魔力いただきました
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ーーー体が重い。
ーーー喉が渇いた。
ーーー寒い。
そんな不快な感覚の合間合間に流れ込む、温かく優しい何か。
それは涙が出そうなほど、愛に溢れていた。
それが何かを知りたくて、重い瞼を持ち上げると、そこにあったのは美しい紅。
自らの手はこれまた温かい大きな手に包まれて、温かくて優しい何かが彼からの魔力なのだとぼんやりと理解する。
「ルー、様…」
これまでにないほど弱々しい声に、自分自身驚く。
呼び掛けられたルー様は、私を安心させるようにふわりと微笑んだ。
「アナ、良かった。目が覚めたんだね」
優しく息を吐くように告げるルー様に、こくりと頷いて応える。
憂いのある表情も様になるなぁ、なんて場違いなことをおもいつつ、目が覚めた以上たくさん聞きたいことはあるけれど、この弱々しい声では、ルー様を心配させてしまうだけだろうと思い、大人しくルー様を見つめるだけに留める。
どことなくルー様が疲労感を滲ませているような気がして、包まれていない方の手で、そっとルー様の頬に手を添えた。
「ルーさ、ま。疲れ、てる?」
私の言葉にルー様は軽く目を見張ると、その端正な口元に苦笑を浮かべて、頬に添えた私の手も優しく包み込んだ。
「君が目覚めたから、それだけで疲れなんてどこかへ行ってしまったよ。
君が目覚めるまでは生きた心地がしなかったけれど」
「…ごめ、なさ…」
とても心配してくれたことが分かるルー様の様子に、申し訳なくて眉尻を下げる。
そんな私の様子に苦笑を深めながら、ルー様は首をゆるりと振った。
「いいよ、もう。こうして目覚めてくれたから。
次、こんなことしたら覚えておいて。
無茶をしたこと、それなりに私は怒っているのだからね」
そんな優しい顔でそう言われても、ちっとも恐くないなと、クスリと笑いが漏れた私に、ルー様は胡乱げな視線を向ける。
「…その様子だと分かっていないね?」
「ふふ、いいえ。分かり、ました」
笑いながら答える私を見て、本当かなと呟くルー様。
「本当です。
でも、また危ない、ときは、ルー様が、助けて、くれるのでしょう?」
そう自信たっぷりに聞いてみると、ルー様は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で私を見つめる。
何だか今日は、いろんなルー様の顔が見られて嬉しいなぁ。
御褒美かな、なんて呑気に思っていた私に、ルー様は不敵な笑みを浮かべた。
「本当に君は…全く分かってないじゃないか。
こうなったら、お仕置きするしかないね」
「…え?」
オシオキ?
おしおき?
お仕置き…!?
脳内変換が上手くいかず、戸惑っている私を横目に、徐々に近づいてくるルー様の顔。
「…え?」
視界いっぱいに広がるルー様。
ポカンとする私の唇に、ルー様の柔らかいそれが重なった。
「!!!」
そう、つまりキス。
つまり口づけ。
つまり接吻。
してやったりというルー様の顔が、少しずつ遠ざかっていくのを呆然と見つめる。
「ふは、顔がとても赤いよ、アナ」
いたずらが成功したように笑うルー様に、誰のせいですか!と言い返したいのに、驚きすぎてパクパク口を動かすだけしかできない。
そんな私に、ルー様は不敵な笑みはそのままに、更に追撃を重ねた。
「ふふ、でもね、アナ?
魔力が安定するまで、ずっと口づけで魔力の供給をしていたから、こんなのかわいいものだよ?」
「!!」
なんですと!!
衝撃的なルー様の発言に、心の中で悲鳴をあげると同時に、とにかく逃げ場が欲しくて、掛け物の中に潜り込んだ。
「言わないでおこうかとも思ったけど、私だけの思い出にするのも勿体ない気がしてね」
勿体ないって何!と心中で絶叫しつつ、その状況を覚えていないことに、ホッとするような、残念なような、複雑な心境を持て余す。
しかし、どちらにしても恥ずかしいことには変わりない。
私の反応を見て、クスクスと笑い続けるルー様が恨めしくて、恥ずかしさで涙が滲む。
でも、お礼を言わなくちゃと勇気を出して掛け物からそっと顔を出した私に、ルー様は困ったように微笑んだ。
「ごめんね、アナ。
そんな顔しないで?
食べたくなっちゃうから」
「!!!だ、ダメ!!」
お礼を言う間もなく力一杯ご遠慮願いながらも、はたとあることに気づいてルー様の名前を呼ぶ。
「ルー様?
口づけは、お仕置きじゃなくて、むしろ、ご褒美…」
そうでしょ?と首を傾げて訴えてみる。
そんな私をあ然と見つめるルー様は、ややあって両手で顔を覆った。
はて、両手では隠せない耳が赤いのは気のせいだろうか?
「もう、アナ…。君には敵わないよ」
何か勝負をしていただろうかと首を傾げる私に、ルー様は分からないならいいんだけどね、と困ったように、それでいて嬉しそうに、私の好きな笑顔で笑った。




