静まりかえった王国
子どももいない。
大人もいない。
動物もいない。
一星は目をそっと開いた。中央にある噴水のみが静かな王国の中にバシャバシャと水しぶきを上げている。
「一体何が起こったっていうんだ‥‥‥」
「皆さん、どこへ行ったんですか! メイドさん? 父さん?」
大きな屋敷を出たり入ったりを繰り返すのは、消えていたはずの人間だった。リゲルだ。
「リゲルさん?」
「旅人さん‥‥‥」
流れ星はまだ流れ続ける。いや、この王国に落ちていったというのが正しいだろう。地面に落ちて、パラン、ポロンと音を立てて消えた。
「旅人さん、あ、あなたは無事なんですか⁉︎」
「ええ。大丈夫、みたいです。リゲルさん、何が起こったんでしょう。この国に」
「わ、分からないんです。僕だって‥‥‥僕だって‥‥‥」
混乱しているからなのか、話をするのも難しそうだ。今にも泣き出しそうにしているところを見た一星は、次に言うべき言葉を飲み込んでしまった。
リゲルは屋敷の中に一星を案内し、そして自分の部屋へたどり着いた。心躍る面持ちな一星に対して、リゲルはまだ動揺を隠し切れていないみたいだった。
「まさか、こんなことになるなんて‥‥‥、あの話が本当になるなんて‥‥‥」
「あの話?」
「昔々のゾディアニック王国の物語です。父さんから何度も何度も聞かされていたお伽話のようなもの。星祭りの日に流れ星が降ってきて、国の人がみんな消えてしまったんだってお話。僕はずっと半信半疑で、少なくとも僕が生きる間には起こらないだろうって思ってたのに‥‥‥」
そんな話をしているときにも、星は落ち続けている。一星はリゲルに向き直って、決心したように言った。
「リゲルさん、ここを出ましょう」
「ここを、出る‥‥‥?」
「そうですよ。荷物をまとめてここを出るんです。外が夜なのに明るくなってきている。あれ全部流れ星ですよね。このままでは僕たちだって危険です。さあ、早く!」
リゲルはまだ半信半疑のまま、クローゼットから何着か服を取り出し、そして楽器ケースを持って部屋を出た。
その直後、リゲルの部屋に流れ星が落ちて消えていった。