ひとりぼっちの町長さん
「え、ひとりぼっち?」
リゲルは、そっと一星の後ろに隠れた。
「ええ」
ベテルギウスは、そう頷くばかりだ。
「何があったんでしょう。少し、話を聞かせてくれませんか」
「もちろん」
「昔は人がたくさんいましたよ。小さいながらもいい町だ、なんて他のところでも噂が立っていたみたいです」
そんな町に異変が起こったのは、ある夜のこと。昼間ベテルギウスと関わった人間が、次々に消えたのだ。まるで旅に出たのかの如く、夜中のうちに家を出て行ったきり帰ってこなかったのである。そして、様々な考察が練られた末に出ていた結論が、
「ベテルギウスさんが何か、妙な力を持っているのではないか。急に旅にでも行きたくなるような、そんなことを暗に誘っているのではないか」
とのことだった。
その結論を出した瞬間、住民の「コンステレーション大脱走」が始まった。みんな荷物をまとめ、全員同じ日に町を出る。その日までは何があっても、町を出るだなんて口に出しちゃいけない、という計画だった。
「ベテルギウスさんは、その計画を知っていたんですね」
「ええ。みんなひた隠しにしていたようなんですが、私は薄々気がついていました。しかし、夜中に出て行って帰ってこない。その現象の最大の原因は、私ではなかったことに気が付いたんです」
「そうだよね。ベテルギウスさんがそんなことするような人じゃなさそうだもん。何かあるよ!」
「星が降ってきたんです」
ふと、リゲルは目を見開いた。ゾディアニック王国が消滅した日のことを、思い出していた。
「‥‥‥もしかして、星が人の上に落ちてきて、そして星が人間を消したりなんてことを、していたんですか?」
「おや、あなた鋭いですね。そうです、その通りです。昼間私が接触した人間が全員、夜中降ってきた星に消されてしまったんです」
少々怯えているリゲルに、ベテルギウスは淡々と答えた。
「それじゃ、どうしてベテルギウスさんだけが、生き残ったんでしょう」
「私にはもう時間がないからでしょう」
「時間がない?」
「ええ。私は、もうすぐ自然と消える身です。夜になったら分かると思います。自然と消える。ですから、消す必要などさらさらないのでしょうね」
「それはいつ? 病気か何かなの?」
「いいえ。私は元気です。ただ、いつ消えるかは分からない。明日かもしれないし、百年後、千年後かもしれない」
ベテルギウスは力なく笑った。あたりには静寂が広がるばかりだった。
「こんな身ですから、私は人が消える瞬間を、最後まで見届けられることができた。星に消された人間は、一瞬だけある姿を見せたんです」
「へぇ、どんな」
「小さい星が頭についている妖精の形をしていました。そう、ちょうど旅人さんが連れている、それのように」
ベテルギウスは、一星の肩を指差した。誰にもみることができないはずだったのに、ベテルギウスが手をかざせば自然と形が見え始め、リゲルにも見ることができるようになった。そこには、頭が星形の、小さな妖精が座っていた。