表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想怪異録  作者: 聖なる写真
3.人形達の楽園
15/53

4:救いと結末


「警察が来る前に簡単に調べられないか?」


 ふと、 桜子が呟いた案を五人は静かに実行に移した。

 刑事である間宮はあまりいい顔をしなかったが、 四人に手袋をつけさせて、 現場を荒らさないように言い含めたあたり、 黙認するつもりらしい。

 そうして、 書斎だけではなく、 人長家を探索し始めた五人。 そのうち、 書斎内の探索を始めた円と彩香は数冊のアルバムを見つけた。

 その中には十歳から十二歳あたりと思われる少女達の裸の写真ばかりが収められていた。 彼自身が撮影したのは間違いないようで、 この書斎を背景にした写真もあった。 そして、 そんなロリコン大歓喜の写真集の中には“彼女”の写真もあった。

 

「“月 九歳 二〇〇二年十一月十二日”……か」

 

 写真に写っている彼女の股からは赤い液体が流されており、 その表情はどう見ても幸福そうには見えない。 未発達の胸を隠すように抱きかかえている三体のリサちゃん人形の服装に円は見覚えがあった。 一昨日、 自身と従妹を襲った人形達が来ていた服装、 そして昨日、 児童相談所で見つけた彼女の作品と瓜二つだった。

 

「おい、 こことは違う住所が書かれたメモがあったぞ。 こことは違う家の間取り図もだ。 ……どうした?」

 

 別の場所を探していた桜子が、 書斎に戻ってくるなり作業の止まっている円の手元を横からのぞき込む。 円が持っているアルバムの中身を知ると、 痛ましい顔で書斎内を見渡す。

 書斎内には精神医学の本だけではなく、 いくつかの賞状や写真、 そして子供用の人形やおもちゃが置かれていた。 お堅い学術書と可愛らしいおもちゃのミスマッチ感が奇妙な調和を生み出している。

 しかし、 この書斎の主の性癖を知ってしまった今では、 可愛らしい人形も、 子供が怪我をしないような工夫がされているおもちゃも、 悍ましい何かにしか感じられない。

 その中で唯一奇妙な石が書斎の上に置かれているのを桜子は見つけた。 特に何か価値があるとは思えない石。 研磨されたわけでもないその石は、 書斎の雰囲気に合っていないように感じられる。 何気なく手に取ってみるが、 別に地質学に詳しいわけでもない彼女はそれが何の石なのか見当もつかなかった。

 

「人長 月はここにはいなかった。 多分別のところに住んでいるんじゃないのか?」

「こっちも特に目に付くものはありませんでした」

 

 他の場所を探していた二人が書斎に集まってきた。 二人は暗い表情になっている円と桜子に疑問を持ったが、 円が何も言わずに持っていたアルバムを差し出すと、 その中身を見て、 彼女達を同じような表情になる。

 一方で、 桜子が見つけたメモと間取り図を見せて、 情報を共有する。 そのうち、 間宮が「後は警察(おれたち)に任せてくれ」と言って、 一一〇番に電話をかけて、 オペレーターと話し始めた。

  「警察が事件に遭遇したらまず、 一一〇番するってのは本当だったんだなー」と石を机の上に戻しながら考えている桜子。 そんな彼女を放置して、 彩香は円に声をかけた。

 

「あの棚の上にあるトランクケースって取れる?」

「取れるけどあれが何か?」

 

 そう言いながらも、 棚の上にあるトランクケースを背伸びしてあっさりと取る円。 「身長高いってうらやましいなぁ」と思いながらも、 彩香は円から受け取ったトランクケースを開ける。

 

「多分、 円満解決にはこれが必要だと思う」

 

 トランクケースの中身。 それは、 床で転がっている人形と同じ服を着たリサちゃん人形だった。

 

 

 

 †

 

 

 

 人長 月は素体の様子を確認した後、 地下への扉の鍵を閉めた。 素体達は起きてから、 また大声で泣きわめいていたのだが、 ようやく泣き疲れてくれたらしい。

 人形は彼女を裏切らない、 傷つけない。 しかし、 本当に大切な人形は彼女を置いてどこかへ行ってしまった。

 だから、 彼女は代わりを求めた。 それで心が満たされないと、 気づいていても、 彼女は求めずにはいられなかったのだ。

 あの日、 久しぶりに父に出会ってから、 頭の中でおかしな声が聞こえるようになった。 一時は、 止まない声とおぞましい夢に悩まされていたのだが、 同時にその声は教えてくれた。 人形の動かし方を、 その原材料を。

 

 それ以降、 彼女は満たされている。

 自身を裏切らない人形(ゆうじん)達。 “材料”さえ手に入れば、 いくらでも作りだせる。 ただ、 これは彼女が求めていたようなものではなかったような気がするのだ。

 そして、 彼女が唯一持つ懸念。 それは頭の中の声だった。

 最近の彼女は虫の羽音と見たことのない悪夢に悩まされていた。 壊れつつある彼女でさえ、 おぞましさを感じる拷問の風景。 拷問を行っている彼女は間違いなく喜びを感じていた。 最近では夜眠るたびに、 あの忌まわしい電気の部屋まで思い出してしまう始末。

 ……何とかしたいと考えていても、 きっとあの時のように誰も助けてはくれないのだろう。 彼女はそう確信していた。

 

「あ、 お邪魔してるね」


 そんな彼女の思考は途切れる。 玄関に見知らぬ少女がいたからだ。


「……誰?」

 

 人長 月は平然と自分の家の中に不法侵入している謎の少女に声をかけた。 彼女の家には地下室があり、 そこには一昨日に誘拐したばかりの少女達が閉じ込められてはいる。 しかし、 目の前にいる少女はその三人ではない。

 知らないうちに人形達が誘拐したのか? それならば無傷で堂々としているのもおかしい。 それに人形達は自分の意思とは関係なく動くことはないはずだ。

 そこまで考えたところで、 彼女が持っているトランクケースに目がいった。彼女はそのトランクケースにどこか見覚えがあるような気がした。

 

「こんにちは、 あ、 初めましてって言った方がいいかな。 あたしは泉 彩香。 こう見えて大学生なんだよ」

「……それで?」

 

 フレンドリーに話しかけてくる侵入者に感情を殺して答える人長。 あの、 トランクケースはなんだったのか……思い出そうとしても、 頭に響く虫の羽ばたきの音で思考が乱される。 彼女が作った人形達が、 彼女の苛立ちに反応したように各部屋から集まってくる。

 

「貴女がお父さんに何をされたか知っているよ」

「お父さんは何も悪くないっ!」

 

 突然告げられた言葉に声を荒げてしまう。 そう、 人長にとって父は絶対の存在。 彼は何も間違っていないのだ。 間違っているとしたらそれは自分の方で……

 主の怒りに反応したのだろう。 人形は次々と武器を構える。 侵入者はたくさんの刃物を向けられても平然としている。

 

「大事な人形を隠されたんでしょ? 意地悪なお父さんだね〜」

「えっ……あれは失くしたって……」

「実は、 お父さんの書斎で見つけたんだ。 これ」

 

 そう言うと、 得意げに掲げたトランクケースのふたを開ける。 そこに入っていたのはかつて、 彼女が持っていた“リサちゃん人形”だ。 自分が頑張って作った服を着ている。 三体中、 一体の人形にはかつて自分が誤ってつけてしまった傷を隠すように貼った絆創膏が彼女の記憶と変わらない位置に貼られていた。

 

「それは……!」

「取り返してきたよ、 キミの為に」

「ああ……!」

 

 中の人形を落とさないように、 トランクケースを床に置き、 手を離す彩香。 侵入者を押しのけるように、 トランクケースに駆け寄ると、 中の人形を取り出し、 壊れ物を扱うかのように慎重に抱きかかえた。

 ああ、 そうだ。 自分はなぜこんな大切なものを忘れていたのだろう。 今まで、 たくさんの人形を集めたが、 満たされなかったのは、 自分が本当の意味で一番大切にしていた物を忘れていたから。

 頭の羽音がうるさく鳴り響く。 だが、 それさえももはや気にならない。

 

「もういいよ、 入ってきて!」

 

 目の前の少女の声、 そして、 複数の足音。 それが聞こえたとたん、 人長 月は意識を失った。

 

 

 

「彩香!」

「……え?」

 

 まだ、 明るいというのにカーテンが全て閉められて、 家の中はとにかく薄暗い。 開いた扉から見える部屋にはごみが散乱し、 それが廊下にまで広がっていた。

 悪臭が漂う廊下を切り抜けて、 ダイニングと思わしき部屋に駆けこんだ円達四人が見たのは、 三体の人形を抱えたまま崩れ落ちる成年女性と、 安堵したようにこちらを見る彩香。 女性と同じように崩れ落ちる武装した人形達。

 そして、 崩れ落ちた女性の耳からぶわりと膨れ上がる鳩ほどの大きさもある蟲だった。 いや、 “それは”蟲といっていいものなのだろうか。 瞼のない大きな目を彩香に向けている“それ”は十本の脚、両先端がくっつきあっている巻きひげ、 半円形で三角形の鱗に覆われている翼を持つ、 どんな図鑑でも見たことのない生物だった。 人の頭に収まりようのないそれは、 間違いなく、 円達の目の前で、 女性―――人長 月の耳からずるりと這い出てきたのだ。

  そのまま、 “それ”は振り向いている彩香の頭目掛けて飛んで行って―――。

 

「危ない!」

 

 とっさに飛び出した円が小柄な彩香の身体を抱きかかえると同時に、 “それ”を蹴り飛ばした。

 

「あっ」

「えっ」

「ちょっ」

「うげっ」

 

 あっけにとられる三人に「やってしまった」と言わんばかりの表情になる円。 彩香は理解が及ばずに、 頭に「? 」を浮かべている。 円の蹴りを受けた蟲はあっさりと壁に叩きつけられ、 緑色の液体を飛び散らせて砕け散った。

 当然のごとく動かなくなった“それ”と後ろに控えていた仲間たちを交互に見て、 円は一息つく。

 

「ヨシ! 」

「何が? 」

 

 混乱からか、 変な事を呟く円に突っ込む桜子。 穂村は倒れた女性の介抱をしている。 そんな四人を尻目に間宮は床に落ちていた鍵を拾うと、 ダイニングの奥へと足を運ぶ。

 郊外にある住宅街から少し離れたところにある一軒家。 裏庭もあり、 周囲の住宅からも少し距離がある。 多少の騒動があったところで周囲が反応するような土地ではなく、 隠れてやましいことを行うには適していると言える場所でもあった。

 娘に与える前から所有していた、 ロリコン野郎のことを考えると、 一体どんな目的があったのだろうか。 あまりにも嫌な考えが脳裏によぎるが、 間宮はそれを無理やり打ち切って、ダイニングの奥へと向かう。

 

 人長 昴の家から持ち出した図面には地下室があった。 そしてその図面にはダイニングの奥から地下室への階段があることが描かれていた。

 図面の通りに存在している階段から地下室へと行くと、 扉が二つあった。 両方とも鉄の扉ではあるが片方からは異臭がしてくる。 扉の隙間から匂いが漏れ出ているのだ。

 異臭がする扉をあえて放置し、 もう一方の扉を開ける。 鍵がかかっていたものの、 月が持っていた鍵を使えばあっさりと扉は開いた。扉を開けた先にいたのは、 薄汚れた三人の少女だった。 三人とも突然やって来た成人男性に怯えており、 三人で固まって縮こまっていた。

 

「……入谷 愛理ちゃん?」

 

 そう声をかければ、 真ん中にいた少女が「……はい」と怯えたような声を出す。 安心したように間宮は懐から警察手帳を取り出す。

 

「助けに来たよ」

 

 間宮がそう言うと、 三人の少女達はタガが外れたように泣き出した。 そして、 助けてくれた刑事さんに勢いよく抱き着く。

 三人の突撃を受けて、 間宮は泣き叫ぶ三人を同時に抱いた。 パッと見た限りでは、 多少の衰弱はあっても、 特に何かされた様子はない。 一応、 病院で見てもらうべきだが、 おそらく大丈夫だろうと安堵のため息をつくと、 そのまま三人が泣き止むまで、 されるがままになっていた。

 三人が泣き止むころには外からは大きな足音が複数響いていた。 先に連絡しておいた応援の警官が来たようだ。

 

「これで、 事件は解決か」

 

 そう、 呟くと、 間宮は再び安堵のため息をついた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ