光寅大会決勝
熱い・・・
この夏、俺は光寅スタジアム大会の決勝のマウンドに立っていた。
状況は9回裏ツーアウト一塁。スコアは2-1
俺のチームが勝ち越している。
もう後1人打者を打ち取れば、真紅の優勝旗は俺たちのものだ。
(その後1人が問題だ・・・)
滴る汗を袖で拭い、俺はもう一度ロージンバッグを掴み、サインを確かめた。
捕手の圭一のサインは「アウトローへのスライダー」
ツーナッシングだが、こいつは三球勝負で決めるつもりのようだ。
(この場面にきて始めて意思が合わないな)
今対峙している左の強打者には前の打席でタイムリーを打たれていた。
この4番には球数を使って、じっくりと打ち取りたいと考えていたが少し躊躇した後俺は三球勝負の腹を決めた。
今大会、相棒であり腐れ縁の圭一のリードは冴えまくっていたからだ。
あと一球!
俺はプレートを踏みしめ、ゆっくりといつもの投球モーションに入った。
軸足の右足に体重を乗せ、振りかぶる。
(これでラスト一球だ)
そう気合いを込めて俺はスライダーを投げ込んだ。
そして、リリースの瞬間、感じた。
これはアウトローぎりぎりに決まる。
今大会最高の変化球だ
カキィィィィイン!!!!
だが、この稀代の天才打者は意表を突いたはずの最高の変化球を態勢を崩しながら弾き返した。
相手校の応援団が俄然歓声に湧き上がる。
(打球は)
俺は打球の行方を目で追った。
左中間方向へライナーで伸びていく。
(頼む取ってくれ)
俺はそう念じながら、バックホームに備えホーム方向に走ったが無駄な事だった。
天才打者の打球はそのままライナーでスタンドに突き刺さった。
サヨナラホームランである。
こうして俺の高校3年間の夏は準優勝で終わった。
なんて奴だ。
本当に見事なバッティングだった。
俺はこの打者の名前を一生忘れないだろう。
− 丁嵐醍醐
俺はプロに入るまで、野球を続けるつもりだったし、こいつもプロ入りするだろう。
この時はそう思っていた。
そうあの日が来るまでは。