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第30話 ツリザス攻防戦(前編)

久しぶりの更新です。

遅れがちで済みません。

「お、お待ちください!いくら貴方でも……あの、もし!」


都内のあるビルの一室。憤怒の形相をその色黒の顔に浮かべオールバックの初老の男が秘書らしき女性の制止を振り切り歩みを進めていた。向かうはとある自由党議員の居室だ。

男の名は金田兼造。秘書を1人連れた彼は青筋を立て広い廊下を急いでいた。


「おのれ……カンめ……!裏切りよったな!」


自由党議員カン。彼は北部連合出身でありながら蓬莱国の国会議員となった唯一の人間である。彼にはツリザス諸島占拠事件に関してある嫌疑がかかっていた。

金田はカンの居室の前に到着すると激しくドアをノックすると返事を待たずにノブを掴み押し入った。


「カン!貴様、北に蓬莱軍の情報を売りよったな!この恩知らずめ!」


その男は太々しく執務室の椅子に深く腰掛けていた。


「ノックもせずにご挨拶ですな。金田さん」


カンと呼ばれた男は口からは紫煙を燻らせ歪んだ笑みを浮かべる。

今回の占拠事件は彼が蓬莱海軍の哨戒情報を北に売った為に起こった事件であった。彼は数年前に自由党の重鎮金田に頼み込みその口添えで自由党に入党した、という経緯があった。その恩義に対する答えが北への加担である。金田の怒りは無理もない。


「ふざけるな!貴様なんぞには礼儀など必要ない!いいか数日内に貴様を除名してやるからな!覚悟しておけ!」


金田は声を荒立て机を隔てたカンに詰め寄る。対するカンは余裕の表情だった。


「いいんですか?数少ない北への窓口である私にそんな口を聞いて?まだあなたの国民は我々・・の手の内なのですよ?」


金田は拳を震わせ激昂し机の上の物を全て床にばら撒いた。


「まさか宇宙人と組んで我が国に侵攻してくるとはな!分かってはいたが見下げ果てたクズだな貴様の祖国は!」


「フフ……冷静さを失っているようですね。いいですよ、私はあなたのそんな顔が見たかった」


「覚えていろカン!貴様の国はもはや地球の我が同胞ではない!事が済んだら慈悲など掛けてやらんからな!」


どこまでもふてぶてしいカンを見て話し合いは無駄と判断した金田は足早にその部屋を去っていった。

ビルを出て車に乗り込むと早速金田は秘書に指示を出す。有事に対応する為に一刻も早く軍を動かす必要があるが今は内閣と議会の機能が停止してしまっている。まさにこのタイミングを狙ったテロであった。


「まずは幹部を集めて有事法を見直さねばならん。全員に連絡して……おいなんだあれは」


それはベテランの運転手が思わず車を急停車させたほどの衝撃だった。

金田たちが驚いて見つめる空の先には大きな艦艇のようなものが空を飛んでいたのだった。











「おい、すげえな宇宙船かあれ?空飛んでんぞ特撮か?」


「……本当自重することを知らないねあの宇宙人さんたち」


俺たち兄妹が見つめるテレビ画面には驚くべき光景が流れていた。艦艇が都内の空を飛行しているというまるで映画のワンシーンのような光景だ。宇宙人たちが乗り込み操舵しているらしい。さっきガタレンコとかいう例のアホそうな宇宙人が「ゴアンシンクダサイ!人質ハ我々ガトリモドシマース!」とか言ってガッツポーズを取りその船に乗り込むところが映ってたのでそうなんだろう。

なるほど、奴らはこれに乗って地球にやって来たのか……ってアホか、本当にアホくせえ眺めだわこれ。

ガタレンコのテンションと状況の深刻さに反して見るからに非現実すぎてアホらしくなる。この状況はもうなんかすでに俺の理解の範疇を超えていた。


「皇家が全国レベルの大掛かりなドッキリを仕掛けられてました!ってオチはねえかな」


「ウチらを莫大な予算掛けてからかってどうすんの。苗字はすごいけど私たちごくありふれた一般庶民だよ」


それもそうだよなあ。じゃあマジで艦艇が空を飛んでるのか。


「ガンダ◯とかジェ◯イも持ってんのかなあいつら」


「あ、私ライトセ◯バー見てみたい!」


「ノリノリですね兎彩さん」


奴らは今夜は何をやらかすんだろう。ワクワクしてきたので今夜は夜更かしする事が俺たちの内で暗黙のうちに決定した。


「さて、布団だけ敷いとくか」


「お腹空いたら夜食の準備もあるよ」


SF映画を観るノリで俺たちはリビングに布団を敷き、夜更かしの準備を始めた。

どうせ明日は休校だろう。積みゲーの用意も始めておく。









蓬莱の空を艦艇が飛行するという地球の常識では考えられない事態に人々は様々な反応を見せていた。戸惑い、驚愕、好奇心、期待。

その艦は都心の空を超え、東洋上を飛び僻地に潜んでいた味方の艦艇との合流を果たし問題のツリザス諸島を目指していた。

ガタレンコ師団旗艦ピーシルゲッヒ ・ ベッツナー。艦艇にはロワイエ軍200余名が乗り込み総司令官であるガタレンコが指揮を執っていた。

艦の司令室では士官たちが情報を集積し統合したものを司令官に報告していく。


「黒髭は現在54名の部下を引き連れツリザス諸島の役所に人質を取っています。ヤツは艦艇には100名ほどの部下を残しているようです」


ガタレンコ艦隊は衛星と上空よりの哨戒機により状況と敵勢力の情報は得ていた。


「ナルホド分散シマシタカ。カレラニ呼応シタ北ノ勢力ハドウシテマスカ?」


「北部連合軍は侵攻中の7つの艦からそれぞれ人員を割き、海賊どもと同様ツリザス諸島に150名ほどが上陸しているようです。観測員によると海賊と協調した作戦で動いている模様。今のところ島で目立った乱暴な行為はしていないとのことです」


その報告にガタレンコは満足そうな表情を見せる。


「ソレハヨカッタデス。シカシ時間ヲオケバ状況ハカワリマス。早急ニ脅威ハ排除シマショウ」


「はっ」


「デハココデイイデショウ。敵艦艇ノ座標ヲ計算シテクダサイ」


出発地の都心官邸より約20分。艦隊はみちのく洋上上空でガタレンコの指示によりその動きを停止した。












その黒光りする船体を北蓬莱海上に浮かべるのはエネヴィ海賊団母艦「サヴェシ」。ボンキイギュフは副長にその指揮を任せ自身はツリザス諸島へと上陸していた。

艦艇には副長キレミマーを始めとした人員が残りその留守を守る。ボンキイギュフが地球人の人質を連れ帰ればかなり情勢は有利になる。

あと2、3時間のうちにその人質がやって来ようという時にロワイエ軍の艦艇が蓬莱の街を騒がせ空を駆け北上しているという情報が彼らの元に入ってきた。


「ガタレンコ艦隊ツリザス諸島に向かって北上してきます」


「予想以上に早いな!動きは追っておけ!」


キレミマー達からすればロワイエ軍の動きは予想以上の速さだった。これでは人質を艦に乗せ盾にする時間がない。


「敵艦隊内訳、宙母1、駆逐艦4」


「くそっ来やがれガタレンコ!ここで迎えうってやらあ!」


冷や汗をかきながらもキレミマーは通信機を片手にレーダーの光点を追う。数と艦の性能差を考えると正面戦闘になればエネヴィ海賊団の勝ち目はない。しかしいざとなればツリザス諸島のボスに連絡して奴らに脅しを掛けて貰えばいい。

固唾を呑みその行方を見守るも光点は唐突にその歩みを止める。


「おい、何が起こったんだ?トラブルか?」


「敵艦隊ここより約500キロのみちのく洋上で停止しました。詳細分かりません。哨戒機出しますか?」


敵艦隊に何らかのトラブルが起こったのだろうか。それとも罠か。どちらにせよ海賊たちはこちらから攻め込む必要はない。時間を掛ければ掛けるほど自分たちが有利になるのだ。


「いや、哨戒に出す人的余裕はない。奴らめイモ引いたんだろう。驚かせやがって。その代わりモニターの監視怠るな」


「はい」


キレミマー達は消極的な方針を執り現状維持で対処する事にした。しかしその判断を数分後には後悔することになる。彼らはガタレンコ艦隊の発進を確認した時点ですぐに逃げ出すべきであった。

ロワイエの艦隊がその歩みを止めてから10分、事態は急変した。


「ガタレンコ艦隊から誘導弾の発射確認!目標は我が艦艇と思われます!」


「複数のミサイルの熱源を確認しました!その数6!」


「なにぃ!バカな!この距離から先に撃ってきただとお!もう一度確認しろお!」


「は、はい!しばしお待ちを」


しかし何度確認してもその情報が覆ることはなく、レーダーによる複数の光点は着実に彼らの元に近づいてきていた。


「熱源接近中!このままでは30秒後には我々の艦艇に到達します!副長!ご命令を!」


「あぁクソ!全速で後退しながらばら撒けるもんは全部ばら撒いて撃ち落せ!いいか!当たれば終わりだぞお!」


「は、はい!全艦に通達します!」


亜音速の弾頭はやがて逃げ惑う彼らの目の前に現れた。それは正確に彼らの動きを追いその背を捉えようと迫ってきていた。


「うおお!飛翔物目視出来ます!やはり6つです!」


「うてえええ!撃てる物は全て撃ち出し何としても撃ち落せえぇぇ‼︎」


サヴェシのファランクスが全力で火を吹き、防空ミサイルが次々と吐き出されていく。一つ、また一つと迫るミサイルは空中で轟音を立てその目標に達することなく炎の塊となる。迎え撃つ彼らにそれを数える余裕はなかった。


「あああああ!いいぞ!お前らあともう少しだ!踏ん張れ!」


キレミマーが拳を振り回しながら思わず歓声をあげる。−−−そうあと少しだった


しかし彼の願いも虚しく弾幕の雨を潜り抜けた一つの弾頭がサヴェシのファランクスへと突き刺さった。



−−チュドオオーーン‼︎



凄まじい爆音と衝撃が船内へと響きわたり、船体が地震のように激しく揺さぶられる。


「ギャアアアアアア‼︎」


「チクショウ!なんて地獄だ!」


「消火だ!消火を急げ!なにぼっとしてやがる!急げ!」


艦内に怨嗟と恐怖の声がこだまする。

しかし守る盾を無くした彼らに嘆いている暇は無かった。


最後に残った白い飛翔物は亜音速で空を駆けやがて彼らの横腹を掠めるように自ら爆発した。


再びの衝撃に艦内の煉獄が更に広がる。

消火活動を続ける者、負傷者を抱える者、怒号を撒き散らす者。

しかし彼らに為す術は無かった。


「敵の誘導弾はまだあるか?ダメージどうなってる⁉︎」


衝撃に倒れていたキレミマーが立ち上がり被害を確認する。


「誘導弾はこれで終わりのようです!レーダーに熱源確認できません。しかし先ほどの一撃目でファランクスが完全に破壊されました。現在着弾地を中心に消火作業続いています」


「クソッ‼︎人的被害はどうだ?」


「詳細な人数は確認出来ませんが重軽傷者多数、とのこと。死者の報告は今の所入ってきていません」


「そうか……」


不幸中の幸いであった。というよりこのダメージはロワイエ軍の計算通りであった。彼らはミサイルの火薬量を抑え、着弾地点を計算して放つことでサヴェシを無力化することを狙っていたのだった。


「しかし、2発目のミサイルが我々の足を奪いました。爆発が機関部に甚大なダメージを与え現在航行不能です」


「くそう、修復急げ!今第2波くれば全滅だぞ!」


「は、はい!」


焦り指示を出すキレミマーだがその損傷は直ぐには修復出来そうになかった。


「副長!通信回線にボスからの識別で連絡が!」


「よし!繋げ!俺から状況を伝える!」


ツリザス諸島の人質を盾にすれば奴らもバカスカ撃ってこれないだろう。

そう思いキレミマーは通信デバイスの方へと歩みを進めていった。


「ボス!ボスですか⁉︎たった今我々はガタレンコ艦隊からの誘導弾による攻撃を受けました!機関部と装備に被害甚大です!このままでは撃沈されてしまいます!すぐに奴らに連絡をとりそっちの人質を盾に脅しをかけてください!ボス⁉︎聞いてますかボス⁉︎」


「……」


キレミマーは捲したてるが通信回線からの返事は無かった。

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