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第25話 リゼットさんはトランペット吹き

燻み欠けた煉瓦の壁で覆われた邸宅にガタガタになったアスファルトで塗装された歩道。ひび割れたガラスと無造作な大きな落書きの後はこの街の治安の悪さを物語る。

ここは蓬莱から見て遥かに西方の大陸に存在するヨーロ連邦のある一国のスラム街。

そんなひどく毒々しい街並みに似合わない伸びやかで能天気な音楽が鳴り響いている。

音楽の主である女性が橙色の長い髪を揺らしながらトランペットを吹き鳴らす。街中を闊歩しその後ろを数十人の子供たちがまるで行進のようについてくる様子は、さながら童話の一節の光景のようだ。

音楽を奏でるのはリゼット・チコミーティ大尉。ガタレンコ師団ヨーロ方面軍に属する軍人だ。彼女は地球に来て以来仕事の合間を縫っては本拠の近くのこのスラム街に立ち寄り地元の子供たちと遊ぶのを日課としている。これは母星であるロワイエ星でも続けていた彼女の趣味であり慈善活動でもあった。


♪〜♩〜〜♩♩♪♪〜〜


プップクプーと間延びした曲に合わせてリズム感のある子供たちは体をくねらせながらついてくる。子供たちは彼女の姿を見つけると条件反射のようにその元に近づいてくるようになっていた。僅か2日前にこの地に降り立った彼女であったが、すでにこの地の子供たちの信頼と支持を得ているようだった。


「はーい♩とりあえず演奏はここまで。次はおやつにしましょうね」


リゼット率いる一団が広場に到達すると曲の区切りで演奏を止めいくつかあるテーブルに座る。


「さあさあチルト、お菓子と紅茶を用意してください。人数分お願いしますね」


「はっ」


リゼットの命令に彼女たちの近くを共に歩きながら警護をしていたロワイエ軍の兵士の内の1人が応える。そして通信機を手に取り今の命令を茶と菓子の用意をしている部隊へと伝えた。


「ありがとう!リゼットさん!」


キャッキャとはしゃぎながら子供たちはリゼットにお礼を言う。リゼットの配るお茶菓子はこのスラム街では貴重な栄養源であり、彼女が来るまでは無かった楽しい時間でもあった。

やがてトラックが到着し命を受けた兵士たちがティーセットやお茶菓子を運び出す。それを見て更に子供たちのテンションが上がり歓声が大きくなる。


「ハイハイ。すぐに用意しますからね〜。ケンカしちゃダメですよ?」


はーい、と元気な子供たちの返事が返ってくる。


――――――――――


そんな和やかな団欒を物陰から観察する不穏な一団があった。


「まったく羨ましいガキどもだな」


彼らはこの街のギャングの一つで自分たちの縄張りで騒々しくお祭り騒ぎをしている彼女たちを見逃すはずがなかった。


「ウチュージン?とか言ったか。金になるか?」


「この世に金にならないモノなんてないんだぜ?さっさとまとめて拉致って換金しちまおう」


10人余りからなる一団が各々手に武器を持っている。このスラム街でこんな目立つことをすれば何らかの事件に巻き込まれることは火を見るよりも明らかだった。


「さて、スラム街の治安の悪さをウチュージンのお嬢さまに教えてやるか」


リーダーらしき男が頃合いをみて合図を送ろうとしたその時、バタバタと彼の後ろにいた部下たちが倒れ始めた。

慌ててリーダーは倒れた部下の1人の顔を叩き状態を確かめる。


「おい、お前なに急に寝てやがる?起きろ!」


しかし倒れた部下たちは深い眠りについているようでどんなに揺すろうが殴ろうが起きない。

そうしているうちにバッタバッタと部下たちが倒れていく。

危険を感じた者はその場を逃げ出そうとしたが、そうした者も次々と昏倒していった。


「一体なにが起こって…フッ!」


遂には最後に残ったリーダーらしき男もその場に昏倒して倒れこみギャングの一団は全員が眠りについた。


「状況終了しました。荷物の回収を要請します」


ギャングたちの制圧を知らせる通信。

何もなかったはずの空間から5、6人の兵士が現れる。

ロワイエ軍による光学迷彩で姿を消してからの麻酔弾射撃はまだまだ地球人に対して極めて有効な戦術だった。

このままクスリを抜いて更生プログラムに放り込む手筈である。


『ご苦労さまでした。回収はこちらで行います。そのまま周囲の警戒を続けてください』


「了解しました。では哨戒任務続行します」


兵士たちが通信を終えると再びその姿は周囲の空間に溶け込むように消えていく。


――――――――――


「今日もたくさん釣れたようだ」


「そうか。しかしギャングってのはどこの星にでもいるもんだな」


彼らはこの数日ですでにこの街で50にも上る非合法組織を潰していた。

リゼット大尉直属の部下たちがその哨戒任務の管制を行っている。リゼットがお茶会を開いている間、その周囲を哨戒し、脅威を排除する部隊を展開させるためである。ちなみに彼女と本部には極秘である。


「いずれこのような場所でも哨戒なしであのような茶会やパーティが開けるようになるといいな」


本来このような軍事行動に近いような作戦は本部の許可をとり、リゼット自身にも報告すべきである。


「…はっ!同感であります」


ガタレンコ師団である彼らは地球にあるどの軍事組織よりも、自由で、そして気ままであった。


「では続けてリゼットさんの観察…いや護衛任務を続ける!」


そしてリゼットさんが大好きすぎた。

なかなか予定どおりに更新できなくてすみません。

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