Epilogue:To be continued
遅く、 短くなりましたが投稿です。
人は人生における過ちを積み上げて、運命と呼ぶ化け物を作り上げる。
Men heap together the mistakes of their lives, and create a monster they call destiny.
ジョン・ホッブス
John Hobbes
歌町 奏の初ライブから一か月が経過した。
探偵、 上田 大輔の回復は順調なようではあるものの、 受けた怪我が怪我だけに、 退院までまだ少し時間がかかるようだ。
しかし、 彼が持つコネクションは相当なものだったらしい。 この一か月の間に、 今回の事件は凄まじい勢いで片づけられていた。
歌町 奏の動画はいつの間にか削除されており、 保存した誰かが転載しようとも、 すぐに消されてしまう。
初ライブでの事件も含めて、 ネット上でちょっとした祭りになるが、 それも少ししたら新しい話題の前に沈静化していった。
情報社会といわれる現代において、 そこまでの影響力を持つ組織。 上田はそんな組織と協力関係にあるという。 その組織の名こそ―――
「ウィルマース財団―――か」
上田から貰った名刺を前後に揺らしながら、 円はひとり呟いた。
それは上田自身の名刺であったが、 裏面には上田の雇い主だという財団の電話番号が記されていた。
アメリカのとある大学に所属していた教授達が、 今の自分達と同じように冒涜的な事件に巻き込まれたのをきっかけに結成されたという組織。 それが上田の雇い主でもあるウィルマース財団だ。
日本での知名度はほとんどないが、 アメリカではちょっとした慈善団体として有名だそうだ。 実際に調べてみたら、 現在も活動しており、 日本語でのホームページもあった。
しかし、 その裏では―――というまるで小説のような真実の一端に円は触れていた。 いや、 今まで遭遇した怪事件も、 質の悪いホラー小説みたいなものだと言えるのだが。
「今まで、 様々な事件に関わり、 解決してきたという君だからこそ、 彼らは力を貸してくれるだろうし、 君自身彼らの力になれるだろう」
名刺を渡しながら、 上田はそう彼女に告げた。 手渡された名刺の裏には、 今回のような事件の対策部署の電話番号が記されている。
向こうからも連絡が来るのだろうか。 そう考えて身構えていたが、 一行に来ない。 どうやら、 こちらから連絡しない限りは向こうもしないつもりらしい。
―――さて、 どうするか。
彼らと協力するメリットは情報の提供といったところか。 今回の件が早々に片付いたのも、 上田の情報があったからだと言っても過言ではない。
一方で、 本来関係ない事件に参加せざるを得ないというデメリットもある。 今回の件で言えば上田自身が当たるだろう。 彼が歌町の件について調べ始めたのは財団からの依頼がきっかけだ。 もしも、 財団からの依頼がなければ、 彼が重傷を負って入院することはなかっただろう。
「せいぜいが協力者ってところにできないかな……」
「なにがだ?」
つい漏れた独り言。 それを聞きつけたのは、 今回序盤しか出番のなかった桜子であった。
いつもの余裕そうな表情を崩さない先輩の様子に「なんでもないですよ」と答えて、 円は名刺を隠すようにポケットに入れた。
それを知ってか知らずか、 作江亜子は質の悪い酔っぱらいのように後輩の肩を組む。
「また、 面倒くさい事件に首を突っ込んだみたいで」
「今度は先輩も呼んであげますから」
「え、 いや、 遠慮しとくわ」
意地悪く語り掛ける先輩に、 意地悪く返す後輩。 思わず真顔で対応してしまった桜子。
一度組んだ肩を外した二人はそのままある女性とすれ違う。
その女性を二人は見覚えがあった。
桜子はゼミ室前の廊下で、 円はライブハウスのカウンターで。
そのことを思い出した二人は「だからどうした」と、 そのことを伝えることなく、 忘れることにした。
そんな二人の、 正確には長身の方の後姿を彼女が睨むように見ているとも知らずに。




