表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィーネ・クリスタル  作者: 青空ミナト
110/211

人を探して


「はあっ、はっ…」


 アルはひたいに汗をかきながら、傾斜けいしゃのついた坂道を走っていた。地面には四角い形をした赤茶色の石がめられ、広い道の両脇にはたくさんの家が並んでいた。


「え~ほんとだって!」


「どうせ見まちがいだろ?そんな鳥がいたら、大騒おおさわぎになってるぜ」


 前方から、若い男女が楽しそうに会話をしながら坂道を降りてきた。細身の女性が男性の肩をたたき、うれしそうにうなずきながら、アルの横を通り過ぎていった。

 道の左側には黒い車が止まっており、たいらな天井の塗装とそうがはがれ、びた金属が見えていた。


「っと」


 アルは坂道の頂上で立ち止まると、背中をそらしながら空を見上げた。青空の中で、綿飴わたあめのように丸みをびた雲が、風に流されゆっくりと動いていた。


「よし…」


 アルは視線を前へと向けた。まっすぐに伸びた傾斜けいしゃのない道には、両端に無数の屋台が立ち並んでいた。手前の店では大勢の人が足を止め、ざるに盛られた新鮮な魚をうれしそうにながめていた。 


「ザッ!」


 アルは腕を大きく振り、通りの奥へと走り始めた。







こまりましたね……アル君、どこ行ったんだろ」


 マリーは、顔を左右にせわしなく動かしながら、人ごみの中を歩いていた。


「なかなか時間がかかりそうだな。ギルメインの警備兵だと思うが、あちこちにたような大きさのザラがあって、感知しにくい」


 ルーナは眉間みけんにしわを寄せ、腕を組みながらマリーの隣を歩いていた。


「これだけ多いと、探すのも一苦労ひとくろうだな」


「キュウ」


「シロル、アル君がどこにいるかわからない?」


「キュン…」


 シロルは細く伸びた口先を下に向け、尻尾しっぽを左右に振りながら歩いていた。


「われながら気がゆるんでいたな。何かあった時の為に、集合場所でも決めておくべきだった」


 ルーナは人ごみをけ、円の形をした広場の方へと足を進めた。見通しの良い大きな広場には、真ん中の辺りに石でできた時計塔とけいとうが立っていた。白い石が規則正しく積み上げられ、人々の頭上のはるか上の位置に、丸い形をした時計がめ込まれていた。 


「アルのやつ、めずらしくいそいでいたな」


「そうですね。急に走り出して…」


 マリーは時計塔とけいとうの前で立ち止まった。耳にかかった黄色い髪を右手でかき上げると、体を反転させ、高いとうに背中を向けた。

 広場のあちこちには、仲間連れのない人間が一人で立っていた。定期的に時計へと顔を向け、だれかとち合わせをしながら、時刻じこくを確認しているようであった。

 円の形をした広場のはしには、東西南北とうざいなんぼくの四つの位置から広い道が伸びていた。それぞれの道のスタートには、石の地面の上に文字が記されており、方角ほうがくがわかるようになっていた。


「ザラを一つ一つ調べてみますか?」


「そうだな。時間はかかるが…」


「よっと!」


 時計塔とけいとうの上空から、ロンが勢いよく飛び降りてきた。


「ロンさん!あまり街の中を飛び回るのは…」


 ルーナは後ろに一歩下がり、おどろいた様子でロンを見つめていた。


「いや、わるい!勢いあまった!フォッフォッ!」


「アル君、西側の通りにはいないようでした」


「そうか。東のほうもおらんかったぞ。姿をくらましてしまったか」


「私達で、周辺にあるザラを一つずつ感知してみようと思います」


「ふむ。それが一番早いかもしれんな。ルーナよ、おぬしは先に宮殿のほうへ行ってくれんか?」


 ロンは、ねずみ色のローブのふところに手を入れ、小さな袋を取り出した。巾着きんちゃくのような白い袋には口の辺りにひもがついていて、先端の部分がぐるぐるにむすばれていた。


「宮殿へ?」


「アルが、わしらを探して向かっておるかもしれん。一人では中に入れんじゃろうから、念のため警備の兵に、アルの事を伝えておいてくれ」


「わかりました」


「見つからんかったとしても、夕方ゆうがたには一度連絡を入れる。こいつをキーリーに渡しておいてくれ」


室長しつちょうに?なんですか?」


「ダイダルで手に入れた、イカの干物ひものじゃ。以前、酒に合う珍味ちんみを探しておったから、ぴったりじゃと思ってな」


「いや、そんなくだらないもの渡してる場合では……」


「フォッフォッ!貴重きちょうな資料じゃよ!かりのないようにな!よし、行くぞマリー!」


 ロンは大きな声で笑いながら、広場の奥へと歩き出した。 








「はっ、はっ」


 アルは息を切らしながら、人のれの中を懸命けんめいに走っていた。首飾くびかざりの青い石が、アルの呼吸に合わせて上下にれ動いていた。


「よし、今日は特別だ!このオレンジもつけよう!」


「まあ、いいの?」


「お姉さんみたいに綺麗きれいな人の頼みなら、仕方しかたねえさ!」


「フフ。お上手じょうずね」


 野菜を売る店の前で、浅黒あさぐろはだをした男性が、小太こぶとりの女性に向かって力強く話しかけていた。


「今朝取れたばかりの魚だ!早くしないとなくなっちまうよ!」


貴重きちょうなラム肉だ!滅多めったに手に入らないから、見ていってくれ!」 

 

 通りに並ぶ店から、威勢いせいのいい声が響いていた。アルは冷静な表情で周囲を見渡しながら、奥へと進んでいった。


(たぶん、この先の……)


「うう…」


「ん?」


 アルの少し先で、小さな女の子が通りの真ん中に立ち、右目をこすっていた。

 

(子供?)


 女の子は下を向きながらなみだを流し、まぶたが赤くなっていた。緑色の髪が肩の上まで伸び、足首まであるクリーム色のスカートには、数ヶ所にどろがついていた。


(親と、はぐれたのか?)


 アルは走りながら目を細め、少女を見つめていた。


「ぐす…」


(今はいそがないと…)


 アルは少女の横を走りろうとした。 


「おかあさん…」


 アルの耳元で、少女のかぼそい声が聞こえてきた。

 

「ザッ!」


 アルは走りながらスピードを落とし、人ごみの中で立ち止まった。大勢の人間が通りの中をい、いそがしそうに歩く人々の肩が、アルの体に次々とぶつかっていった。


「……」


「うう…」


迷子(まいご)になったのか?」


 アルは少女のところまで戻り、ひざを曲げて地面にしゃがみ込んだ。


「え?」


「おれはアル。お母さんの事、一緒いっしょに探してやるよ」


 アルは少女の肩に手をあて、自信に満ちた表情を浮かべていた。







「あれは……警備のかたみたいです」


 マリーは、銀色のよろいにつけた男性を見つめていた。男性は古びた酒場さかばの前に立ち、腕を組んで辺りを見回していた。腰の右側の部分には、長い剣の入ったさやたずさえられていた。


巡回じゅんかいしておるようじゃな」


「次に行きましょう」


 マリーはシロルの頭を数回なでると、広い通りを歩き出した。辺りには四角い形をした白い建物が立ち並び、奥の方には緑色の木が見えていた。


「しばらく進んだ先で、ザラが動いたり止まったりしています」


「すごいのう。そんな事までわかるとは」


 ロンは左手でひげをさわりながら、マリーの隣を歩いていた。


「アル君にた感じはするけど、少し小さいような気も……」


「ふむ。別人べつじんかもしれんのう」


「あまり、細かい所まではわからないんですけどね」


 マリーは歩きながら、おだやかな笑みを浮かべていた。


「次もちがっていたら、どこかで食事にしましょうか。アル君にはわるいけど…」


「そうじゃな。かなり昼を過ぎてしまった。はらごしらえも必要じゃ」


「大きなザラを感じないので、アル君も、だれかと戦ったりしている訳ではないと思いますから。食べながらも感知はできるので、時間をかけて探してみましょう」


「お、ここにしよう!」


 ロンは道の左側を見つめていた。外に作られた広いスペースに、丸いテーブルとイスがいくつも並べてあった。人々はリラックスした様子でイスに腰かけ、白いテーブルの上に置かれた焼きたてのピザを、うれしそうに口へと運んでいた。


「先に食べていくか?どうせ次も、アルではないじゃろう」


「フフッ。そんな事言うとアル君に怒られますよ。もう少しですから、確認してから食べましょう」


 マリーは楽しそうに笑いながら、大きな木のそばへと足を進めていた。







「この辺りなのか?」

  

「うん…」


「けっこう人がいるなあ」


 アルは幼い少女の手をにぎりながら、時計塔とけいとうのある広場に立っていた。


「朝はここにきたの……」


「戻ってきてるかもしれないって事か。えっと、背中まで緑色の髪が伸びてて、白いスカート……」

 

 アルは少女をつれて歩きながら、時計塔とけいとうの周囲に立っている人間を確認していた。


「いないな」


「おかあさん…」


「あ、白いスカート!でも、髪がちがう!」


 アルの視線の先には、耳の下で髪を短く切りそろえた、金髪の女性が立っていた。


「お、背中まで髪が伸びてるけど、黒い髪か…スカートも赤いし、ちがうな」


「見つからないの?」


「いや~なかなか人が多くてな。もうちょっとで見つかると思うから……」


 アルは広場の中をぐるりと一周しながら、いそがしそうに顔を動かしていた。


「とは言ったものの、こりゃ難しいな…」


 来た時と同じ所まで戻ってくると、アルは少女の手をにぎりながら、広場の中に立ちくしていた。

 

「ここにいるかどうかもわかんないからな。思い切って、大声を出してみるか…」

 

「メイナ!」


 後ろから、若い女性の声が響いてきた。


「え?」


「メイナ!探したのよ!」


 ひざの下まである白いスカートをらしながら、緑色の髪の女性がけ寄ってきた。


「あ!おかあさん!」


 少女は女性のもとへと走り出した。


「おかあさん!!」


「メイナ!よかった……」


 女性は地面に両膝りょうひざをつき、少女の体をきかかえていた。


「へへっ。見つかってよかったな」


「あの、あなたがつれてきてくれたんですか?」


「ああ。迷子(まいご)になってたんだ。じゃあ、おれはこれで…」


って下さい!どこかでおれいを……」


「いや、別にいいよ。実は、ちょっと探してる人がいて。それじゃ!」


「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」


 立ち上がり、深々とお辞儀じぎをする女性に手を振りながら、アルは広場の奥へと走り出した。


「よし、確か北のほうだったな」


 前方から、大勢の人が時計塔とけいとうの方向へと歩いてきていた。


迷子(まいご)……あれ、もしかしておれも、迷子(まいご)になってるんじゃ)


 人のなみがアルの方へと押し寄せてきた。


(しまった。マリーさん達が探してるかも。一度、戻ったほうが……)


 アルは人と人との間をすりけながら、左へと視線を向けた。


「!!」


「スー…」


 人ごみの中で、赤い髪の青年がアルとすれちがった。


「ダッ!」


 アルは立ち止まり、体を反転させた。


「見つけた!」


 アルの右手が青年の肩をつかんだ。


「……」


 青年はゆっくりと振り返った。赤い髪は耳の下まで伸びており、体中を黒いマントで(おお)っていた。 


「やっぱり!」


「お前は……」


「レギリアだな!」


「………まだ生きていたか」


 青年はアルの右手を振り払い、するどい視線を前へと向けた。う人々の中で、二人はじっと見つめあっていた。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ