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静まりかえった夜

 だいぶ遠くまで来てしまったようだ。一星はそう思いながら、もと来た道のずっと奥の暗闇を見つめていた。ゾディアニック王国から逃げる時、一度だけ後ろを振り返った。その時には既に流星群の能力は力を増し、建物ごとごっそり消しているかのように見えた。消える直前、建物は黄色く光煌くのだ。そうして、ふっと明かりが消えるかの如く何処かへとさらっていってしまう。城全体には流星群の能力は及ばなかったらしいが、リゲルの部屋にまで流星群が侵入してきたのだから、城が消えるのも時間の問題だろう。

「リゲルさん、大丈夫ですか」

 リゲルはただ、着替えの入ったカバンと楽器のケースを抱え込んで、その場にうずくまっていた。そういえば、一度だけ振り返った時も、振り返るように頼み込んだのはリゲルだった。見なかった方が良かったんじゃないんですか、と言いたくなるのを、一星はグッと堪えた。

「‥‥‥僕は、僕はこれから一体、どうすればいいんだろう」

 震えた声が寒さから来ているのではないことに、一星は気がついていた。

「父さんがいなくなったら後継者は僕なのに、僕みたいな人が王様になったら‥‥‥、あの国は立ち直らないよ」

「そんなことはない。リゲルさんなら大丈夫です」

「大丈夫じゃない。何を根拠に言ってるの。旅人さんは、怖くないの」

「‥‥‥俺だって怖いですよ。もし貴方が今からゾディアニック王国の様子を見に帰るなんて言い出したら、俺は体を張って止めるでしょうね」

「なんで?」

「だって、助かった命を捨てるようなものですよ。怖いからに決まっているじゃないですか」

「そう」

「リゲルさん、行くところがないのなら、俺の家で住んでみませんか? 俺一人暮らしだったんで、ちょっと心細くて」

 そう言うと一星は指を鳴らした。そこには、今までそこになかった家が現れた。


 一星はリゲルを家に連れ込んだ。暖炉の灯りをつけ、軽食を作る。リゲルには食欲がなく、そのまま軽食は次の日の朝食となったようだった。

「リゲルさん、話し方変わりましたよね」

 パンを一切れちぎって食べる一星は、ふとそんなことを口にした。疑問に思ったことを言っただけなのに、リゲルは目を逸らし続けている。

「本当は、こんな喋り方だった。だけど僕は将来王様になるんだからって、丁寧な言葉遣いで話すように心がけてて」

「そうでしたか」

 王様になれば丁寧な言葉遣いを使わなければいけないらしい。リゲルはそれでも、昔使っていた言葉遣いを使い続ける。昔の癖が出たのか、それとも王様を継がないつもりなのか、そんなことは一星に分かる由はなかった。

「ね、旅人さん」

「一星。俺の名前は一星です」

「イッセー‥‥‥。イッセイ‥‥‥。一星くん」

「何ですか?」

「ここ、もう1人いるよね。誰?」

 リゲルは何もないように見える空間に、そっと指を指していた。

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