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【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう  作者: 蓮宮 アラタ
1章 追放までのあれこれ。
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1,悪役令嬢はその役目を全うする。

気ままに投稿。

 



 大広間に足を踏み入れた瞬間、周りの視線は一気に私に注目した。

 私は臆することなくその視線を受けながら、堂々と優雅な足取りを崩さずに中へと進む。


 不意に目の前に誰かが立ち塞がった。

 そこに居たのは今日私をエスコートするはずの婚約者。

 彼の隣には銀色の髪をした可憐な少女。


 こことは違う世界で画面越しに幾度となく見たあの光景。

 思わず笑い出しそうになる口元を抑えながら、私はその様子を見守る。



 そして傍らに侍らせた少女の肩を抱き寄せながら悪役令嬢アリーシャ・ウルズ・オーウェンの婚約者たる王子は告げた。



「アリーシャ・ウルズ・オーウェン公爵令嬢。君との婚約を破棄する!」



 待ちわびたその言葉に、私は静かな笑みを浮かべた。




 *




 王立アルセニア学園。


 アルメニア王国で最も古いとされるこの学園は今年で創立100周年を迎える伝統ある学校だ。

 今日はその記念すべき100周年を祝う学園創立パーティ。


 パーティ会場である学園の大広間にはそれぞれが選んだパートナーを伴い優雅に談笑したり、立食スタイルの食事を楽しんだり、ゆったり流れる音楽に身を任せてダンスをしたりと皆が思い思いの時間を過ごしている。


 その中にあって、一人でこの会場へ足を踏み入れた私はかなり異質な存在であろう。


 パートナーであり、今宵私をエスコートするはずの婚約者殿はパーティ当日になって「今日はエスコートできない」と私に文を寄越した。


 この国の第一王子たるセラーイズル殿下が婚約者たる私に向かってなんの詫びも使者も寄越さず、ただ一通の文だけで用件を済ませる。

 一国の王子殿下が婚約者に対してする振る舞いとは到底考えられない。当然我が家の侍女は憤慨し、この国の外相であるお父様はそれこそ烈火のごとく怒っていた。


 しかし当の本人である私がなんとも思っていなかったし、むしろ家族と侍女を宥めるのが大変だった。

 これでシスコンな兄上がいたらどうなっていたことだろうか。

 隣国に留学中でよかったとつくづく思わずにはいられない。


 そう、パーティでエスコートをすっぽかされるという婚約者を馬鹿にしているとしか思えない前代未聞な振る舞いをされても私はなんとも思っていなかった。



 むしろすべて計画通りだ。順調にことは進んでいる。思わずニヤけそうになって私は慌てて顔を引きしめた。


 さて、ここからが本番だ。私はこれから「女優」になるのだ。悪役令嬢、一生に一度の最後の表舞台。


 張り切っていこうではないか!


 私は肩にかかっていた白金プラチナの髪を手で払うといざ決戦の場へ足を踏み入れた。

 私が大広間へ入ると、皆が一斉に私に注目するのがわかった。

 その視線をものともせず堂々と歩を進める。


 背筋は真っ直ぐ。歩みは遅くもなく早くもなく。

 優雅に見えるように。ゆっくりとドレスの裾を翻すように。

 イメージは孤高の気高き一輪の花。

 誰にも気を許すことがない高嶺の花のように!


 幼少の頃から叩き込まれた貴婦人としての振る舞いはしっかり刻み込まれていて意識しなくても身体はするりと動いた。


 横目でちらりと周囲を見やれば皆一様にこちらに見とれているのが分かった。


 紳士達は釘付けになったように私の姿に見惚れ、令嬢や夫人達は私の堂々とした、しかし優雅な足取りに簡単の吐息を漏らし、或いは羨望の眼差しを向けている。

 うん、注目度はバッチリのようだ。


 最後まで髪型で悩んだけれど最終的にはアップにしてお気に入りの髪飾りをつけた。

 悪役令嬢ならやっぱ縦ロールだよねぇ、とか思って悩みに悩んだけれどやはりこちらにして良かった!

 色々悩んだ結果、意図せずゲーム通りの格好になってしまったけれど、その分気合いが入ったので結果的には良かったかもしれない。


 内心でほくそ笑むと私は会場の真ん中で立ち止まる。


 目の前には今宵私をエスコートするはずだった婚約者のセラーイズル第一王子殿下。

 彼は睨むように私を見つめている。その周りには彼の側近候補、兼他の攻略者たち。

 その取り巻きに守られるようにして一人の女性が王子のそばに寄り添っていた。


 月光を紡いだような銀色の髪を綺麗に結い上げ、真珠を散りばめた青のドレスを着こなし、空をうつしたかのような見事なスカイブルーの瞳を不安げに揺らす一人の美少女。

 彼女は今宵のもう一人の主役。正統なゲームのヒロイン。

 うん、これぞ間違いなくかのゲームで見たあのシーン。


「断罪イベント」だ。


 さて、必要な配役もエキストラも舞台も整った。

 始めようではないか。


「悪役令嬢アリーシャ・ウルズ・オーウェン」最初で最後の舞台を。


 私は優雅に微笑むと、ゲームと同じセリフを口にした。

 イベント開始の、始まりの言葉を。



「ご機嫌麗しゅう、殿下。今日はエスコートできないとお伺いしておりましたが、隣におられる方はどなたですの? 婚約者の私を差し置いて非礼にも程がありませんこと?」



 あくまで笑みを崩さずに告げれば、かの王子は心底不快そうに眉を釣りあげた。



「そなたこそ言葉に気をつけよ! この者、セジュナ嬢は私の婚約者、ひいては未来の王妃となるのだぞ!」



 この言葉に今度は私が眉を顰める。



「未来の王妃? 婚約者? 何を仰っておられるのですか? それは私のことではありませんか。私はあなたの婚約者ではありませんの?」

「そうだったな、今日までは。いい機会だ、ここで宣言しようアリーシャ嬢」



 王子は冷たい瞳で私を見下ろすと傍らにいる銀髪の少女──セジュナを抱き寄せる。



「私はこちらのセジュナ・アルテミウス伯爵令嬢を新しい婚約者、ひいては未来の王妃に迎えたい。よってアリーシャ・ウルズ・オーウェン公爵令嬢。君との婚約を破棄する!」



 王子は先程の不快そうな表情から一転、勝ち誇ったような笑みを浮かべて高らかに告げた。

 王子の言葉に会場は一斉に騒然となる。

 当然だ。王子がいきなり婚約破棄を宣言したのだから。


 いきなり婚約破棄を突きつけられて私は呆然とする………………訳ないではないか。


(キタアアアアアアアアア!!)


 それどころか私は興奮していた。

 表面上の筋肉を総動員して優雅な微笑みは崩さないようにしながら内心でガッツポーズを決める。


(やった、やった、やった!追放エンドだああああああ!!)


 まさに計画通り。これで私は晴れて自由になれる!


 今すぐ小躍りしたいところだがぐっと堪える。

 私はまだアリーシャ・ウルズ・オーウェン公爵令嬢。

 貴婦人の手本と言われ、未来の王妃と謳われた完璧な貴族の令嬢なのだから。


 しっかりして私。まだイベントは終わってないわ。

 あともう一押し。もう少し堪えるのよ。

 私は再び女優の皮を被って演技を続ける。



「何故、私が婚約を破棄させられなければならないのでしょうか」



 納得いかないとばかりに食い下がって王子へ質問をぶつける。

 王子は何をわかり切ったことを、とばかりに眉を再び釣り上げ、冷たい目をこちらに向ける。

 うん、美形の王子の冷酷な視線って結構おいしいな。

 まぁ私は推しキャラであるヴェガ様一筋なのだけれど。



「それは君が未来の王妃に相応しくない行動をしていたからだ。君はセジュナ嬢を陰で虐めていたことは聞いている。証拠も証人もいるのだぞ、言い逃れはできまい!」



 王子がパチンと指を鳴らすとそばにいた側近候補兼取り巻き達がこれでもかと私のヒロインイジメの証拠を逐一報告し、証人を呼び出し証言をさせて行く。


 中には明らかに私がしたものではないものもあった。まあそれは別にいいだろう。


 それよりか王子と取り巻きのこの見事な連携っぷりよ。姫を守るナイト気取りですかね。さすがヒロイン、ここまで誑かしこんだのね。やるな。


 どこか他人事のように証拠の羅列を左から右に全て聞き流した。

 周りは王子の言葉を聞くうちに剣呑な雰囲気になる。

 おお、見事に私に敵意が向けられている。

 孤立無援。まさに王子の目論見通り、といったところか。


 まあそのイジメは本当だ。私が全て……では無いけれど殆ど仕組んでやったものだもの。

 だってセジュナを虐めないと追放にならないんだし。

 多少心は痛んだけれど後悔はしてません。

 ()()()()()()()()()()()()


 ここでセジュナが王子に肩を抱かれたまま前に一歩出る。その肩が弱く震えている。



「アリーシャ様。あなたの私に対する数々の仕打ち、許せるものではありませんわ! 謝罪を要求致します!」



 肩を震わせ目に涙を溜めながら、それでも毅然とした態度でこちらを見つめてくるその姿は非常に庇護欲をそそる。

 王子は震えるセジュナを労わるように抱きしめた。

 その目は依然として私を睨んでいる。

 おお怖い怖い。


「私がセジュナ嬢に惹かれていると知った君は嫉妬に狂い、卑怯な手を使ってセジュナ嬢を苦しめた。君との婚約は近いうちに破棄するつもりだったがこうなった以上もう放ってはおけない。だからここまでだ。君は私に相応しくない。婚約破棄させてもらう!」



 キッパリと王子は告げるとこちらにはもう目を向けず、セジュナをひたすら愛おしむように抱きしめている。

 その腕の中で耐えきれなくなったのか、セジュナがとうとう泣き出した。

 周囲は完全に私を敵認定したのか咎めるような視線を向けてくる。


 これが集団心理というものなのか。

 確かに少しは私が悪いとはいえ、多勢に無勢。

 何も知らないくせに、ここまで人を敵と認定することができるのか。

 ある意味壮観な図と言えるであろう。皮肉なものだ。


 しかし私は周りを一切気にしない。

 まだ舞台は終わってない。私はまだ悪役令嬢だ。

 なら最後まで悪役令嬢らしく振る舞うのみ。


 あくまで笑みは崩さない。

 私は気高きアルメニア国名門オーウェン公爵家令嬢。

 それ相応の振る舞いが求められる。たとえそれが断罪の場にあっても。


 何より私の今後の自由な生活のために!



「承知しました殿下。婚約破棄、謹んでお受け致しますわ!」



 せめてもの反抗で満面の笑みで告げてやった。


 私の言葉と態度に、王子が目を丸くする。

 普段あれだけ完璧に王子らしい振る舞いを忘れない彼が、驚愕した様子で目を見開いている。


 ふふ、そうだろう。

 彼からしたら私の素直な引き下がりが納得できないだろう。

 私はあくまでゲーム通りに「アリーシャ・ウルズ・オーウェン」を演じてきたのだから。

 つまり、悪役令嬢らしくヒロインをいじめ、王子にまとわりつき、鬱陶しいと思われるくらいに王子大好きっ子を演じてきた。


 ああこれでやっと解放される。


 第一私はセラーイズル王子は推しキャラではない。私が好きなのは近衛騎士のヴェガ様であって実はナルシストなこの王子のことは毛ほども好きではなかった。


 ふん、その顔を見れただけでも清々したぜ!

 私はますます笑みを深めた。

 周りの取り巻きも唖然とした様子でこちらを見つめている。


 気づけば会場内もシンと静まり返っていた。

 私の王子への熱烈アプローチは有名だったのでみな驚いているのだろう。

 全部演技だがな! 追放されたら演劇関係の仕事でもしてみようかな、案外向いてるかもしれない。


 まあそれはおいおい考えるとしてそろそろここから退散するとしよう。

 ほぼゲームのシナリオ通りの結果だ。問題は無い。

 計画通りにことは進んだ。大満足だ。


 私は静まり返った会場でもう一度セジュナと王子を見つめる。



「セジュナ様、数々の御無礼お許しください。私は殿下とセジュナ様の幸せを誰よりも祈っておりますわ。殿下、婚約破棄の件については日を改めてお話するとしましょう。今日は創立記念パーティですもの。私はお邪魔でしょうから今日は失礼させて頂きますわ。それでは皆様、ごきげんよう」



 周囲が困惑した状況の中、一方的に告げると私は最後に優雅に一礼してその場を後にした。


 こうして悪役令嬢は華麗に舞台から退場したのだった。

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