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遺跡  作者: たいいつ
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脱出2

「扉出てこい!って言う感じよりは行先とか決めてみたら?」


 愛ちゃんはそう言うけれど、確か信の話では行先を決めるのは僕の役割ではなかった気がする。ただ、あれが信かどうかも解らない今、馬鹿正直に彼の言を信じるのもどうだろうか。ほとんど全てに確証がないため、考えだしたらキリがないが。


「取り敢えずやってみたら?どうせアンタは何も思い付いてないでしょ?」


 まだ機嫌が直らないらしい真央は、不機嫌そうな表情こそしていないが、言葉の端々にチクリチクリと棘を忍ばせてくる。


「何かもう男勝りって言うよりただのヤな奴だよね……」


「今は怒らないでおいてあげるわ」


 空気を無駄にしたくもないしね、とこちらに微笑みかけてくる。これじゃ世界を救っても彼女に殺されるかもしれない。


「じ、じゃあ最初のキャンプ場にしよう」


 扉があった場所に手を当て目を瞑り、心の中であの場所を思い浮かべる。全ての始まりの場所だ。あの場所で遺跡探しをしていた頃が懐かしい。体感時間では数日しか経っていないはずだが、色々あった所為か、それとも時間移動を繰り返した所為か、時間の感覚がおかしくなっている。


「……何も起きないけど」


「そうだね……」


 諦観と苛立ちを孕んだ真央の声に、愛ちゃんも残念そうに溜息を吐く。目を瞑っているものの、壁に手を当てているから、壁に変化がないのは僕にも解る。


「やっぱりダメかぁ……」


 諦めてその場に座り込む。ぷはぁ、と大きく息を吸う。何だか息苦しかった。無意識に息を止めていたのだろうか。


「何かアンタが真剣に黙り込んでたから、こっちも息つまりそうだったわ」


 同じように真央も大きく息を吐くと、当然の様に僕への悪態も吐き出した。


「それはどういう意味カナ?」


「そのまんまの意味よ」


 黙っていれば言いたい放題言ってくれるじゃないか。いつか絶対に復讐する。暑い日に汗ばんだシャツの上から背中をなぞってやる。

 と小さな復讐心を燃やしていると、愛ちゃんが「あっ」と小さく声を漏らした。


「どしたの?何か秘策閃いた?」


 期待の目で彼女を見つめるが、様子がおかしい。愛ちゃんは、良い事を思い付いた♪というよりは、ヤバい事に気付いてしまった、という様な表情だった。


「多分、二人が息苦しいのは気分的な問題じゃないよ……」


 最早絶望を通り越して、その表情は諦めだった。そんな愛ちゃんを見て、真央はすぐに理解したのか、その場に蹲って顔を伏せてしまった。


「嘘でしょ……」


 彼女のくぐもった声が、より一層事態の深刻さを伝えてくれる。けれど。


「え?え?一体何?何があったの?」


 僕には何故こんなに重苦しい空気なのかが理解できなかった。雰囲気の所為か、先程とは比べものにならない程息苦しい。


「ちょっと前に私が言った事、覚えてない?」


 ちょっと前、と言われても具体的にはどのくらい前なのだろうか。二つ前位の発言の事なら流石にまだ忘れていないけど、それより前となるとどうだろう。


「それはちょっと病院行った方が良いんじゃないかと思うよ?」


 本気で心配されてしまった。愛ちゃんは一瞬、チラリと真央の方を見たが、相変わらず俯いたままだ。


「いや、ジョークだって……」


 一応誤魔化してみたが、愛ちゃんは全く気にしていないみたいだった。僕が何も言わなかったかのように言葉を続ける。


「息苦しい、ってよく比喩表現で使われるけどさ、元々はそのまま、息がしづらい状況の事だよね?」


「うん……うん?」


 愛ちゃんは、一言一言、まるで言葉を無駄にしない様に気を付けているかの様に、慎重に発言していた。ただ、一体何が言いたいのか、僕には全く解らなかった。


「だから、今がその状態……つまり空気が薄くなってきてるの」


 正確には酸素が、って意味だけどね。とニコやかに付け足してはいるが、それ所ではない気がする。ちょっと前の発言、と言うのは愛ちゃんの仮説の事だった。つまり、外の空間と断絶されているため、酸素を消費すればしただけ薄くなっているのだ。


「幸い、空気が漏れてないとは言え、持ってあと十分くらいだと思う」


 それまでにこの空間から出られなければ、死ぬ。それも、僕が扉を使えない所為で。


「……折角、二人を救えたのに」


 こんな、こんな事ってありなのか。何か目の前に迫る危機がある訳でも、誰かに襲われる訳でもなく、ただただゆっくりと苦しむだけだ。


「……まぁでも、やれることはやったんだし、仕方ないわ」


 先程までふさぎ込んでいた真央が、何処か晴れやかな表情で言い切る。


「それに、ここで死ぬなら『世界の滅亡』とやらは防げたんじゃない?」


 愛ちゃんも、少しおどけた様に笑う。解っている。二人とも、僕を気遣っているんだ。扉を出現させられない僕の所為で、ここで三人共終わるのだと、そう思っているからこそ僕を責めないんだろう。私達はダメだったけど、世界は守れたからいいじゃない、と。


「違う!僕は始めから世界なんてどうでも良かった!皆を救えるなら、って立ち上がったんだ!世界が滅びようとも皆を助けるって誓ったんだ!」


 つい、叫んでしまった。頭がクラクラする。段々と視界が色を失い、立っているのも難しい。あぁ、このまま目覚めることなく終わるのか。

 フラついた拍子に、壁にぶつかる。そのまま崩れ落ちた。視界が真っ白に染まるのと同時、意識を失った。

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