見えない星の子
一星は誰かを家に入れたことがなかった。そうして、同居人のことなどは、出会った人に言ったことがなかったのである。
聞こえる、聞こえる、とキョロキョロしているリゲルを横目に、一星は次の言葉を探していた。そして、
「それは星の子ですよ」
と投げ出すように言った。
「星の子?」
リゲルはじっと次の言葉を待っている。
「いつからかは忘れてしまったんですが、僕と一緒に旅をしている子です。あなたには見えないんですか」
「見えない。声は聞こえるんだ。少しだけ高くて、子供みたいな声をしてる。一星には見えるの?」
「まあ、見えますけど、なんでも恥ずかしがり屋でして。たまに俺しかいないのに、恥ずかしがって姿を見せないことがあるんです」
「今は?」
一星はそっと指を出して指を閉じた。「出てこられる?」、そう一言だけ囁いて待っている。しばらくして何かが指先に触れた。彼が目を開いた時は、頭が黄色い星形をしている妖精だった。小さい手で指をギュッと握りしめていた。
「出てこられたんだね。よかった。リゲルさん、見えますか」
ーーリゲルにはまだ見せないんだ!
高い声でそう言った星の子は、周りをぐるりと回って一星の頭の上にそっと乗った。
「こら、『リゲルさん』じゃないか。彼はゾディアニック王国の王子様なんだから」
「いいよ、一星。一星だって、僕のこと『リゲル』って呼んでいいんだよ。そんなにかしこまらなくても‥‥‥」
「いいえ、リゲルさん。俺は忘れたくないんです。リゲルさんがゾディアニック王国の王子様だってことを。これ以上くだけた口調に変えてしまうと、なんだか忘れてしまいそうな気がするんです」
一星はリゲルの手を固く握った。
「いいですか、リゲルさん。俺はあなたを俺みたいな旅人にするつもりはありません。ゾディアニック王国があんなことになった原因が見つかるまでは、あなたを旅のパートナーとしてそばに置いておくことはできますが、原因が見つかったら、王国の再建に力を注いで欲しいのです。あなたは次の王様なんですから」
リゲルはためらいながらも、小さく頷いた。