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遺跡  作者: たいいつ
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探索


 日中の疲れもあってか、テントまで戻ると僕たちはすぐに寝てしまった。もちろん、今回は男女でそれぞれのテントに分かれて、だ。普段よりもずっと早くに就寝したことで、目が覚めるのも早かった。空がようやく白み始めたくらいには、全員が起床していた。


「なぁなぁ、今日は何すんの?」


 信が有能すぎたためか、最早自分で考えようとは思わなかった。というより、あれしたいこれしたいと無茶を言って皆を困らせてしまうかもしれないので、余り考えないようにした。ここまでのキャンプが完璧だったのでちょっとの事で台無しになってしまう気がしたのだ。


「んー、やる事なくなったらこれやろう、ってくらいの案はあるが……」


「あ、じゃあパンフレットにあった遺跡とか見に行こうぜ」


 元希が勢いよく声を上げる。確かに、良いかもしれない。新しく遺跡がみつかるかもなんて露程も思ってはいないけど、現在見つかっている分の遺跡を見るだけでも面白いだろう。もちろん、立ち入り禁止になっているらしいので外から見るだけだが。


「えぇー。そんな辛気臭いとこ行っても面白くなーい」


 ノータイムで愛ちゃんが反対してきた。まぁ、確かに女の子には余り面白さが解らないものかもしれない。って言うかパンフレットの話してた時から、愛ちゃんは既に興味なさげに会話に入ってこなかったし。


「でも、遺跡って群になってる事がままあるから、ひょっとしたら新しいのも見つかるかもよ?」


「良いわね!私達で見つけてやりましょう」


 元希が目を輝かせながら熱弁すると、それに呼応するかのように真央も俄然やる気になり、彼らによって段々と趣旨が変わってきてしまった。僕は別に発見したいとかじゃなく、普通に遺跡が見られれば良いんだけど。


「愛ちゃん、遺跡と言えば財宝とかもザックザクかも知れないぜ?」


「行こ!」


 元希が、愛ちゃんに耳打ちするような仕草で言うと、先程と同じような速さで参加を決める。ブレブレなのかブレてないのか良く解らなくなる。しかし、確かに宝探し的な感じで、というなら楽しそうだ。あわよくば働かずに暮らせるかもしれない。


「よっしゃ行こう行こう!」


 唯一反対だった愛ちゃんの同意が得られて、益々やる気になる元希。


「予定は決まったみたいだな。そんじゃま、行きますか」


 信の言葉で全員が動き出す。



「ねぇ、現状でどのくらいの数見つかってるワケ?」


「うーん……。はっきりした数はこのパンフには書いてないけど、百や二百は見つかってるんじゃない?」


 元希がパンフレットをひらひらさせながら答える。僕たちは今、遺跡を見つけに行く、という事で、昨日登ってきたよりも急で舗装もされていない道を歩いていた。


「まぁ、住居址とかだと結構な数が集まってたりするし、何より、どれだけの期間人が住んでいたかにも依るしな」


「それって残ってる数がどれくらいかも解らないってことー?」


 愛ちゃんが苦い顔をしながら言う。やはり、遺跡自体には興味は無いのか、探すのにかかる手間と見つけた際の見返りとを、頭の中で天秤にかけているようだ。


「まぁまぁ、実際に見つかるかどうかよりも、皆で探しに行くって言うのが楽しそうじゃん?」

愛ちゃんが不機嫌になりそうだったので少し話をそらしてみる。


「そうだねー……」


 余りお気に召さなかったようだ。どうにも愛ちゃんの扱いには未だに慣れない。と言うより、真央とのやり取りも含めて考えると、僕の女子とのコミュニケーション能力の欠如が問題にも思える。この二人以外に女友達が居ないのもその所為かもしれない。


「おう、そんな陰気臭ぇ顔してんなよ。そろそろ遺跡が見えてきてもおかしくないエリアに入ったぞ」


「お、マジ?洞窟って言ってたっけ?じゃあ斜面にあんのかな?」


「やっと?早く探しましょ!」


 信の言葉に俄かに沸き立つ二人。一方、愛ちゃんは未だに膨れ面をしている。そこらにある石ころを蹴りながら歩いているくらいだ。


「愛ちゃん、そろそろ機嫌なおそうぜ?折角受験前最後の集まりなんだからさ」


「むぅ……。そんな事言われたら私が大人げないみたいじゃん」


「解ってんじゃねぇか」


 元希に諭され、信に嘲られ、愛ちゃんは一瞬下を向いた。あ、これは不味い、と思った。泣いてしまうのではないか、と。


「信!何もそんな事言わなくても!」


「はぁ……。アンタ、十年以上の付き合いなんだからいい加減あの子の性格理解しなさいよ」


 そう言われ、愛ちゃんの方を見てみると、顔を両手で覆って一見泣いている風だった。でも、よくよく確認すると、口元は笑っており、悪戯っぽく舌も出している。顔を覆っているはずの両手の隙間からこちらを窺ってさえいた。


「えぇーと、愛ちゃん?どゆこと?」


「ごめんねー?悠平っていつも新鮮な反応だからつい……」


「今更こいつがこれだけの事で泣くワケないだろ」


 信が呆れている横で、愛ちゃんは満面の笑みで小石を蹴り飛ばしている。いつの間にか、かなり上機嫌になってずんずん進んで行ってしまう。


「またやられましたな、悠平さん?」


「暑い、離れろ」


 ニヤニヤしながら肩に乗りかかる元希を振り払い、僕も進む。何だか僕一人だけ騙された気分だ。先程までの不機嫌が嘘だったかのように(実際嘘だったわけだが)、今では愛ちゃんと真央が談笑しながら先頭を歩いている。その数歩後ろを歩く信はこちらを気にしつつも先頭集団の方も見失わない様にチラチラ見ていた。


「なぁー、機嫌なおせって!悠平の活躍で愛ちゃんご機嫌なんだぜ?」


「僕が間抜けだからそれ見て笑ってるだけじゃないか!」


 元希の頭をはたいて信の方もちろと睨む。流石に今回の件は、ほんの少しだけど、頭に来ている。確かに僕は弄られキャラだし、敢えて弄られようとそんな風に振舞う事もある。けれど、これは違う。仲間外れにされた気分だ。


「俺達も悪かった。けどよ、お前もいい加減愛ちゃんの性格の悪さ覚えろよ」


 僕と元希の言い合いから察したのか、信が謝りに寄ってきた。確かに、彼女の腹黒さは噂になっているし、その噂のほとんどが真実だって言う事も本人から聞いて知っている。だけど、何も皆で楽しんでいる場で、そんな事しなくても……とどうしても考えてしまう。


「お前の言いたいことも解るさ。長い付き合いだ。でも、俺たちの言い分だって解るだろ?」


 信が少しかがんで僕の目線に合わせて諭してくる。確かにその通りだ。彼らの言わんとすることも解らないではない。もし逆の立場なら、僕は恐らく同じことをするだろうし、彼らはそれを笑って流すだろう。


「折角の楽しい場なんだから、な?」


 要するに、僕が大人げなかっただけだ。楽しい雰囲気を守ろうとして、挙句自分でその空気を台無しにしようとしてたのだから、それこそお間抜けだろう。


「はぁ……。悪かったよ。僕が熱くなりすぎた」


「いや、こっちこそすまん」


 何だか僕の所為で湿っぽい空気になってしまった。ちょっと気まずくて無言で歩き出そうとした時、僕と信、両方が後ろから叩かれた。


「どうせだから楽しもうぜ!」


「……何か元希がハイテンションなのはムカつく」


「奇遇だな、俺もだ」


「酷いっ!何か今度は俺が仲間外れだ⁉」


 勝手にハイテンションになっていく元希を余所に、僕たちは彼女たちに追い付こうと駆け出す。


「って!今度は置いてけぼり⁉」


「騒いでないで早く来いよ!ホントに置いてくぞ!」



 騒ぎつつ散策を続ける僕たちだったが、新しい遺跡の発見どころか、既知の遺跡すら発見できていない状況だった。パンフレットに地図は載っているのだが、どうにも素人目ではどこが遺跡なのか判別がつかない。


「ねぇ、本当にここであってんの?」


 五番目に辿り着いた遺跡のあるとされる場所でも、それは同じだった。真央が確認したくなる気持ちも解る。


「うーん……。パンフだとここって書いてあるんだけどなぁ」


「ここには何があるって書いてあるんだ?」


 辺りを隈なく見分しながら信が尋ねる。


「えぇーとね、ちょっと待てよ……。柱穴が見つかってるらしい」


「そんなもん見つかるわけねぇだろ!」


 と雄たけびを上げながら見分を中断する。


「へ?そうなの?」


「あのな、元希。柱穴なんて普段地表に出てるもんじゃないんだ」


「と言うと?」


「土に埋まってる遺跡なんて、一、二メートル掘ったくらいじゃ出てこない事のが多いんだ」


 信による元希への解説を、横でフンフンと聴いてみるが、信が何を言っているのか全く理解できない。


「うえぇー。じゃあ、柱穴とか、住居址とかは、大体見れないってこと?」


「まぁ、住居址なら復元とかされてるかな、とちょっと期待してたが」


 全員でグルッと辺りを見回す。見渡す限り木しか見えない。ここまで来るのに通った道も、舗装されてないどころか、ほとんど獣道だったくらいだ。


「この感じだとそんなのは無さそうだね」


 はぁ、と全員が溜息を吐き座り込む。信と元希は、それならばとパンフレットを覗き込み、自分たちで見つけられそうな遺跡はどれかを話し合っていた。真央は暑さと成果が出なかったことにイラついてか、そこら中にいる虫に対して文句を言い出した。愛ちゃんは最早、普段のぶりっ子はかけらも見られず、まるで仇敵を睨むがごとく日陰から太陽を恨めし気に見ていた。


「よし、このまま戻っても暑い道をまた同じ時間歩かなきゃいかんだけだ。洞窟が見つかっている山肌はもう少しだから、そこまで歩こう」


 信が高らかに宣言すると、流石に女子から不満が漏れた。


「進んだって何も見つからなかったら結局疲れるだけじゃないの」


「引き返す距離が長くなるだけだと思うなー」


 そんな批判を受けても、信はまるで一人だけ太陽の影響を受けていないかの様な涼しい顔をしていた。


「まぁ聞け。住居址みたいに埋まってるものは素人の俺達にゃ全く見分けがつかん。だがな、洞窟くらいならそこにあれば一目瞭然だろ?新しいのを見つけるのは無理かもしれんが、もう発掘済みなら、土砂崩れで埋まったりしていなけりゃすぐ見つけられる」


「でもー、結局そこまでこの暑い中歩いて行くんでしょ?それでまたこの暑い中引き返してくるんなら、少しでも引き返す距離短い方が良いと思うなー」


 言葉こそ提案みたいな体裁をしていたが、愛ちゃんは既に無表情だった。耳を澄ませば、「涼みたい汗流したい水飲みたい……」と小声で唱えているのが聞こえてくる。


「愛ちゃん、1つ忘れてるぜ。俺達が今から行くのは洞窟だ。洞窟の中は……涼しいぞ?」


 その言葉に、全員が顔をあげる。



 愛ちゃんだけでなく、全員が涼みたい一心で洞窟を探した。数分も歩けば数メートル程せり上がった場所に着く。これくらいの高さがあれば充分に洞窟を掘れるだろう。


「ありそうな雰囲気ではあるけど、パッと見穴なんて見当たらないわよ?」


 そう、この数メートルの段差は、壁とも呼べる程左右に長く続いてはいるが、洞窟の入り口はおろか、埋め立てられた跡さえ見当たらないのだ。


「いや、洞窟が見つかったのは、この上なんだ。これを登った先にも同じくらいの段があるらしくてな」


「確かに、パンフにもそう書いてあるけどさ……。何でこっち側には一個もないのかねぇ?」


「さぁな。まぁ、兎に角、ここを登れば洞窟だ」


 元希が素朴な疑問を投げかけるが、信にも解らないらしい。と言うよりも、もう考える事を諦めているのかもしれない。他の皆もそうだが、早く涼みたい、とばかり考えているように見える。そう言う僕も、遺跡への好奇心よりも洞窟そのものに関心が行ってしまっている。


「登るって、これを?信二人分くらいあるよ?」


「いや、三人分はあると思うなー。私、登れる気がしなーい」


 僕の意見に乗っかってくる愛ちゃんは、最早気だるそうなのを隠す気がない。でも、実際この壁を登るのは僕はともかく、女の子の愛ちゃんには厳しいのではないだろうか。真央は男の僕よりすんなり行けそうだが、それは真央が特殊なだけであって、腹黒い以外は普通な愛ちゃんにはそう易々と登れる高さではないだろう。すると、信は背負っていたバッグから何やら取り出し、得意げに掲げる。


「大丈夫だ。何かの役に立つかもと思ってロープ持って来てあるから、上から垂らしてやるよ」


「おぉー!やっぱ冒険と言えばロープに懐中電灯だよな!」


「冒険って言う程の事もしてないし、どちらかと言うと探索ね」


「もちろん、元希の言う通り懐中電灯もあるぞ!」


「いぇー!」


 信と元希は、つい先ほどまでは暑さにやられていたが、洞窟が目の前という事もあって、好奇心や探求心が再燃したらしい。二人につられて、真央も少しテンションが上がっているようだ。言葉では冷めた事を言っているが、そわそわして落ち着きがない。一方、愛ちゃんは明らかに置いてきぼりを食っていた。元々、遺跡への好奇心やらは彼女の動機には含まれていなかったので当然といえば当然だが。


「うっし!じゃあ俺が最初に登って、適当な木にコイツを巻き付けるから、それを伝って登ってきてくれ」


 そう言ってさっさと登って行ってしまう信。数メートルある壁をすぐに登り切るとそのまま姿が見えなくなる。しばらく待っていると、上からロープが垂らされた。


「しっかりと結んだから、登ってきて良いぞ!」


 信が崖から顔だけを出して呼びかけてくる。


「じゃあまず僕が行くよ」


 そう言ってロープをギュッと引っ張る。この感じなら体重を任せても大丈夫そうだ。そしていざ登ろうと壁に脚をかける。


「でもさー、俺から行った方が――」


 元希が僕の肩に手を乗せ静止しようとした途端、僕の体が宙に浮いた。そう思った瞬間には何かが崩れる音が聞こえ、全身に痛みが走る。


「いててて……」


 気付けば周囲は薄暗く、岩に囲まれていた。


「な、何なに⁉何が起きたの⁉」


「真央、落ち着きなよー」


 すぐに立ち上がるものの慌てふためく真央と、逆に何かの上に座ったまま落ち着き払っている愛ちゃん。薄明りだからはっきりとは見えないが、真央は所々擦りむいている様だが、愛ちゃんは怪我をしている様には見えない。


「いや、愛ちゃんは落ち着きすぎでしょ?て言うか早く退いて⁉」


 愛ちゃんが下敷きにしていたのは元希だった。


「だって、ただ落ちただけじゃない。そんなに慌てる事でもないと思うなー」


「……落ちた?」


 そう言われて上を見ると穴が開いていた。穴の外には、先程僕が握っていたロープが垂れている。どうやら、先程まで僕たちが立っていた地面が崩れ、四人まとめて数メートル下に落下した様だ。

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