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幻想怪異録  作者: 聖なる写真
7.忘却の“桜”
46/53

6:レストランと百貨店、 そして

 かなり遅れてしまいましたが、 最新話投稿です。

 なんでこんなに遅れたんや……


「ここはまだまともなんだな……」


 そう言いながら、 桜子は先程買ったホットコーヒーを一口だけ飲んだ。

 彼女たちがいる階層はレストラン。 虚ろな目をした客と感情のない人形がウェイターをしている。

 

「この光景を“まとも”って言っていいのかは分からないけどね」

 

 注文した紅茶を半分まで飲んでから、 彩香が呟く。 誰もかれも表情を変えぬまま食事をする様は自分達と同じ人間だとは思えないほどに機械的だ。

 ウェイターの人形も一言さえ話すことなく、 この空間は一行の話し声と、 食事をする音、 食器を動かす音だけが響いている。 その状態をまともだと評するのならば、 確かにこの空間はまともなのだろう。

 

「今までの奴と比べたらまだまともだろう? “黄の印”もこんなに簡単に手に入ったしな」

 

 そう言うと桜子は、 陶器製の受け(ソーサー)を片手で揺らす。 そこには他の三人の受け皿にはなかった“黄の印”が描かれていた。

 彼女達がしたことと言えば、 レストランで飲み物と軽食を注文した程度なので、 他の階層と比べれば確かに楽なことであるのは間違いないだろう。

 同時に不気味であることも間違いはないが。

 そのことを言いたそうにしていた彩香だったが、 何を言うべきか思いつかなかったらしい。 「……それもそうだけどさ」と言うと、 残っていたサンドイッチを口に運んだ。

 

「……それで、 これからどうする?」

「決まってんだろ?」

 

 自身が注文したコーヒーを飲み干して、 円が切り出す。 ただし、 その瞳は次にやるべきことを見出していた。

 それに桜子が自信ありげに応える。 他の二人は黙って彼女の反応を見ていた。

 

「最後に残っている百貨店に行って、 さっさと“黄の印”を回収する。 むしろそれ以外に何かやることあるか?」

 

 挑発するような桜子の言葉。 彼女の言葉に他の三人も同調したようで各々、 「ない」と言うと、 席を立つ。

 次に行くべきは分かる時点で最後のエリア百貨店。

 

「二八〇〇円になります」

「あ、 お金は取るのね……」

「置物じゃなかったんですね……」


エレベーターに戻ろうとしたとき、 レジにいた人形が飲食代を請求する。

巻き込まれてから一度も金銭を払っていなかったので失念していた。


世の中はいつもお金がかかるということを。 そしてそれはこの異空間でも同じことらしい。

後で請求しようと考えながら、 桜子は全員分を支払った。


「桜子パイセン、 ゴチになります!」

「ふざけんな。 後で払えよ」







エレベーターが静かに止まり、 電子音と共に扉が開く。

それは巻き込まれる前から見慣れたいつもの光景であった。

しかし、 扉が開いた先はいつもの光景ではなかった。

内装は酷く乱れていた。 それも、 略奪にあったとか災害にあったとかいうものではない。

空間そのものがねじ曲がっているかのように歪んでいたのだ。 普通に倒壊しそうな棚が崩れずに、 宙に浮いていた。 平衡感覚、 いや、 常識が狂いそうな空間がそこにあった。

一歩、 思い切ってエレベーターから外に出れば、 地面でさえない場所に足が付く。 予想もしなかった場所に地面があり、 バランスを崩すが、 転ばないように持ちこたえた。

そのまま、 数歩ほど前へと歩く。 足が付く空間は、 普通のフロアとあまり変わらないという現象に悩まされながらも、 それ以外に問題がないと判断した円はエレベーター内に待機している四人に「大丈夫だ」と言わんばかりに手を振った。


「え? これ大丈夫なの? これ……」

「うわぁ、 目で見た限りは何もない空間のはずなのに足が付く。 自分の感覚が信じられなくなりそうだな」

「足元はガラスだと無理やり思えばまだ……」


各々似たような感想が口に出る。 そんな三人の感想を「そうだよね」と内心で答えながら、 円はさらに奥へと視線を向ける。

そこには相変わらず自身の常識がおかしくなしそうな歪んだ空間。 そして、 ゾンビのような人影。

オフィスの一件から同じように、 生ける死者がそこにいるのかと判断したが、 ここにいたのは普通の人間達だった。

……正気を失っている姿をはたして普通と言っていいのか分からないが。

意味のあるような言葉を話さずに、 呻くようにヨタヨタと歩くさまはまさにゾンビのようだった。


「まるで、 ブードゥー教のゾンビみたいだな」

「ゾンビそのものの元ネタだっけ? 確か、 薬によって自発的意識を奪って奴隷にするっていう」

「そうそう、 それそれ」


近づいて行っても、 彼らは反応しない。 試しに一人の肩を叩いても、 目の前で手を振っても、 反応しなかった。

他の人にも試してみたが、 結果は同じ。 どうやら、 こちらからの行動に反応しないらしい。 特に危害を加える様子もない。

ひとまず、 自分の感覚がおかしくなりそうなこと以外は特に問題はないと判断した一行は“黄の印”を求めて奥へと歩き出す。

歪んでいる空間と歪んでいない足元、 時折正気を失った者が立てる物音に驚きながら、 奥の方へと足を進めると、 少しずつ空間のゆがみがひどくなっていく。

やがて、 円達の視界に一番奥の光景が映る。


「あれ、 あそこだけ……」


他の三人も同じように気が付いたようだ。 最奥に存在しているその空間は、 歪み切った空間において唯一歪んでいない空間だった。

そこには、 胸元ぐらいの高さのある白い台座があった。 その台座には黒い板のようなものが置かれていた。 スマートフォンと同じくらいの大きさの板が、 トロフィーのように飾られていた。

板に描かれていたのは、 クエスチョンが三つ重なったようなマーク。 “黄の印”だ。

それを視認した瞬間、 四人は台座へと駆け足で近寄っていく。


「あった!」

「これで心当たりがあるところは全て回りましたね」

「……で、 次はどうなるんだ?」

「また放送があるか、 何か変化があるか……」


各々、 感想を述べる一行。 そんなことをしながら、 円が最後の“黄の印”を手にする。


“彼ら”の反応が変わったのはこの瞬間だった。


「黄ィのしいぃルしいいィイぃいぃ」

「しるシぃいイぃい」


先程までまともに反応しなかった人々が一斉にこちらへと正気を失った目で見てきたのだ。 さらに、 各々が“黄の印”を求めるような声を上げながら、 一歩一歩とこちらに近づいてくる。 まるで、 ゾンビ映画に出てくるゾンビのようだ。


「……どうします?」

「出口は一つだけ……なら」


後輩の問いに円は決意を固めたように答える。

そして、 先程手にしたばかりの“黄の印”をズボンの尻ポケットに突っ込むと一気にエレベーター目指して駆け出した。


「ちょっ、 円ぁ!?」

「ついてきて!」


彩香の呼び止める声を聞かずに、 円は走る。 当然のごとく、 “黄の印”を求める狂人達が円に駆け寄っていくが、 その歩みは遅い。

前方を遮れた幸運な、 いや、 不運な者達は、 円の正確な顎への掌打により、 次々と沈んでいく。 繰り出される鋭いフックを止められる者は彼らの中にはいなかったようだ。

そして、 先陣を切る円の後をついていく三人。 不思議なことに、 彼女達を狙おうとする者はいなかった。 彼らの目には円が持っている“黄の印”しか映っていないのかもしれない。

さて、 もしもこれが映画だったのならば、 何かひと悶着あったのかもしれない。 しかし、 彼女達は特に何の問題もなく、 エレベーター前までたどり着くことができた。

狂人達は達は今もなお、 正気を失った表情でこちらへと迫ってくるが、 その歩みは相変わらず遅い。 中には円に倒された同胞に蹴躓いて転んでしまう者もいた。

そして、 最初にたどり着いた円がエレベーターのボタンを押すと、 特に待つこともなく、 エレベーターの扉は開いた。


「早く!」


円がそう叫ぶ。 桜子、 穂村、 彩香の順でエレベーターへと倒れるように入っていく。

最後の彩香が入ってきたタイミングで円はエレベーターの扉を閉めるために、 ボタンを押す。 しかし、 扉が閉まるまでのわずかな時間に正気を失った人の一人がエレベーター内へと手を伸ばす。


「やっば……!」


桜子がそう言うと同時にエレベーターの安全装置が発動し、 扉が開く。 ATMが置かれている階層と同じように桜子が蹴りを放つ、 よりも先に円の拳が狂人の顔面を捕らえた。

吹き飛んだ狂人を尻目に、 エレベーターの扉が閉まる。 そのまま、 次の階層へのボタンを押す前に、 エレベーターが勝手に動き出した。 階層表示はたとえバグを起こしていたとしても本来であれば、 表示されないはずの表示をしていた。

六つある“黄の印”がいつの間にか全て妖しい輝きを放っている。 その光が嫌でも最後の時が近づいているのを教えてくれた。

ゴクリ、 と誰かが息を呑む音が聞こえてくる。 やがて、 軽い、 いつもの電子音と同時に扉が静かに開く。


扉が開いた先は異界だった。 真っ赤な満月が二つ、 いつの間にか消え去ったオーロラに代わって漆黒の空に浮かんでいた。

足元から黄色い水蒸気のような霧が満ちていき、 浮き上がるにつれて青白くぼんやりとした、 もやへと変化していく。 上空から何かの花びらが舞い降りてきており、 幻想的というにはいささか冒涜的過ぎた。

奥には黒い石でできた巨大なピラミッドがそびえ立っていた。 その上部には玉座が据えられていた。 ピラミッドのふもとでは道化師の衣装をまとった男がいる。 烏丸だ。 彼の後ろでは奇妙な仮面をつけた『PLANET』のメンバーが人形のように佇んでいた。

そして、 青白いもやですぐには分からなかったが、 黒いピラミッドの周辺に生えている木々があった。 満開の桜だ。


「ようこそ、 カルコサの宮殿へ」


烏丸が四人を歓迎する。 その様はまさにショーの主催者であった。 彼は一度四人を見ると芝居がかったように話し始める。


「側近の座はもうすぐだ。 そのためには玉座にいらっしゃる黄衣の王を完璧に満足させなくてはならない」

「玉座?」


彩香の問いに烏丸が上を指差す。 いつの間にか黒いピラミッドに据えられていた玉座にはある人物が座っていた。 その人物は黄色いぼろ布をまとっていた。 円達が最初に厳格で見た存在だ。

その背は普通の男性の二倍はある。 ぼろ布のようなローブの下に先のとがった靴を着け、 細い絹の飾りがフードの先から垂れ下がっていた。 時折、 彼に翼があるのかのように見え、 またある時は後光に覆われているようにも見えた。

他に例えようのない威厳をたたえた存在。 烏丸に説明されずとも分かった。 かの存在こそがこの地を支配する王。 『黄衣の王』であると。


「かの天才の偉業を持って、 カルコサに新たな秩序が訪れる。 その時こそ私は王の側近となるのだ!」


烏丸が叫ぶ。 その瞳は完全に狂気に魅入られていた。


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