第3話 可哀想なシュウちゃん
こいつは何を言ってるんだろう。
首相の名前も覚えてなかった俺は、こいつが地位ある大人だからと言って、こんな突飛もないことを信じたりはしない。
俺たちの戸惑いをよそに首相は続けた。
『今朝の事件に関して、我々閣僚にも、その他関係者にも、怪我人や死傷者は一人も出ておりません。』
やっと、新情報を出しやがった。
こういうのでいいんだよ。
怪我人なくて良かったな。
そんな会話を交わしながら、俺たちはテレビ画面をじっと見つめる。
『今朝方、閣僚会議を開いていたところ、武装した彼らが踏み込んできました。あっという間のことでした。』
『私は毅然として彼らに立ち向かい、こう言いました!』
『誰にも手を出すな!何かするなら、この国の首長たる私からやれ!と・・・』
『オーウ・・・シュウチャーン・・・ウソハイケマセーン』
説明を遮るように、首相より低い声が聞こえてきた。
そうして、声の主がカメラの前に出てきた。
『ホントウハ逆デース。持病ノジガヒドイカラ自分ダケハココカラ帰シテクレト泣イテウンチモラシタノハダレデスカ?』
『なっ・・・何を言うんだね!君は!こんな場でデタラメはやめたまえ!今すぐ訂正したまえ!』
真っ赤になったシュウちゃんが、本気で切れている。
おい、本当に漏らしたのかよ・・・
よく見れば下はジャージだな、おい。
『ワタシウソハキライデース・・・』
『覚えていたまえ!この件が片付いたら君を終身刑にして、更に名誉毀損で訴えてやるからな!』
俺たちは何を見せられているんだ。
もう潮目かと思ったのか、興奮して喚いているシュウちゃんを、テロリスト達は部屋の端っこに連れて行く。
代わって、先ほどの声の男がカメラの前に立つ。
『コンニチハ。ソシテ、ハジメマシテ蓬莱ノ皆サン。ワタシハロワイエ宇宙軍太陽系方面司令官ガタレンコ中将ト申シマース。』
こいつが自称宇宙人か。外人かな。どんな奴かと思ったけど、やはり人間じゃないか。
たどたどしい日本語で、声は低いが、喋り方は朗らかだ。
しかし、でかい。テレビ画面越しでは、はっきりと分からないが、バスケットの高身長選手並みだ。
軍人と名乗っていたが、シャツとジーンズを着ている。
しかし、破れそうなシャツから見える胸板が分厚い。腕もボディビルダーのようだ。とんでもなくガタイがいい。
人相も戦争映画に出てくる歴戦の勇士のように精悍だ。威圧感を抑えてるつもりだろうか、笑みを無理やり浮かべているようで、逆に怖い。
しかし、喋っている内容は頭が悪い。
兎彩を心配して見てみるが、思ったより落ち着いているようだ。
というか、いろいろあって情報が把握出来ないって感じか。
俺もそうだわ。
『アワレナ地球ノミナサーン。ワタシタチハコノ星ヨリハルカニ優レタ文明ト科学力ヲモツロワイエト言ウ星カラヤッテキマシタ!ヨロシクオネガイシマース!』
そう言って、男は恭しく頭を下げる。
『先ホド、シュウチャンガイッタヨウニ今回ノ作戦デハ怪我人モ死傷者モ一人モデテマセーン。シュウチャンノウンチハデマシタガネ』
やめたまえ!という喚き声が聞こえる。シュウちゃんが、また怒っているようだ。
まだこのネタ引っ張るのか。
『我々ハアナタタチトトモダチニナリニキマシタ。喜ンデクダサーイ。我々ガ来タカラニハアナタ達ノハンエイハヤクソクサレタモ同然デース!』
「兎彩、俺なんだか頭が痛い」
「私もだよ、お兄い」
そんな俺たちの頭痛をよそに、脳筋男は喋り続ける。
『アナタ方地球人ハ、オモシロイレクリエーションヲ思イツクノガトテモ得意デスネ。
我々ノ星デハ地球ノレクリエーションガクウゼンノダイブームデス!』
レクリエーション?何のことだろう。
『シカシアナタ達ノ文明レベルハトテモヒクク、モラルニ至ッテハ銀河サイテイレベルノオサルサンデース!』
「なあ、ひょっとすると俺たちはこの馬鹿に思いっきり馬鹿にされてるのか?」
「多分そうだね、お兄い」
『同族ドウシデコロシアイ、センソウスルナド銀河ヒロシトイエドモ、コノ星ダケデース!』
『ヨッテコレカラ、コノ星ハ我々ノ管理トシドウノモト・・・』
『テーマパークトシテ生マレ変ワリマース!』
ああ、もう、なんだかなあ・・・