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6・星降る夜に


魔力とは、大気中に存在する魔素を体内に取り込んだ状態のものを指す。魔力は血液と同じように体内を循環しており、それを集中させることで様々な物質に干渉することが出来る。魔力によって物質に干渉し、それにより起こった事象を魔法と呼ぶ。

魔素は基本的にはどの土地、どの生物にも存在しており、その土地に適切な量の魔素が存在していればその土地を豊かにすると言われている。土地だけでなく魔素を発生させる植物や魔素を溜め込む生物なども確認されており、その用途は様々なものがある。

生物が過剰な魔素を体内に取り込むと『魔力酔い』と言われる症状が発症することがある。魔力酔いの間はアルコール酔いと同じような酩酊感、幸福感に襲われ、魔力の抑制が出来なくなる。最悪の場合、過剰な魔力が体内器官に負荷を与え死に至ることもある。

魔法は主に六つの属性に分類されており、火、水、風、土、光、闇の属性がある。魔法そのものを分類するならば、大きく分けて既に存在する物質を操る魔法とその場に無い物質を発生させる魔法がある。物質を操る魔法を操作魔法、物質を発生させる魔法を創造魔法と呼称しており、創造魔法を使える者は世界でも数少ない。

ごく稀に神や精霊の加護が与えられている者がいる。彼らは通常よりも多くの魔力を持ち、生まれながらにして天性の魔法使いとしての才能を保有していることになる。通常の魔法もさる事ながら、魔法発動時に神もしくは精霊の力を借りることで文字通り神や精霊の力を使うことが出来る。

魔法にも様々な呼称、詠唱が存在しているが、それらはいずれも操作魔法がほとんどであり、想像魔法は文字通り創造される魔法であるため使い手のイメージしだいとなっている。同じ魔法でも魔力量や環境によって効果、効力は大きく異なる。


「なるほどな……」


片っ端からウィキの魔力、魔法関連の項目を読み漁ってだいたいのことが分かった。俺の魔力が高いのは創造神の加護スキルのおかげなんだろう。それとたぶん創造魔法が使える奴が少ないのはそもそもの魔力量が足りない人間がほとんどだからだ。

それと魔力酔いって症状があるあたり、自然回復以外にも魔力を増やす方法はあるらしい。たぶんポーションとかパワースポットとかだと思う。


「お兄さん、いる?」


ふとドアの向こうから声がする。ミナのお姉さんだ。


「ああ、いるよ」


「入って大丈夫?」


「どうぞ」


ドアが開く。酒場も営業を終えたのか、給仕服姿ではなくラフな部屋着のような格好だ。手にはコップがふたつと果実酒のような瓶、それと正方形の小さなサンドウィッチ。


「まだ寝ないなら、夜食でも食べながらお話しない?」


今が何時かは分からないが、息抜きするのも悪くない。ここで追い返すのも気が引ける。


「じゃあ、お言葉に甘えるよ」


「ありがと! あ、そういえば。私はティナ! お兄さんは?」


「俺はユウスケ。ツキシタユウスケ」


「昼間はありがと、ユウスケ! はい葡萄酒」


渡されたグラスには紫色に輝く葡萄酒が注がれている。香り高く、そこそこな高級品に見える。


「どういたしまして」


まずは一口。ティナも飲んでるし、年齢的なものは気にしなくていいはず。


「ん、美味いな」


強い香りにほんの少しの酸味、そして繊細な葡萄の甘み。凄く高級な葡萄ジュースみたいな感じだ。


「でしょー! このお酒、私もお気に入りなの!」


「……」


サンドウィッチの味も申し分ない。ティナの笑顔も見ていて飽きない。

だが。


「その、楽しいか? 俺は自分でもかなり口下手な方だと思うんだけど」


上手く言葉が出ない。気の利いた会話が出来ない。目的があれば何とも思わなかったが、他愛ない、雑談というものができなかった。


「楽しいよ?」


そんな俺の不安を蹴り飛ばすかのようにティナはけろっと答える。


「だってユウスケ、私が喋る度にちゃんと反応してくれるし、笑ってる顔も可愛いし、ご飯美味しそうに食べてくれるし」


「……」


顔が赤く、熱くなる。急な褒め殺しは困る。


「あー、もしかして照れてる?」


「照れてない」


「嘘だー、顔真っ赤~! あはははは!」


「うるせぇ!」


おちょくられるのは気に入らないが、楽しい。誰かと、同年代の誰かとこんな風に話すのは久しぶりだ。


「あー、ユウスケって面白いね」


「褒めてないだろそれ……」


「ね、ユウスケはさ」


ティナが身を寄せてくる。


「好きな人とかいるの?」


「……」


楽しかったのに……。途端にテンプレ展開になりやがって。絶対しないからな。


「いや、いない」


「じゃあさ、私と結婚してよ。きっと楽しいよ?」


「そんな軽々しく決められるもんなのか? ティナにとって結婚ってのは」


何か訳ありなのは間違いない。そしてこれ以上聞くと助けなければならないのは確実だ。

けどここから逃げる方法も思い付かないんだよなぁ……。


「少なくともアイツとするよりは、ユウスケの方がいい」


「アイツって?」


「この村を買い取ろうとしてるケイナール家って貴族の息子」


「ソイツはダメなのか?」


「絶対イヤ。きっと顔だけしか見てないし、アイツらのせいで村の魔力が枯渇してみんな困ってるんだもん」


だったらそこは村のためにティナが嫁ぐのがテンプレなんじゃ……と、絶対に口に出しちゃいけない。たぶん殺される。

思いのほかこの子は強情みたいだ。まあ悪い子じゃないのは分かるが。


「なるほど……じゃあ俺がこの村の魔力を元に戻せばいいんだな」


「えっ」


村を人質代わりにされてるんならそこを何とかすればいい。安直だが、一番手っ取り早い。


「できるの?」


「分からん。まあ何とかするよ」


ティナを無理やり帰す。とりあえず考える時間が欲しい。


まず村の魔力枯渇が人為的なものだったと。そうなると貴族様の方にもそれなりに強い魔法使いがいるってことになる。ショボイ魔法使いなら土地の魔力を集めるなんてしたらパンクして終わりなはずだ。

となれば、この村の魔力を回復させた後に結界魔法みたいな奴を作る必要がある。俺だってずっとこの村にいる気はないし、同じことを繰り返されれば意味が無い。


「まずはステータス開いてっと」


ステータスアプリを開く。


ツキシタユウスケ


レベル 無し

感情 冷静

健康状態 良好


割り振り可能スキルポイント 40P


物理攻撃 10

魔法攻撃 12

物理防御力 241

魔法防御力 240

体力 30

精神力 16

魔力 110


スキル

神眼 レベル1

創造神の加護 レベル4

意志薄弱 レベル2

希望 レベル2




「とりあえずは魔力ステータスの強化と……魔法攻撃力でいいか」


村の魔力回復も結果魔法も攻撃じゃないから攻撃ステータスが必要かどうかは微妙なところだが、回復力が攻撃力ステータスに依存するなんてのはよくある話だ。

魔法攻撃に30ポイント、魔力に10ポイントを振ってアプリを閉じる。


とくに体に違和感などは感じられない。だがアプリを開きなおして確認すると、ステータスはしっかりと反映されている。


「これでいけそうだな」


部屋を出て、そのまま廊下の窓からどうにか屋根上に登る。

一番高い場所に座り、村を見渡す。体内の魔力循環を意識すると、確かに村の魔力は薄くなっているように見える。


目を瞑る。

魔力を全身で感じる。


ーーー爺さん、いきなりで悪いが力を貸してくれ。


両手を広げ、魔力を空に放つイメージで。

星の如く、村中に希望を持って降り注げ。


「星よ、我が魔力を糧としこの土地を癒せ」


意識せずとも、自然と口から言葉が溢れ出た。


『スターダスト・オブ・マナ』


それがこの魔法の名前らしい。

キラキラと光る無数の星が、ゆっくりと村中に降り注いでいく。星は地面に落ちると優しくはじけ、辺りに魔力を振りまいた。村人達も外の明るさを見て外に出てくる。


「星よ、この地に生きとし生けるものを其の力を持って癒せ」


新たな詠唱。星が屋根を通り、壁を通り、ゆっくりと村人に触れる。村人は一瞬光り輝くと、元気な姿を取り戻していく。

魔法に広範囲の治癒効果が付与されたらしい。その中にはティナとミナと母親の姿もあった。


土地が、村が、生き返っていく。光に包まれる幻想的な光景に、初めは戸惑っていた村人たちも歓声を上げた。


「星よ、今一度その力を持って、この地に触れる邪気を祓え」


村の周りを囲うように、光の壁が一瞬現れ、そして消える。恐らくこれで機能するはずだ。神と星の力を借りた結界ならばそうそうのことでは壊されないはず。


俺はこっそりと部屋に戻り、そのままベッドの中で目を閉じた。


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