。


「ザラをかくしても、軌道きどうでわかる!残念だったな!」


 トネルはリバインのみぞおちにめがけ、右手できを放った。


「シュオー!」


 こぶしがマントにれた瞬間、リバインの体がきりのようにかき消えた。


「なにっ!」


 トネルの頭上で、リバインが黒いきりを体にまとわりつかせながら、大きく跳躍ちょうやくしていた。長いライフルの先端せんたんが、トネルの体へと向けられていた。


(まさか!自分の幻影を作り、おとりに!)


「ドポンッ!」


 トネルの体を水のかたまりがつつみ込んだ。水飴みずあめのように形を保ったまま、両腕から下へとれ下がった。

 

「こんなもの!」


「キイインッ!」


 甲高かんだかい音と共に、アルがトネルのふところにもぐり込み、こしを落として攻撃の態勢を取っていた。右のひじを曲げ、こぶしを強くにぎりながら、手の周りに虹色にじいろの光を集中させていた。


「これだけ近づけば!」


 首飾(くびかざ)りの石を大きく()らしながら、アルは右手できを放った。










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