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凄い人

 99歳のQちゃんと暮らし始めて、2.3か月くらいが経った頃のことだったと思う。


 発せられた言葉は予想もしないものだった。周囲の人も驚愕した。


「婆さん、降りなよ、歩けるんだろ」


 公園の池一面に咲き誇る菖蒲を納めることを目的に来たのだろうと思われる、カメラを首からかけたお爺さんは言った。私は愕然とした。


「歩けるのに、歩かせない。それじゃあ、婆さんがかわいそうだ」

 攻撃の矛先は私にも向かってきた。否、一番の矛先は私なのだ。

 言葉は辛辣だが、お爺さんの表情は柔らかだった。笑っていた。

 攻撃しているのではない。忠告している……。


 お爺さんはQちゃんの手をとって、車椅子から降ろした。

「ずっと息子さんが押してくれたんだ。ありがたいと思ったら、いくらでも歩けるだろ」

 Qちゃんは何も言わずに愛想笑いをしている。心境は複雑に違いない。

 私は強張ったままだ。何かを言わなければいけないが言葉がみつからない。


「自分で歩けば、いいこともいっぱいあるぞ。好きなところにいけるんだから……」

 お爺さんは、車いすを押し始めたQちゃんの横に寄り添って、語り掛けるようにゆっくり言った。私は二人の後ろを虚ろな気持ちで歩いていた。


「この公園はいつ来ても、いいね。季節の花が絶え間なく咲いている」

 お爺さんは周囲を見回しながらそう言って、私たちのもとを去っていった。


 Qちゃんは結局、お爺さんに何も答えることはなかった。ただ、黙って車いすを押していた。


 世の中には凄い人がいるものです。

 お爺さんのおかげで私もQちゃんも変わることができた。


「疲れた。今度はQちゃん、自分で歩いて」と私は言う。

「そうかい。しようがないねえ」と言いながら、Qちゃんは車いすを降りる。


「介護」について考えさせられ、考えを変えてもらえた一日でした。


 凄い人がいるものです。


  ブログ「Qちゃん 103歳 おでかけですよー」より 改稿



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