大きな愛を胸に
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「…」
お父様の話を聞きながら、隣に座るルー様の左手をきゅっと握る。
それにピクリと反応するルー様。
とても大人びてはいても、ルー様は15歳。
私は12プラス何十α歳。
ここは、精神的大人の私がルー様を支えるのだ。
心の中で決意を固め、拳を握る。
そんな私の顔を、ルー様がひょっこりと覗き込む。
そして、一瞬驚いたように瞳を見開くと、困ったように微笑んだ。
「アナ、顔がすごいことになってるよ」
「ルー様。それはいくらなんでもレディーに失礼です」
ルー様の歯に衣着せぬ物言いに、すかさずそれを指摘する。
「すまない。でも、それ以外に言葉が見つからなくて」
ルー様は苦笑しながら、私が先程握った手を今度はルー様が包み込むように握り直す。
「泣くのをギリギリまで堪えてるって、顔全体で訴えてるから」
その手の温かさに瞳に溜まる涙の量が増す。
だから、更に目に力を入れて唇を真一文字に結び直す。
お父様の話を聞いて、泣いていいのはルー様だけ。
ルー様を差し置いて私が泣いたら、優しいルー様は私を気遣うことを優先して泣けなくなるから。
前世で聞いたことがある。
涙はストレスホルモンを一緒に流してくれるから、泣きたいときには泣いた方がいいんだって。
我慢して溜め込んでたら、いつの間にか心が壊れてしまう。
私の脳裏に、毒を煽るルー様の姿が過る。
そんなの、絶対駄目なんだから!
「ルー様こそ、強がらなくていいんですよ。
私の胸を貸しますので、どうぞ思いの丈をぶつけてください」
両腕を広げてさぁ!と誘う私に、何故かルー様はぎょっとした後、頬を赤らめて私からふいっと目を反らした。
「全く、人の気も知らないで…」
ルー様が何かぼそりと呟いた気がしたが、自分の感情を制御するのに必死で理解することはできなかった。
「何か仰いました?」
聞き返した私に、ルー様は言葉を濁すように、いや、とだけ返す。
「それより、アナは何故泣きそうなの?
それは私に対する同情?それとも、私の母親への憐れみ?」
そう首を傾げるルー様に、抑えていた感情のストッパーがスパーンとどこかへ飛んでいく音が聞こえた。
「…同情?…憐れみ?ルー様、それ本気で言ってますの?
そんな簡単な感情ではありません、舐めないで下さい」
腹の底から唸るように出た声に、ルー様が上体を思わずといった風に仰け反らせる。
「おい、ユリアーナ。目が座って…!」
取り成すように口をはさんでくるお父様を横目で流し見た瞬間、お父様はピタリと口を閉じる。
「いいですか。私は今、新事実に怒髪天を衝く勢いで怒り心頭なんですよ!
まず王妃!あいつ何ほざきやがってんだって話ですよ!生まれたばかりの赤子を祝福できない醜い心の持ち主が、何が国母だ!
鼻の穴に指突っ込んで脳ミソガタガタ言わせたら、もっとマシな考え方できるようになるんじゃねーか試してやろうかあぁん!?
そして、国王!お前ヘタレか!?ヘタレなんだなそうなんだな!
本気でカルマ様を愛してるってんなら、王妃の実家に頼らずとも国を治められる力付けて1人を愛し抜かんかい!どっちにも角が立たないようにって行動するから大事な人も守れねーんだよばーか!ばーか!
そしてカルマ様!何で死んじゃうのよ、生きててよ!会いたかったよ!会ってルー様への愛を語り合いたかったよ!
…それから、ルー様を守ってくれてありがとう。愛してくれてありがとう…うぅ、私、私…」
涙に邪魔されて、それ以上言葉が続かない私を温かい腕が包み込んだ。
子どものように泣きじゃくってーーーいや、子どもなんだけどもーーー、盛大にしゃくりあげながら、私は抱き締めてくれるルー様にしがみつく。
喚きすぎて、泣きすぎて、ぼんやりする頭の中で、きっとルー様は私が感情を吐き出せるように、わざとあんな台詞を言ったんだろうなと思い至る。
本当に同情とか憐れみなのかって悲観的に考えてたら、こんなに優しく抱き締めてくれるはずないもの。
どこまでも優しい人。
「………ルー様」
しゃくりあげる合間で愛しい人の名前を呼ぶ。
ルー様が静かに私の次の言葉を待ってくれているのを感じながら、深呼吸を繰り返して必死に息を整えた。
「私は、絶対に貴方を置いてどこにもいかない。もう要らないって言われるまで、絶対傍に居る」
そう告げた瞬間、私を抱き締める力が強くなった。
「要らないなんて絶対言わない。だから…ーーー」
ーーーずっと傍に居て。
そう答えたルー様の言葉が、少し震えていたように聞こえたのは、きっと私だけではないだろう。
私のものではない温かなものが、私の涙と混じり合って私の頬を伝っていった…ーーー。




