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君と出会わなければ

「あぁあああああああああ!!」


無であるはずの私の絶望の叫びが、周囲にこだました。


ーーー…っ!

ーーー…ナ!!


「アナ!!!」


「っ!!」


強い呼声に、ハッと意識が浮上する。

次に感じたのは、じっとりと肌に纏わりつく汗の感覚。

混乱して視線を彷徨わせると、すぐに見つけた愛しい人の顔。


「ルー…さ、ま」


ドキドキと夢の恐怖で早鐘を打つ鼓動を感じながら、ルー様の首に抱きついた。


夢だと分かっていたけど、顔を見て、抱き締めて、やはりさっきのは夢だと再確認する。


「アナ?」


「良かっ…、ルー様、生きて…」


嗚咽の合間に、絞り出すように話す私の背を、ルー様が宥めるようにさする。

ルー様の肩が涙でどんどん湿っていくのを申し訳なく思いながらも、離れることなんてできそうになかった。

それほどまでに、あの夢は私にとって強烈だったのだ。


「アナ、体調は?どこか辛いところがあるの?」


ルー様の心配する声に、ふるふると首を振って答える。


「そう、それなら良かった。

3日も目が覚めなかったんだ」


心配した、と感情を抑えるように掠れた声で話すルー様。

心なしか私の背中に回る腕にギュッと力が込められた。


私もそれに応えるように、ルー様にしがみつく腕に力を込める。


どのくらい、そうしていただろうか。


私の嗚咽がいよいよ小さくなった頃、ふとルー様が腕の力を緩め、私の顔を覗き込んだ。


「落ち着いた?」


優しく問い掛けるルー様に、コクリと頷く。


「心配掛けてごめんなさい」


鼻を啜りながらそう言うと、ルー様はポンポンと私の頭を優しく撫でる。


「あんなことがあったんだ。それに、アナは1番の功労者だからね、疲れて熱が出てもおかしくない。

でもね、アナ。無理は良くない。」


少しだけ、ルー様の声のトーンが下がった。


「魔空間に取り込まれた時、私を置いてアナが消えた時、屋敷に帰り着いてアナが倒れた時、3度だ。あの短時間で私は3度君を失う恐怖で気が狂うかと思った」


「…ごめんなさい」


ルー様に尋常ではない程心配を掛けたのだと、素直に謝る。


「そう思うなら、もう無理はしないで」


「…以後、気をつけます」


しょんぼりと肩を落とす私を、ルー様はまた優しく抱き込むと、私の肩口に顔を埋めた。


「だけど、感謝もしているよ。

あまり実感はないけど、あれでも親だからね。

ありがとう、アナ」


小さく囁かれたルー様の声には、少しだけ照れが混じっていた。

だけど、私はそれに気づかないふりをして、返事の代わりにルー様を抱き締め返した。


「ーーーそういえば、先程はうなされていたようだったけれど、何か悪い夢でも見たのかい?」


再び心配げなルー様の声が降り注ぐ。


悪夢は話した方がいいんだよ。

そう聞いたのは、前世だったか、今世だったか。

それに、夢の話を聞いて荒唐無稽だとルー様に笑い飛ばして欲しかった。

そんなのありえない、と。


そんな思いから、ポツリポツリと夢の内容を話す。


流石にルー様が飲み込まれた場面を話す時には、引っ込んでいた涙が溢れてきたけれど、それをルー様が優しく拭ってくれた。


全てを話し終えた時、ルー様は顎に手を当て、考え込むように視線を下げた。


「それ、実際あったことだ」


「え!?」


何それ、どういうこと?

食べられたの?

ルー様、アレに食べられちゃったの?


動揺する私。


「あぁ、いや、違うよ。

実際にあったのは、禍々しい黒い塊に襲われそうになったところまで」


懐かしいなぁ、とルー様は目を細める。

いや、そんなに懐かしむほどいい思い出ではないよね?そうだよね?


「あれは、アナと出会ってすぐの出来事だったから、よく覚えてるよ。

黒い塊が私に害意を持って近づいて来た。あぁ、やっと解放される、そう思った時、ふいに君の顔が浮かんだんだ。でもこれで死んでしまったら、もうあの子には会えないんだ、それは嫌だって思ったら、いつの間にか使役してたんだよね」


「使役…」


どこかで聞いたような…ーーー


「ふふ、引っかかるのそこなの?

そう、その黒い塊っていうのが、ルビィの核になってる魔王の魂だよ」


「!」


可笑しそうに笑って話すルー様の顔を、勢い良く見上げる。

そんな私の様子に、さらに笑みを深めながら、ルー様はしみじみと呟いた。


「うん、そうだね。アナに出会ってなければ、きっと私は無抵抗で魔王に取り込まれていたと思う」


自分でもすごい納得できる結末だ、とルー様は暢気に頷いていた。


私はボー然としながらも、ようやくルー様の死亡フラグがとうの昔に折られていたことを理解した。


「よ…」


「よ?」


「良かったぁあああああああああ!」


勢い良くルー様に抱きついて、2人してベッドの下に落ちたのは、この際置いておくことにしよう。

冷静になった後で、ルー様の発言を思い出して時間差で赤面する私を、尚もおもしろそうに、そして嬉しそうに眺めるルー様の姿があったとかなかったとか。

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