寒川産業まつりにて
寒川産業祭り。ここの最大の難点は、Qちゃんが車椅子を押せない、ということだ。人波が尽きず、ぶつかる(ぶつける?)危険があるのと、進むのが遅くて皆さんに迷惑がかかるので、Qちゃんに押させるわけにはいかない。
さらに、会場のさむかわ中央公園は広大なのだ。私の身体的負担は眼に見えていた。
それでも、Qちゃんのために、私は出かける。まあ、偉い!というほどのことでもない。
どこまでも続く人波に疲れ切った私に幸せがやってきた。
眼前に広場が現れ、ようやく、空間が少し生まれた。
「Qちゃん、車椅子、押して」と私は言った。
ここまで乗りっぱなしのQちゃん。嫌がったらきつく叱責しようと覚悟したが、黙って降りて、実に素直に押し始めた。良かった。良かった。
しかし、20mも歩かないうちに、5mほど前を歩く私に、私が恥ずかしくなるくらいの、超絶老人とはとっても思えない大声で、「乗りたい、疲れた」とQちゃんは言った。
「まだ、ちょっとしか歩いてないでしょ。もっと歩かないと、足がだめになっちゃうよ」と私。本当は私が休みたいだけなのですが、本音を言うわけにはいかない……。
Qちゃんは、下を向いて、また押し始めた。
アスファルトと違い、ここは草原なうえに、広場だから道があるわけでもなく、さらに地面が凸凹している。だから、押すのに苦労するのだ。だから、替わってほしいのだ。
「Qちゃん、じゃあね、あそこのいっぱいある出店のどこかで自分で好きなもの買ったら、交代。それでいい?」
方針転換。でも、せめて条件をつけないと。無条件での屈服は…………良くない。
コロッケ屋さんまで10m。コロッケ70円。Qちゃんは間違いなく、ここへ行く。安いし近いし、人があまり並んでいないし。早く替わりたければここしかない。
Qちゃん、予想通り、コロッケ屋さんへ。
では、Qちゃん、100円玉です。どうぞ、お買い上げを。
うまく、購入できるか、経過観察。
Qちゃん、コロッケを注文。お金を渡す。
おつりを受け取る。
そして、おつりを肩掛けバッグに入れるのだが、ここで、手間取った。
なかなか、バッグが開かない。ボタンをうまく外せないのだ。
Qちゃん、品物を早く受け取らないと……。
お姉さん、困っているよ。
私は悠長に構える。Qちゃんが困っているのに、笑顔。
他人様が見たら、私は悪人(?)にちがいない。
お姉さんが店から出てくる。Qちゃんは腕をあげて、待っている。
お姉さん、バッグを開ける。Qちゃん、おつりを入れる。
お姉さん、店のたなに置いていたコロッケをQちゃんに渡す。
お姉さん、Qちゃんの手を引いて、こちらにやってきた。
「車いすに乗せてあげてください。私があそこまで押しますから」
お姉さんは舗装された道の方を指さしながら言った。
お姉さんは見ていたのだ。Qちゃんが苦労して車いすを押しているのを。
いえ、あの、お買い物が出来たら、ここで変わるつもりでしたので、お構いなく、などと長口舌する間もなく、あっという間に私の手から車いすを奪ってお姉さんは力いっぱい押し始めた。
Qちゃんは、疾うの昔に車いすに乗っている。
誤解です。お姉さん。
このうえなく佳きお姉さんに、誤解されて………………最悪だ。
ブログ「Qちゃん 103歳 おでかけですよー」より 改稿