第18話 恐怖のテベムス旅団
大国ベルグランド。この国は経済力、軍事力ともに地球最強の国家として知られている。
もちろんロワイエ軍も事前のリサーチにより、地球侵攻に当たってはこの地が最重要地だと分析していたので、ガタレンコ師団は優秀と言われるテベムス旅団をここに配置していた。
指揮するはバラモハニ・テベムス准将。
彼女は名門テベムス家の才媛にして、地球年齢にして30歳の若さで准将に上り詰めた秀才である。
彼女の指揮するテベムス旅団はガタレンコ師団中でも一、ニを争う戦力と言われ、その力の源泉は彼女の指導力によるものであり、鉄の掟と魂の結束は他の追随を許さない。
本隊である蓬莱方面軍よりも迅速に政治拠点と軍事拠点を占拠し、ほぼベルグランド全域をその支配下に置いていた。もちろんガタレンコ師団の基本戦略である「不殺」を守って。
現時刻から逆算して地球侵攻から40時間足らず。とんでもない手腕であった。
夕日が差し込む大統領執務室で、テーブルを挟む男女。
上座には軍服の上からでもそのスタイルの良さがわかるブロンド褐色の美女が座る。
命令するのに適した凛とした声が部屋に響く。
「素晴らしい。貴様が檄を飛ばせば誰もが右向け、右、だな。さすが地球一の大国ベルグランド。この国の政治システムは迅速かつシステマチックだ」
声の主はバラ准将。この地の制圧を終え、作戦はすでに統治の段階に移ろうとしていた。
「あ、ありがとうございます!」
下座に座るはジョンソン・M・バミューダ大統領。
彼は父親の不動産会社バミューダトライアンを継承し、会社を更に大きくし不動産王となった。
彼の勢いは経済界だけに留まらず、全くオブラートに包まない物言いと、民衆の社会への不安を煽るやり方で人気者となり、遂には2年前の大統領選で勝利し、大統領へと上り詰めたのだった。
バラ准将が書類に目を通しながら紅茶を啜る。
「あとはここの予算だな。もっと増やしていいぞ。その内我々の技術やシステムを提供してやる。」
「いくら感謝しても足りません。閣下の辣腕には敬服するばかりです」
強面で鳴らすバミューダが異星人にへり下っている。民衆には決して見せなかった顔である。これには理由があった。決して民衆には明かせない理由が。
「ところで、だ」
バラ准将の声のトーンが変わる。
「この国の経済は私と私の優秀な部下達が必ず立て直す。だが貴様のせいで地に堕ちた対外的な国の名誉はどうやって回復する?我々としては貴様にはまだその椅子に座っていてもらいたいのだが、このままでは数ヶ月後の中間選挙に勝てんぞ?」
バミューダはトゥイーターと呼ばれるツールで過激な発言を繰り返し、民衆の不安と不満を煽り、国内では熱狂的な支持者を獲得していたが、国外では「変人」「奇人」と敬遠され首脳会談を開催する度に何らかの問題が起きていた。
また、国内にもバミューダアンチは一定数以上存在していた。
「い、いえ、閣下は勘違いなさっています。対外はともかく、私は決して国民の人気が無いわけではないのです。一部の人間が私を激しく中傷しているだけでして・・・」
バミューダが汗を拭う。
「私には熱狂的な支援者がいるのです!次の中間選挙も楽勝ですよ!ご安心を!」
バシィィィィ!!
乾いた音が執務室に響き渡る。
バラ准将がいつの間にか鞭を手にしていた。
「ヒィィィィ!」
「よくもそんな大言壮語を吐けたものだな!おい、これを読んでみろ。」
バラ准将がスマホをずい、とバミューダの顔に近づける。
「こ、これは私の・・・」
「いいから読めェェ!この豚野郎ォ!」
バラの長く美しい指がバミューダの鼻の穴に吸い込まれる。
「プゴォォォォ!読みます!読みますからぁぁぁ!」
准将の激しい責めに怖れをなし、バミューダは鼻をかみ終えると表示されている文字を読み上げる。
『い、移民なんかくそくらえ』
「いいぞ続けろ」
バミューダが読み上げているのは過去に問題となった彼自身のトゥイーターの発言である。彼の幼稚な言葉の数々は世界に衝撃を与えた。
『世界同時株安は××人!お前らのせいだ!』
『貴様ーーー!俺を誰だと思ってるんだ?不動産王のバミューダ様だぞ!』
バミューダは息を切らし、汗を拭う。
「どうした?どんどん読み上げろよ豚!」
ごくり、と唾を飲み込みバミューダは次の一文を勢いよく読み上げる。
『おい!そんな小汚い子供より、俺を先に助けろ!!金ならいくらでもやるぞ!!』
バシィィィィィ!
「ギャアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!」
バラの鞭がバミューダの頬を打った。
これは虐待だろうか?
いや、バミューダの顔をよく見て欲しい。その頬は紅潮し、涙を流しながらも恍惚の表情を浮かべている。
彼は強面の男を演じる裏でSMクラブでそのストレスを発散する趣味があり、そしてそれは重要国家機密であった。
もちろんMのほうだ。彼は極度のマゾヒストであった。
トゥイーターでの暴言や四方構わず喧嘩を仕掛ける癖は、彼の性癖の裏返しだったのだ。
「この糞豚がァァァァ!!汚いのは貴様だ!野生の豚でももっと清潔にしてるぞ⁈クソハゲェェェェ!」
バラがバミューダのヅラをもぎ取る。
その光り輝く頭部が露わになったバミューダは泣き叫ぶ。
「か、返して?ヅラ返して?ウギャァァ⁈」
「無様だなぁ、クソハゲブタ野郎。なんだこの駄文は?中学生の日記か?ん?」
バラはバミューダの手の平を踏みつけながら罵る。
「ち、調子に乗ってたんですぅ・・・か、過激なこと書き込むとみ、みんなが喜ぶから・・・フアアァ!」
「おい、貴様は何だ?言ってみろ」
「べ、ベルグランド第53代大とうりょ・・・ウアアアアァァァァ⁈」
「違うだろ?このハゲェェェェ!もう一度だ!」
「わ、私めは閣下の忠実なる豚でしゅううう!」
「よし、よく出来たな!安心しろ!そして喜べ!これから私が貴様を誰からも愛される立派な豚に育ててやる!たっぷりとなぁ!」
バラは紅潮した顔でそう締めくくった。
いい表情、というのだろうか。
「あ、ありがとうございましゅううううう‼︎」
バミューダが歓喜の涙と魂からの叫びを発する。
彼は完全にロワイエ軍のコントロール下にあった。
いや、調教下にあった。
執務室の外では見張りの兵が2名立哨している。
防音処理は施されていたが、部屋のやり取りは洩れ聞こえていた。
兵士達が雑談を始める。
「・・・俺さあ、地球ドラマの『The West Wing』とか『24』に憧れてたんだ。ここへの配属が決まった時はそりゃもう震えたぜ?」
「・・・そっかあ。今はどうだ?」
「別の意味で震えてる」
「うん、なるほどなあ」
「憧れのホワイトハウスが真っピンクに染まっちまって・・・これじゃピンクハウスじゃねえか」
「泣くなよ」
「俺、落ち着いたら転属願いを出そうと思うんだ。蓬莱方面軍へ」
「・・・マフユさん、いいよな。俺はリゼットさん推しだけど」
彼らは新兵なのでまだまだテベムス旅団への忠誠心が低い。
テベムス旅団は古参であればあるほど結束力と忠誠心が強くなる。
それはバラモハニ・テベムス准将の特殊な育成方針にあったのだ。
兵士達がそんな雑談を交わしているとバンッと執務室の扉が開いた。
「ほう、私の前で他の女の名前を出すとはな」
聞かれていた・・・
兵士達は真っ青になる。
「じ、准将!」
「お勤めご苦労様です!」
「貴様らは新兵か。道理でな、ふむ・・・こちらに来い」
「いや、あの」
「そろそろ交代なんで」
逃げようとする可哀想な新兵達の肩をバラはむずっと掴む。
「遠慮するな。貴様らにもテベムス旅団の魂を叩き込んでやるぞ!」
「た、たしゅけてえええええ!!アァァァァァァァァァァァ⁈」
テベムス旅団の強さ。それは彼女のカリスマ性と魂の結束力によるものであった。
※当小説も戦闘シーンや暴力表現が増えて来たので、どれくらいのラインが該当するのか私には分かりませんが一応今回からR15のカテゴリとさせていただきました。




