表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィーネ・クリスタル  作者: 青空ミナト
172/211

超魔法同盟


「ありがとうございます。これで、道筋みちすじは見えました」


 コーデリアはおだやかな笑顔を浮かべながら、光沢こうたくのある机の前に座っていた。絨毯じゅうたんから立ちのぼる透明な炎のまくへと顔を向け、ゆったりとした口調くちょうで会話をしていた。


「参加総数二十七カ国……これほどの規模きぼは、おそらくかつての機械文明の時代までさかのぼらなければ、なかった事でしょう。本当に感謝しております」


「いえ。我が国としても、こうして西側の国々と手を取り合えるのは、よろこばしい事であると思っております。じんなき侵略の意思が大陸全土たいりくぜんどおおいつつある今、我々はけものとしてたがいに食い合うのか、人として調和への道をあゆんでいくのか、ふるいにかけられているといえるでしょう」


 炎のまくから、優しげな少年の声が響いていた。


「そうなのかもしれませんね。二百年前、科学の頂点をきわめた文明が、ほろびの道へと進みかけたように……」


「我々の選択が、今後こんごの世界のすえを左右する事になるのは、まちがいないといえます。たがいに、大変たいへんな時代にめぐり合わせたものですね。これもまた、国をたばねる者に与えられた、試練しれんなのかもしれません。良き時代を作っていけるよう、共に力をくしましょう」


「はい。最後まで、希望の光を追いかけていきたいと思います」


 コーデリアは小さくうなずきながら、炎のまくを見つめていた。


 





「では、おおよその位置はわかっていたと?」


「そういう事になるね」


 リピステスは、薄暗うすぐらい地下の階段を下へと進みながら、グアータと話していた。ウェーブのかかった金色きんいろの髪をらしながら、後ろを歩くグアータの姿を笑顔で見つめていた。


「なぜ動かなかった?クーデターの混乱にじょうじて、動けたはずだ!」


「いや、さすがに一人では限界があってね」


「ハッハッハ!謙遜けんそんぎるな!本気を出せば一個大隊いっこだいたいと渡り合うくらい、わけないだろうに!」


 グアータは背筋を伸ばしながら、自信に満ちた表情で笑っていた。銀色のよろいが、壁にけられたランプの光を受けて輝いていた。


「買いかぶりすぎだよ。ぼくのメインは、情報収集だからね。戦闘はあまり得意とくいじゃない」


「そうか!まあ、おれは別に気にしないが、イルジットの前では謙遜けんそんはひかえる事だ!めた言葉は、挑発ちょうはつと思われるからな!」


「フフッ。そうかもしれないね。きもめいじておくよ」 


 リピステスはうれしそうに笑いながら、長い階段の先を見つめていた。灰色の石にかこまれた通路には、二人のほかに人はなく、無機質むきしつな階段がやみの中へと続いていた。


「一応、具体的な根拠こんきょはあってね。ヘウルーダで仕入しいれた情報によると、かがみへ行くには、かなり厄介やっかいな障害があるみたいなんだ。一人で行っても、おそらく失敗していただろう」


「ほう!そこまでのものなのか?」


「ああ。事前の準備なしでは、レギリアでもきびしいだろう」


「なんと!信じられん!」


「さすがに建国けんこくより受けがれてきた宝となると、一筋縄ひとすじなわではいかないようだ。ぼくも少し、あまく見ていたよ。持つべきものは、たよりになる仲間達……なんてね。まだ日は浅いが、君達との連携れんけいに力をそそいでいきたいと思う」


「うむ!その為の打ち合わせだからな!」


「そうだね。しかし、強大な力による制圧せいあつ、か……フフッ。やはり、り返されるのかもしれないね」 

 

 深緑色ふかみどりいろのマントをらしながら、リピステスは階段の先へと進んでいた。二人は楽しそうに会話をしながら、深いやみの中へと消えていった。







 宮殿の中に作られた広場に、数え切れないほど多くの人間が集まっていた。物資の配布を()つ人々の列とは別に大きな人だかりができ、それぞれがうれしそうな笑顔を浮かべながら、二階に作られたテラスを見つめていた。

 人のれを見下ろすように位置したテラスには、数名の兵士が立っており、背中に手をまわしながら静かに前を向いていた。かわいた青空には白い雲が浮かび、雲間くもまから細い太陽の光が差し込んでいた。


「アル君、ジャガイモがまだみたい!見てきてもらえないかな?」


「わかりました!」


 アルはマリーに向かって返事をすると、右腕でひたいの汗をぬぐいながら、テントの外へと走り出した。人ごみの中を器用にすりけながら、木箱きばこの積み重なった所へと進んでいった。黒い兵服を着た兵士達が箱の周りに立ち、いそがしそうに荷物にもつを下ろしながら、周囲の人間に指示をしていた。


「はあっ、はっ!六号テントです!ジャガイモがまだ届いてないみたいで、確認に来ました!」


「六号テント?ちょっとて!」


 若い兵士が、横長の机に置かれた紙のたばを、素早すばやい動きでめくっていった。

 

「ジャガイモ……チェックがれてるな!わるい、すぐに用意する!」


「はい!はあっ、はっ…」


 アルは背中を曲げながら、何度なんども呼吸をしていた。


「これだ!持っていってくれ!」


「ドサッ!」


 アルのひざが、内側に勢いよくれ曲がった。木箱きばこの重量に体がついていかず、両手で箱を支えながら、必死ひっしに体勢を維持いじしていた。


おもっ!やべっ…!)


「おい、薬草やくそうは今日入ってくるのか?まだ見てないぞ?」


「明日だ!さっき連絡があった!それより、油瓶あぶらびん仕分しわけを手伝ってくれ!」


 兵士達はアルの方には目もくれず、大声で仕事の確認をしていた。アルは体をふるわせながら後ろを向き、マリーのいるテントへと歩き出した。

 背中を後ろにそらしながら、体中からだじゅうでなんとか箱をかかえ、人と人との間を通りけていった。ひたいから汗が流れ、手のこうの血管が浮き上がっていた。


「くあ~!おもぎだろ!これ、ほんとにジャガイモなのかよ?」 

 

「アル君!その箱が?」


「はい!向こうのチェックがれてたみたいです!」 


 アルは、マリーのいるテントの中へと入っていき、四角しかく木箱きばこを勢いよく下ろした。両手で腰をさすりながら、苦しそうに背伸びをしていた。


「く~!やたら重いんですよ!すいません、すぐに動かすんで!」

 

「いや、このままで大丈夫!ちょうどいいタイミングだったね。そろそろ始まるみたいだよ」


 マリーは黄色い髪をらしながら、テントの外へと出ていった。人だかりの向こうには、兵士達の立つテラスが見えていた。


「やった!これで少し休めるぜ!」


「フフッ。朝から動きっぱなしだったからね」


「お、出てきた!」


 アルはマリーの隣に並びながら、目を大きく開いた。広いテラスの奥から、コーデリアがゆっくりと歩いてきていた。


「来た!コーデリア様だ!」


「女王様!」


 広場のあちこちから大きな歓声かんせいが響き、テラスに立つコーデリアへと視線が集まった。作業をしていた兵士達は一斉いっせいに手を止め、背筋を伸ばしながらコーデリアの姿を見つめていた。白いドレスの背中に紫色の髪がかかり、空から差し込む太陽の光が、くすみのないコーデリアのはだを美しく照らしていた。


みなさん、今日はおいそがしい中、この宮殿までお集まりいただき、ありがとうございます」


 コーデリアはおだやかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと話し始めた。広い宮殿に、コーデリアの声が響いていた。 


「本日は、わたくしから皆様に直接お伝えしたい事があり、この場をもうけさせていただきました。どうか、少しの間だけ、わたくしの言葉を聞いてもらえないでしょうか。現在、我が国はゲルニス帝国との間に火種ひだねかかえており、四日後までに国土こくどを明け渡さない場合は、ラウの国への軍事侵攻を開始すると宣告せんこくされています。これは、こちらの意向いこうを無視した、一方的な内容であります」


 広場の中は静まりかえり、全ての人々が、コーデリアの言葉をじっと聞いていた。


あらそいをける為、交渉こうしょうを続けているところではありますが、ゲルニスがわ姿勢しせいはかたくなであり、今後こんごは国境線沿いにおいて、我が国との軍事的な衝突しょうとつが起きる事も予想されます」


「……」


 広場の後ろで、ロンが腕を組みながら、じっと前を見つめていた。


「国民の皆様には大きな不安を与えてしまう事となり、女王として、申し訳なく思っております。すで物資ぶっしの配布をはじめとした、あらゆるそなえを進めているところであり、避難に向けた宮殿施設の開放も、順次行っていく予定です」


 コーデリアは前を見つめながら、静かに息を吸った。


「ご承知しょうちの通り、我が国はギルの国と同盟関係にあり、帝国の一方的な宣告せんこくに対しては、両国の連携れんけいみつにしながら、軍事的行動を視野しや対処たいしょにあたっていきます。それに付随ふずいして、今、この場で、皆さんにお伝えしておきたい事があります」


「サー…」


 おだやかな風が吹き、コーデリアの髪が小さく浮き上がった。


「ラウの国は、ゲルニス帝国への軍事力による牽制けんせいと、魔法技術の共同研究を目的とした広域国家連合体、超魔法同盟ちょうまほうどうめいに参加する事を、ここに宣言せんげんします」


超魔法同盟ちょうまほうどうめい?」


「広域連合だと?どういう事だ?」


 広場の中があわただしくなり、人々の声が大きくなっていった。


「マリーさん、どういう事ですか?」


「これは……」


「二十七カ国の国によって作られるこの連合体は、有事ゆうじさいに国の垣根かきねえた支援を行い、国家の存続をおびやかす敵対勢力に対して、集団的自衛権の行使こうしにあたるものとします。また、平時へいじにおいては、先進的な魔法技術の共同研究を行い、新たなエネルギーげんの開発に力をそそいでいきます」


「軍事同盟…!それも、とんでもない規模きぼの!」 


 マリーはこぶし(にぎ)りしめ、アルの隣で目を見開みひらいていた。


「現在、我が国が同盟をむすんでいる七カ国をふくめ、新たに東側の地域と西側の一部地域にも範囲を拡大し、文化の異なる様々な国々が、この連合体に参加する事になります。その範囲は非常に広く、東に位置するダイダル国も、参加の意思を表明しています」


「ダイダルだと?信じられん!どれだけ距離が…」

 

「その間にある国も、いくつか参加するって事だよな?」


「他の国に利益はあるのかしら?ゲルニスがめてきても、ラウ以外には他人事たにんごととしか…」


 人々の声がどんどん大きくなり、コーデリアの方を向いている者は少なくなっていた。


静粛せいしゅくに!コーデリア女王のお話の途中である!静粛せいしゅくに!」


「ハワード、ありがとう。下がってください。ここは私が……皆さん、突然の発表となり、混乱も大きい事と思います。順を追って説明しますので、もう少しだけ、わたくしの言葉を聞いていただけないでしょうか?」


 コーデリアはりんとした表情で前を見つめていた。広場の中が、少しずつ静かになっていった。


「ありがとうございます……先ほども申し上げました通り、超魔法同盟ちょうまほうどうめい規模きぼは大きく、その範囲だけでいえば、大陸たいりくを西から東へと横断おうだんする形になるでしょう。ラフィーナ国のような中立国をはじめ、同盟に参加しない国も多くありますが、ゲルニス帝国に隣接する主要な国々については、そのほとんどが協力していただける事となりました。

 それぞれの国が、帝国の侵略的行動に対して、強い危機感を(いだ)いているといえるでしょう。今後こんごは国家の尊厳そんげんを守る為、自国が危機にひんしていない場合であっても、同盟国への軍事的な支援をいとわないものとして動いてまいります。

 今回の帝国との一件につきましても、我が国の領土へ侵攻が開始された場合には、同盟に参加する全ての国々が、ラウの国を支援していく形になります。これは、先日、極秘ごくひに行われた会談の中で、すでに決定した内容です」


 コーデリアの声に、少しずつ感情がこもっていった。


「それぞれの国同士には大きな距離がある為、物資ぶっしなどの支援は、なかなかすぐには届かないかもしれません。しかし、多くの国々の協力が、帝国の一方的な行動に対して、強い抑止力よくしりょくになってくれる事はまちがいないでしょう。ラウの国の国土こくどを、決してゲルニス帝国の好きにはさせません」


 ひんのある声が響き渡る中、人々は目を輝かせながら、コーデリアの話をじっと聞いていた。


「また、現在、ラウ・ギル・ダイダルの三国で共同研究を行っている、古代の魔石ませきについても、その概要がいようが少しずつ判明してまいりました。世界各地の遺跡に眠る、強大な魔力をめた石によって、人々が魔法の力に目覚めざめつつある事がわかってきております。

 今後こんごはその研究内容を広い国々で共有し、さらなる研究と解析かいせきを進めていきたいと思います。古代より伝わる、自然にざした無限のエネルギーを復活させる事で、私達を取り巻く貧困ひんこんと格差の問題は、劇的に改善されていく事でしょう」 


「おおっ!すごい!」


「魔法の力が、資源として?」


「コーデリア様!」


「皆さん、希望の光は決して消えてはおりません。調和と友愛ゆうあいちた光あふれる未来は、すぐそこまで来ています。現状、ゲルニス帝国との衝突しょうとつは、けられないものになりつつあります。しかし、みちあやまった帝国の行動を止める事は、世界が一つになる為の、大きな試練しれんなのかもしれません」


 コーデリアの声が大きくなっていった。


「平和の為、へいけんにぎらせる。おろかな女王の言う事など、信用できないかもしれません。それでも、どうかもう少しだけ、わたくしを信じていただけないでしょうか。希望の光をつかむその日まで、わたくしの事を信じていただけないでしょうか。

 日常の生活が大きく変化し、不安や恐怖きょうふが頭をよぎる事もあるでしょう。ですが、長い夜にも、必ず朝陽あさひのぼります。帝国の侵攻を止めた先には、これまでにない、明るい未来が()っています。この難局なんきょくを乗り越え、調和のとれた光輝く世界へと、共にみ出しましょう」


「うわああっ!」


「コーデリア様!」


 広場の中を大きな歓声がつつみ込んでいた。腕を伸ばし、よろこびの声を上げる民衆の姿を、コーデリアは真剣な表情で見つめていた。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ