第4話 マグロナちゃんかわいい
「あーーもうなんなんだろなあいつらぁ・・・」
「ちょっと、行儀悪いよお兄ちゃん」
一連の事件で、疲れた俺は店の椅子の背に全体重を預けぐったりする。
自称宇宙人たちに、少しでもビビってた事にアホらしくなった俺たちは、通じるようになった電話で、開店していることを確かめてから、近所の馴染みの定食屋で昼食をとる事にした。
同じように考える奴はいるらしく、ちらほら通りを歩いている人影はあった。
テーマパーク発言から10分ほど、脳筋男は、如何に自分たちが地球の文化や食べ物、レクリエーションとやらを愛しているかということを喋り続け、遂にはなぜか脱ぎだしたところで部下らしき男たちに制止され、放送は終わった。
具体的な事には何も触れてない。やりたい放題だな。さすが自称宇宙人。
ここまでで分かっている情報は「怪我人が出ていないこと」「官邸や議事堂が占拠されていることは本当」「シュウちゃんの任期は次の選挙まで」ということだけだ。
状況は何も良くなってはいないが、事件発生当初ほどの悲愴感はない。理由は説明したくもない。
「あんな奴らすぐに捕まるんじゃねえのお?警察は何やってんだよ。」
「人質もいるし、簡単に踏み込めないんだよ。きっと」
「本当ビビって損したぜ。」
「やっぱりビビってたんだあ。お兄ちゃん」
「び、び、ビビってへんわ!」
なんだか安心しきった俺たちはいつもの軽口を叩く。
あー、日常っていいなあ。
店には他に3、4人の客がいる。
やはり同様に宇宙人のことを話しているようだった。
妹と喋っているうちに、注文した大盛り天丼を店員が運んできてくれた。
「どもっす。」
「ありがとうございます。」
この店の天丼は名物だ。
米は豆乳を使って炊いているというこだわり。
しっかりと時間を計って揚げた天ぷらの中身は海老、サツマイモ、イカ、青海苔、蓮根、茄子。
それにこの店特製の天つゆがたっぷりかかっている。
おまけで豆腐の入った赤だしの味噌汁もついてくる。
熱いほうじ茶もこのメニューに合う。
「いただきます。」
俺たちは、朝からの疲れを癒すようにじっくりと味わって食べる。
衣はパリッとしててうまいし、海老も甘い。
米も豆乳で炊いてるので程よく甘い。
正に口のなかでハーモニーを奏でている。
存分に天丼を味わった俺たちは、会計を済ませ帰路に着く。
途中で夕飯の食材を買い出したいから、スーパーに寄ることにする。
「ハンバーグの材料買おうぜ。久々に食べたかったんだよなあ、兎彩のハンバーグ」
「もう、こんなとこでやめてよ、お兄ちゃん・・・」
兎彩が少し赤くなり、恥ずかしそうにする。
本当に夕飯にはハンバーグを食べたかったので、おべっかをつかったのだが、逆効果だろうか。
「おっすおっす。にんげんども〜お前らは兄妹でカップルかあ〜〜」
見知った声だ。こんなしょうもないボケをかますのはあいつしかいない。
「まぐろなちゃんの真似やめろ!似てねーわ!」
俺はすかさず突っ込みを入れる。
そう、声の主は小学生からの腐れ縁で俺たちの親友、東雲圭一だ。