第6話 官邸
人々の喧騒に構うことなく、ここ蓬莱国の首都「皇都」に、今日も夜が訪れようとしている。
官邸前は、警察やマスメディア、そして野次馬でごった返していた。
「Keepout」と書かれたバリケードテープの前で、警官隊と記者連中は押し問答を繰り広げている。
スピーカーで注意喚起する警官に、野次馬を押し留める警官隊。
朝からずっと繰り返されてきた光景だ。
首相官邸の一室では、疲れた顔の男がソファに座っていた。
蓬莱国第111代総理大臣原口秀次。
彼は小心者ではあるが、悪人ではない。
軟禁されている他の閣僚の心配や、このテロによって生じる混乱の心配をしていた。
そして、この状況がいつまで続くのか、その先で何が起こるのか、そんなことを思案していた。
彼はテロリストたちが異星人だということは信じていた。確信できる根拠もあった。
だが、どんな武装を持っているか知らないが、こんなことは無茶だ。そういう風にも考えていた。
見たところ、テロリストたちは50余名ほどしかいなかったからだ。
ホワイトハウスや他の国も同様だろうか?
合計で何名いるのだろうか。
「この人数で、しかも世界同時多発テロだと?無茶もいいとこだ・・・」
そうボソリと呟いた時、ノックの音がした。
「・・・入りたまえ」
間をおいて、あの男が入室する。
「シツレイシマス。何カ不便ナコトハアリマセンカ?出来ルコトナライタシマス。」
ガタレンコ中将である。今度は軍服を着ている。
少し考えて、原口は答えた。
「特にないね。電話を貸せと言っても無駄だろう?他の閣僚の皆さんはどうしてる?」
「皆サンオチツイテオラレマスヨ。不調ヲ訴エル方モオラレマセーン」
原口はホッとしたように言う。
「そうか。それならよかった。」
官邸は広い。
多くの居室がある。
捕らわれの閣僚は、一室に1人軟禁されていると、朝から説明は受けている。
首相官邸だけあって、それぞれの部屋には大きなベッドにシャワー付きバスにトイレもある。生活するには困らない。というか、充分である。
「モウスグ女性ノ閣僚ハ解放スル予定デース」
「そうか。ありがとう。」
原口内閣の女性閣僚は1名。
原口の粘り強い交渉で、女性閣僚の解放の約束を取り付けることには成功した。腐っても総理大臣である。
「晩ゴハンモ持ッテキマスカラネ。ナニカリクエストハアリマスカ?」
「特にないよ。それより、君こんな無茶はやめたまえよ。何がしたいか知らんが、成功するはずがないだろう?」
原口は窘めるように言う。
「我が国だけでなく、世界を相手にしてどうするつもりだね?無茶だ・・・」
「心配シテクレテルノデスカ?シュウチャンハヤサシイデスネ。デスガ心配ハムヨウデース」
ガタレンコは笑顔を作りそう答えた。
「・・・そのシュウちゃんというのもやめたまえよ」
「我々ハモウ友達デス。シュウチャンモ私ノコトヲ『セヴァンヌ』モシクハ『ギャーチャン』トヨンデクダサーイ」
「そんな問題じゃないよ君ィ・・・」
シュウちゃんはため息をつく。
「イツカアナタガソウ呼ンデクレル日ヲ待ッテマス!」
そう言うと、ガタレンコは何か問題があれば外に控える衛兵を呼ぶように伝え、退出した。
閣僚の軟禁部屋の前にはそれぞれ衛兵が控えている。
「人質の一部を解放する準備は終わりました。いつでも御指示ください。」
白髪で髭を蓄えた年配の男がガタレンコにこう言った。
彼はサケ・ツリ ・ クーツヌギ少将。
ガタレンコの副官である。
「ゴクロウサマデス。デハ実行シテクダサイ。不備ヤ粗相ノナイヨウニネ。」
「はっ」
サケ少将は人質を解放するデメリットを考慮して、その旨を具申していたが、結局はガタレンコに賛成することにした。
強硬な姿勢は「地球人と友好を結ぶ」という今回の作戦のコンセプトに反するからだ。
サケ少将は通信機を手に取り、命令を下す。
「では、フロイラインをエスコートせよ 繰り返すフロイラインをエスコートせよ」
通信機から命令を受け、軍服を着た金髪の女性が女性閣僚に声をかける。
「では行きましょうか。鈴木さん。」
鈴木と呼ばれた女性閣僚は頷き、立ち上がる。
軍服を着たもう1人の黒髪の女性が鈴木に言う。
「気分はどうですか?もう少しの辛抱ですからね。」
金髪を肩まで伸ばした長身の女性はマフユピュ・イェネン少尉。
黒髪でショートヘアの女性はメオ・ブノフ少尉。
女性閣僚の面倒は彼女たちが見ていた。




