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8・葛藤


そういえばふと思ったことだが、昨日の夜、スティアの力を借りて魔法を発動させて村を助けた時は、称号とかは手に入らなかった。ひょっとするとまた貰えるかと期待したが、あの効果音も聞こえなかった。

もしかすると『村を助ける』っていう称号は存在してなくて『村人を助ける』って称号はもう取得済みだから何も起こらなかったのかもしれない。今では称号なんてポイントを稼ぐための隠しクエストみたいにしか思っていないが、いつかこれも役に立つ時が来るのだろうか。自分のステータスにも映らないし、そのうち何を取得してるかなんて忘れてしまいそうだ。


ーーーそういえば、今何ポイント貯まってるんだっけ。


不意に思い出しスマホを取り出す。そこそこ賑わう村の中、歩きスマホは気が引けるので近くのベンチに腰を下ろしyamazonを開く。所持ポイントは3200ポイント。そういえばティナたちを助けた時に3000ポイント貰ったんだった。

現状必要なものと言えば雨具や化粧品、それと追加の武器などだろうか。一人暮らしで必要なものならイメージできるが、旅となると難しい。


「えーと、武器か……」


ただの剣や弓ならば換金した後に武器屋で買えばいい。yamazonじゃなきゃ買えない武器をよく吟味する必要がある。

スタンガンとサバイバルナイフはたぶんyamazonでしか買えない。あとは催涙スプレーや警棒、さすまた……。


ーーーいや要らないな。


催涙スプレーはともかく、警棒やさすまたをわざわざポイントで買うことはないだろう。特別な技術や材料が必要になるもの以外はこちらのものでいくらでも代用できる。だとしたら……。


ーーーyamazonに銃なんて売ってるか……?


こちらの世界は魔法が発達している分科学技術の発達はかなり遅れている。見たところ、灯りも火元もそのほとんどか魔法で賄われているようだった。

銃は理解さえしてしまえば機構は単純だ。しかしそれを思い付き、実用レベルまで開発するのはかなりの時間がかかる。前の世界だって、戦国時代から銃自体は存在していたんだから。

ダメで元々だ、とりあえず調べてみる。


『銃』で検索。当然ながら実銃なんて出てこない。銃に関する本とかエアガンとかばかりだ。

ならば次は『実銃』で検索。やはり出てこない。というかよくよく考えればyamazonにあるってことは本家にもある、つまり誰でも買えるってこと。そんなんだったら日本もとっくにアメリカチックになってるはずだ。

それよりももっと、安全性と実用性のバランスが取れたものはないか……。


ーーーあ。思い付いた。


あるかもしれない。この世界にはおそらく存在せず、yamazonにラインナップがあり、なおかつ俺が扱える武器として成立するもの。


「お、やっぱりあるな」


『クロスボウ』だ。『ボウガン』でも同じような商品が検索結果で出てきた。競技用や狩猟用という注意書きがあるあたり実用性は十分にあるはず。80ポンドとか言われてもよく分からないが、まあそこそこ威力ありますよってことだろう。

その中でもデザインが良さそうなひとつをタップしてみる。値段は2500ポイント。今まで買ったものと比べればなかなかする。


思ったことがある。このポイントは極力yamazonでの買い物に使って、換金は避けた方がいいということだ。最初は1ポイントあたり1円くらいの感覚の認識だったが、yamazonの商品を見るとこの世界の通貨との換金はあまり効率的ではない。だったらyamazonで役に立つ物を購入し、ギルドの依頼をこなして金を稼ぐ方が良さそうだ。


さて、とりあえず今はクロスボウを買うかどうかだ。何か起きてからでは遅いという俺と、無駄遣いは避けるべきだという俺が頭の中で戦っている。

魔法を使えるのだから戦闘で攻撃手段に困ることはない、たとえ攻撃が通じなくとも防御力が振り切れているのだから死ぬことは無い。買うこと否定派の俺が言う。

遠距離での攻撃手段が魔法では不安定で、そもそも魔法を上手く扱える保証はまだない。それよりは殺傷性の有無も調整出来る武器を買っておいた方が安全だ。買うこと賛成派の俺が言う。


「うぬぬ……」


迷う。賛成派と否定派の力は拮抗している。どちらにも同じようにメリットがある。

そんな時、新たな俺が現れた。


『クロスボウなんて男のロマンに溢れてるもの、買う一択だろ』


気付いた時には否定派の俺は砕け散り、指は購入ボタンを押していた。所持ポイントは700ポイントに減り、アイテムボックスの中には『クロスボウ』の文字。

瞬間、様々な思いが押し寄せる。爽快感、後悔、ワクワク、不安、その他もろもろ。しかしこの後どうなるかなどまだ分からない。とにかく今は次のことに目を向けよう。


「何か昔もこんなことしてたな……」


葛藤した挙句購入ボタンを押す。見に覚えがありすぎて苦笑いが出る。

立ち上がり、再び村を歩く。


ある程度の生活必需品、思い付く限りの異世界生活必需品は揃った。後は資金稼ぎだ。ギルドとの条件を満たすためにいずれはもっと大きな街へ行く必要がある。そのための資金集めだ。この村の魔力を取り戻したのは俺だが、俺がやったことはフィザさんとエリューシャさんの2人、それとティナたちしか知らない。この村での俺の扱いが特別変わったりもしない。

となればギルドで仕事を探す必要がある。依頼を達成し、ある程度冒険者という職業に慣れつつ資金を集めていけばいい。一度ギルドを出たあと、同じ日にもう一度訪ねるのは些か気が引けるがしょうがない。

俺はギルドに歩を進めた。


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