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撃ち抜かれたものは

光が収まり、気がつくと元の王宮の広間へ戻っていた。


あれ、と思う間もなく、温かい腕の中に囚われる。

馴染みのある匂いと温もりに、確信を持って顔を上げると、私の肩口に顔を埋めるルー様の艶めく黒髪が頬を撫でた。


「ルー様…?」


私を抱きしめる腕が微かに震えているのは気のせいだろうか?

私が声をかけると、抱きしめる腕に一層力が篭る。

それほど心配させてしまっただろうことに、申し訳なさと、心配してくれたことへの感謝を込めてルー様の背中へと、私も腕を伸ばした。


「ルー様、心配掛けてごめんなさい」


「…ユリアーナ」


「っ!」


ずきゅーーーーん。

はい、撃たれました。見事に撃ち抜かれました。


何何。ここでまさかのあだ名ではなく名前呼びでこんなに胸を撃ち抜かれるものなの!?

ちょっと心臓止まり掛けたんだけど?

何この破壊力。

ヤバいわ、ヤバいのよ。

これまででさえ、ルー様のあざと可愛さに息根を止められ掛けたけど、いよいよ心臓まで止めにくるなんて。

しかも、その名前呼びの中にきっと無茶した私への怒りとかそれを上回る心配と安堵だとか、ありとあらゆる激情を何とか押さえ込もうとして、妙にハスキーになってる声とか。

それにね、ルー様は私の肩口に顔埋めてんのよ。

ね、想像してみて。

耳元よ、耳元。

もう腰砕きにきてるでしょう?そうでしょう?


自分の内面の反応を整理するのに必死でルー様の声掛けにびくりと反応しただけの私の顔を、ルー様が焦ったように覗き込んできた。


きっと私の体調を気にしてくれたんだと思う。

何なの、優し過ぎでしょう。


眼前いっぱいに広がるイケメンのご尊顔。

先程のパニックで、恐らく私は茹蛸のようにみっともない赤ら顔を晒しているに違いない。

そんな私の顔を目にした瞬間、ルー様は焦ったような表情から一転して、虚をつかれたように表情が緩んだ。


「やっ!」


恥ずかしさにルー様の胸元へ顔を隠そうとする私の顎を、ルー様はがっちりと、それでいて優しくホールドすると、有無を言わさず上へ向けた。


「~~~!」


問答無用で見上げたルー様は、何だかすんごい愛しいものを見るようなとろけ切った瞳で私を見つめていた。


「ル、ルー様…、そ、そんなに見つめられると溶けてしまいそうです…」


幸せすぎて辛い。

なんて事。

幸せと辛いってコラボできるの?

初めて知った。


「ユリアーナ」


きゅーーーーーん。

胸の甘い疼きに悶えるとともに、足から力が抜ける。

うん、腰が抜けた。


そんな私を何なく抱き止め、重力なんてさもないかのように軽々と私を抱き上げるルー様は、口の端をニヤリと引き上げた。


「この前のお仕置きより、よほどこちらの方が効果がありそうだね」


か、カッコいい。

いつもの優しい笑顔も大好きだけど、そんな意地悪そうなSっ気のある笑い方も様になるなんて。

恐るべし、イケメン顔力。


それにしても所謂お姫様抱っこ状態は何とも落ち着かない。

何とか抜け出す術はないかと、身悶えして下げた視線の先に、ゆらりと揺れるふわふわの尻尾。

少しずらした視線の先で、ルビィが砂を食べたような顔でこちらを見上げていた。


「我はお主の失踪のせいで命の危険があったのだ。観念してそこに留まっておけ」


うん、ルビィ、魔空間から出た後も話せるようになったのね。

良かった良かった、うん。


そんな話せるようになったルビィのその言葉に、よほど心配を掛けたのだと今更ながらに観念して、体の力を抜いてルー様の胸元へ寄り掛かった。


「まさか息子のラブシーンをこの目で生で観られるとはのぉ」


感慨深そうな声でそう話すのは…ーーー


「カ、ルマ…?」


陛下が震える声でその人の名を呼んだ。


「久しぶりじゃのぉ、陛下」


透けてもない、誰の目にも映る、カルマ様その人が、優然とした笑みと圧倒的な存在感を持ってそこに佇んでいた。


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