これぞまさにクリーンヒット
誤字修正をいただき、ありがとうございますm(_ _)m
ビリッビリビリィッ!!!!
「いやぁぁぁぁぁぁぁ…っうぐぅ!」
悲鳴を上げた刹那、アラン殿下の手が殴り付けるように私の口を荒く塞ぐ。
そして、じんわりと血の味が口の中を満たす。
あまりに荒く塞がれたせいで、唇が切れたのだと気づくのに、衝撃のせいか頭の働きが鈍く、理解するのに時間を要した。
「ふふ、ははははは!
そうだ、お前が私の物になれば、皆戻ってくる。
元々はお前が私の婚約者の第一候補だったのだ。
本来の正しい形に戻るだけのこと」
何かアラン殿下がごちゃごちゃ言ってるけど、いやいやいや、それ私の破滅ルートだから。
そもそもアラン殿下が婚約者なんて、生理的に無理。死んでも無理。
のしつけてヒロインへ差し上げるわ!
って、言ってやりたいのに口を塞がれて、もごもごするしかできない歯痒さに悶えている間にも、アラン殿下の独り言は止まない。
「あんな穢れた存在を、父上も母上もなぜ野放しにしているのだ」
ーーープチン。
「この国の恥晒しめ」
ーーープチン。
「そもそも、あいつはこの世に存在してはいけないのだ」
ーーーブッチーン。
はい、皆様お分かりでしょうか。
ワタクシ、ブチギレマシタ。
と、いうことで。
口が使えないもの。
しょうがないわよね。
私は目的の場所に向かって、大きく足を振り上げた。
「っんがぁぁぁぁあああ!」
全く品のない悲鳴とともに、私を押さえつけていた拘束が弛む。
それと同時に崩れ落ちるアラン殿下。
はい、お察しの通りです。
男性の急所をちょーっと痛めつけてやりました。
えぇ、えぇ、もちろん膝で。
私、中途半端は嫌いなので。
口の端から流れる血を手でグイッと拭う。
あ、しまった。血が口の周りに広がった。
ちょっと見た目がグロッキーになってないかを心配しながら、アラン殿下を見下ろす。
悶絶するアラン殿下の様子が滑稽で、口元がニヤリと歪むのはしょうがない。
「あら、アラン殿下。いかがなさいましたか?
まるで王族には似つかわしくないお声とその無様な格好。それにそれ以前の淑女への暴行。
王族のみならず、男性の風上にも置けませんわね。
ふふ、この国の恥ですわ」
くすくすと嘲笑いながら話す私に憎悪の視線を向けるアラン殿下。
「…っき、さま!よくも…!!ただですむと思うなよ!」
「あら、何ですの?
私に股間を蹴り上げられて痛かったので粛正するとでも言いますの?」
それ、かなり恥ずかしくありませんか?
「そ、それは…」
言外に込めた言葉を感じたのか、アラン殿下はぐっと言葉に詰まる。
あら?
このシチュエーションだけ見ると、私めちゃめちゃ悪役っぽい。
まぁいいか。
「ヴィルフェルム殿下は、絶対にこんなことしませんわ。
何を根拠に自分がヴィルフェルム殿下よりも価値があると勘違いされてるかは概ね察していますが、これだけは申し上げられます」
私は、固定観念で凝り固まったアラン殿下にできるだけ通じるようにと思いを込めて、じっとアラン殿下の目を見つめる。
「人間関係は、価値がある、ないで成り立つような単純なものではありません。
人を思い、大切に接し、苦難をともに乗り越えることで絆は深まるものです。
あなたにそんな経験がありますか?
もう一度、自分の態度を見直された方が良いのでは?」
「…」
アラン殿下は呆然とし、しばしの沈黙が下りる。
動く気配のないアラン殿下を横目に、そろそろ帰ろうかなぁなどと呑気に考えていると、私とアラン殿下を遮るように大きな背中が姿を現した。
それはもう、音もなく、シュッと。
その見覚えのある背中に、ほっと肩の力が抜けるのを感じる。
「お、お前…!どこから!!」
アラン殿下の声からも、私を守るようにして立つこの背中は、きっと彼のものだと確信する。
「ルー様…」
声が心細げに震えるのは、決してぶりっこだからではない。
先程まで乙女の危機だったのだ。
しょうがない。うん。
ルー様が、ちらりと私の様子を目線だけで窺った瞬間、ぶわりと空気が変わるのを感じる。
「ひぃ!」
ルー様から発せられる威圧感と冷気に、アラン殿下から短い悲鳴が上がった。
ヴィルフェルム殿下が私のために怒ってくれていると嬉しく思いながらも、長く続いた緊張で疲弊していたのと、緊張の糸が切れたことで視界がぐるりと揺れる。
「ルー様、わたし…」
もう立っていられない、と最後まで言えたかどうか分からない。
私の背中を温かい腕が支えてくれるのを感じながら、私の意識は真っ黒に塗り潰された。