森の奥の小さな町
「道案内だとこの辺りなんですが‥‥‥」
野を越え、森を抜け、一星にしか聞こえない声の通りに先を行く。なんでも、一星のそばにいる星の子が
ーーコンステレーション町なら、僕行ったことあるよ。道案内任せて!
と言ったので、任せてみることにしたのだ。しかし、そんは星の子も本当に「行ったことがある」だけだったらしく、「あっち」「いや待って、ここを東に向かって歩くんだ」「こっちだっけ」などと、人間2人、広野を翻弄させてしまっている。
「全く、全然分かんないじゃないか。記憶がはっきりしないならはっきりしないと言えばいいだろう」
ーーだってそれは一星が悪いんだよ。昼間にあの町に行こうとするから!
「なんで夜じゃないとダメなんだよ」
ーーあのね、あの町は、1月6日の夜8時に出るオリオン座の下あたりに位置してるの。夜じゃなければ大体の場所が把握できないんだよ。
「それなら、星座早見盤を使えば一件落着だろ」
ーーだって一星、僕が渡した星座早見盤、難しそうだって言って読もうとするのやめたじゃない!
「何? 何で揉めてるの?」
一星が独り言を言っているようにしか聞こえないリゲルは、興味深げに一星に聞いた。
「ああ‥‥‥。町の場所が、1月6日の夜8時に出るオリオン座の下にあるらしいのです」
「おおよその場所なら僕分かるよ」
「え、町の場所知ってるんですか?」
「違うよ。これ見て」
リゲルがポケットから取り出したのは、小さな丸い写真入れのようなものだった。そして、側面のボタンを押すと、そこから立体画像が飛び出した。よく見れば、小さな星座早見盤である。
「1月6日の夜8時の、オリオン座!」
するとどうだ。その星座早見盤は、自動的に指定されたオリオン座を示し、止まったのである。そしてその下あたりに向かって光が伸びていった。
「ちょうどよかった。太陽がまだ東にあるから、そこに背を向けると‥‥‥、ここからまっすぐかぁ。森があるね」
「また抜けるんでしょうか」
「そうみたい。抜けたら出てくる町がそうなんだろうね」
一星は、ふっと深いため息をついて歩き始めた。
森を抜けて、少し歩いた頃には、すでに太陽は真上にあった。そして町も見えてきた。素朴な小さな町だった。
「あれですね。コンステレーション町は」
入り口の古ぼけた看板には、「Constellation City」と英語で書かれてある。
「間違いない。ここだね」
二人はそっと町へと入っていった。
二人は正直、町の人に歓迎されると思っていた。しかし、住人は見当たらなかった。昼間だというのに歩いている人はいない。
「本当にここ?」
「こんにちは」
「わっ」
後ろから声がして、二人は一斉に振り向いた。そこには一人の男性が立っていた。五十代くらいで、少し白髪混じりの、黒縁メガネをかけた男性だった。
「お客さんかい?」
「ええ、まあ」
「ようこそ。コンステレーション町へ。私はベテルギウス。たった一人の住民で、ここの町長さ」