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私の婚約者は

たくさんのブックマークと評価、感想をありがとうございます(*^O^*)

後日、王宮からアラン殿下の婚約者候補から除外されたという通知が家に来た。

もちろん私は大いに喜んだ。が、あくまでも私は、である。

最有力候補と目されていたのにもかかわらず、選考の序盤から外されたという事実に、私に何かとんでもない欠陥があったのだろうと見られるのは当然のことで、伯爵家としての観点から見ると喜んでいられないのが現状である。

案の定、その通達を見た両親は今にも倒れそうなくらい青ざめており、私を見つめる眼差しは戸惑いに揺れていた。

この通達を知った両親はとてつもなく怒り、折檻されることを覚悟していた私は、何の沙汰も下されないことに違和感を覚えた。

だって、考えてもみてほしい。

アラン殿下から婚約破棄されたあと、私は家族からも絶縁され、身売りするまでに身を落とすのだ。

私が身構えるのはしょうがないことだろう。

そんな私の覚悟をよそに、両親の戸惑いの中に憐れみの感情が見えた時には、思わず首を傾げたものだった。

しかし、そんな宙ぶらりんな状態も今日で終わりを告げる。

なぜなら、これから父の書斎へ来るよう言いつけられたから。


この宙ぶらりんな時間をもて余している間、心に決めたことがある。

それは、エロジジイの後妻になるくらいなら、潔く修道院に入ろうと。

評判に傷が付いた私は、まともな人に嫁ぐことができないと踏んでの決意だ。

なにせ父と母はまだ若い。

これからも子作りに励んでもらって、その子に伯爵家を託してもらおう。

そして、私も日本では庶民だっため、ここでの平民の生活にもすぐ馴染めると思う。

ようは、破滅しなければどうとでもなるのだ。


父の書斎の前で、よし、と気合いを入れる。


「お父様、この度は私が至らぬばかりに早々と婚約者候補から除外され、伯爵家に不利益を招いたこと申し訳なく思っております。

このような身ではもう、社交には出られません。

ただの穀潰しになる前に、私、修道院へ参ります。こんな不出来な娘はもういないものと忘れてくださいませ」


ノックに対する父の返事を確認して扉を開き、挨拶もそこそこに頭を垂れて思いの丈をぶちまける。

世の中言ったもん勝ちである。

言ったもん勝ちではあるが、9歳の子どもが言う内容ではないなと、言った後に思い至る。

何せ中身は恐らく9歳プラス何十αである。

前世が何歳まで生きたかは分からないが、平均寿命が80オーバーだったのだ。

きっとそれなりの年は重ねていたと思われる。

そんなことを暢気に考えていた私の上に影が差す。


「そうやって、やはりお前も私から逃げるのか?」


てっきり父だと思っていた影から聞こえて来た、怒りを無理矢理押さえ込んだような男の子の声にパッと顔を上げる。


そこに居たのは、紅色の瞳を怒りに染めたヴィルフェルム殿下、その人だった。


「ヴィルフェルム殿下…?なぜ…?」


なぜ殿下がここにいるのか?

何をそんなに怒っているのか?

全く状況が分からない私は、この状況を理解しているだろう父をキョロキョロと探し、書斎奥の机に困ったような顔をして座る父を見つけた。

父に説明を求めるべく、そちらへ向かおうとした私の手を殿下が痛いほどの力で掴んだ。


「お前はもう既に私の婚約者だ。決して逃がしはしない」


「痛っ…、って、え?」


婚約者?

候補ではなく、決定?

あぁ、それにしても怒った色もまた深みがあっていいわね。

でも、やっぱりこの間のキラキラ輝いた時が一番綺麗だった。


婚約者ということは、これから一緒にいる時間が増えるということで、そうなったらたくさんこの宝石のような瞳を見つめられるってことで。

しかも、攻略対象じゃないから破滅する危険性もないわけで。


「え、何のご褒美ですか…?」


殿下の言葉を理解するにつれて、口元がだらしなく緩んでくるのが止められない。


「…ご褒美?」


先程までの怒りが消えると同時に腕を掴む力も緩み、戸惑ったようなヴィルフェルム殿下がポツリと呟く。


「ご褒美でしょう?だって婚約者ということは、ヴィルフェルム様の瞳を一番近くで見ることができますもの。

…見てもいいのでしょう?」


「…っ、だが先程修道院に行くと…」


不安になって見上げると、ヴィルフェルム殿下は言葉に詰まったように、声を絞り出した。


「だって私、候補から早々に除外されたことで評判に傷が付きましたもの。エロジジイに嫁ぐくらいなら修道院に入りたいと思うのもしょうがないでしょう?」


「エロジジイ…」


呆然とヴィルフェルム殿下が呟く。

あら、言葉が悪かったですわね。

えーっと、何て言えばいいのかしら。


「好色ジジイ?」


「…変わらないだろう」


私の呟きに突っ込む殿下。

しばらく顔を見合わせていた私たちであったが、いつの間にかどちらからともなく笑っていた。

煌めく紅はとても綺麗だった。


「やっぱり私、殿下の瞳が大好きですわ」


ガタン!と音がして振り返ると、父が白目を剥いて椅子から滑り落ちていた。


「お父様!?」


慌てて父に駆け寄る私は、ヴィルフェルム殿下が眩しそうに私を見つめていたことに、残念ながら気付かなかった。

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