絶対に嫌
「何ですか、今のは?」
アウレスの声が不気味なほど静かに響く。
その問いに答える義理などないし、あいにくと答えも持ち合わせていない私は、力の抜けた足を叱咤しつつ、何とか上体を両腕で支えながら、アウレスを睨み付ける。
「ほぉ、まだそんなに反抗的な目ができるとはね」
ふむ、とアウレスは探るように私を上から下まで舐めるように眺めた。
その視線が気持ち悪過ぎて、これでもかというほど顔をしかめて見せる。
それを見たアウレスが更に気味の悪い笑みを深めた。
「ふふ、面白い。
そうですね、作戦を変更しましょう」
先程まで殺意しか映していなかったアウレスの瞳に、愉悦と情欲の色が混じる。
嫌な予感しかしない。
即刻その口を開けないようにしたいが、如何せん体に力が入らない。
もどかしさに荒れ狂う私の心の内など慮ることなく、アウレスはニタリと笑って言った。
「貴女を私のものにしましょう」
「絶対に嫌!」
間髪入れず拒否をする私に、アウレスは余裕の笑みを浮かべる。
「あなたに拒否権があるとお思いですか?
思い通りに動けない、その体で私を退けられるとでも?」
「あなたと結婚するくらいなら、死んだ方がマシよ!」
「ふふ、相変わらず強情な人ですね。
でもね、いいことを思い付いたのです。
先程の珍しい魔法。あれは実に興味深い。殺すのは勿体ない気がしてきましてね。
そこで閃いたのです。
殺さずに、私のものにしてしまえばいい。
大切に思っているあなたを、私の手で穢されたとなれば、あなたを実質的に喪うのと同等に彼の人の器になるものは、一気にその心を闇へと落とすはず。
それに強情なあなたを無理矢理にでも私のものにするのも、また一興というものでしょう」
「誰が、そう簡単に、あなたの物になんて…!」
なるものか、と思う気持ちに反して、体はどんどん重くなる。
倒れ込むようにして床に沈んだ私を、アウレスがニタリと笑みを浮かべて見下ろした。
「そんな状態で、あなたが私に抵抗できるとでも?
あぁ、でもあなたは暴れ馬ですからね。
火事場のバカ力というものを出されても面倒なので、死なない程度にもう少し魔力を搾り取っておきましょうか」
「な…!うぅっ」
既に少ない魔力を0にならない程度に、じわりじわりと吸いとられる感覚に吐き気がする。
「うぁ…!」
目の前をチカチカと星が飛ぶ。
頭がぐるぐると回って、目を開けていられない。
「い、やだ…」
嫌だ嫌だ嫌だ。
ここで意識を失えば、次に目が覚めたとき私はもうルー様の隣に立つ資格を失っていることは必至。
嫌だ。
嫌だよ、ルー様。
ーーーーー助けて…
一筋の涙が頬を流れる感覚を最後に、私の視界は完全にブラックアウトした。




