脱出
「何で⁉」
本来扉があって然るべき壁をペシペシ叩きながら絶叫する。扉がないという事はこの空間から出られないのだ。
「何でってアンタ、ちょっと考えれば解るでしょうに」
パニックだった。もう真央が何を言っているのかもよく解っていない。
「どうすんの⁉ここだって安全だとは限らないし!」
「だから!さっきからその話してんのよ!」
真央が若干ヒステリック気味に叫んだ。僕の方が叫びたい気分だ。
「この壁何とか破れないかな!」
拳でガンガン石壁を叩く。手の皮が剥けて血が滲むが、痛みを感じる余裕もない。
「ちょっと落ち着きなって」
愛ちゃんが僕の腕を掴んで制止する。
「でもこのままじゃッ!」
愛ちゃんが僕の口を塞ぐ。色々あったせいか、愛ちゃんの手は所々砂や泥が付いていたが、彼女はその手で僕の口を覆う事に躊躇いはなかった。
「無駄に叫ぶのも禁止。ここがどういう構造になってるか全く解らないけど、もし密閉空間なら、酸素だって無駄にできないよ」
僕の口を塞ぎながら、真央の方にも視線を送る。何時になく真剣な愛ちゃんの表情に、口の中がジャリジャリする事なんてどうでも良くなった。取り敢えず、これ以上口の中の異物感が大きくなるのも嫌だったので、振り向いた愛ちゃんの目を見ながらゆっくりと首肯した。
「そうね、熱くなっても考えがまとまらないだけだし、体力の消耗も抑えたいし」
それぞれが冷静になって、方策を練ろうという事になった。そこで、まずは愛ちゃんと別れてから愛ちゃんを救うまでに、何があったのかを説明した。余りに僕の説明が下手だったのか、真央が合流して以降の話は「こっからは私が話すから、お願いだから黙ってて」と言われてしまった。
「……これで以上よ」
そう締めくくると、愛ちゃんに何かを問うような視線を向ける。
「うん、ありがとう。ここまでに何があったかは大体解ったと思う」
ただ、解決策は浮かばないのか、真央も愛ちゃんも黙ってしまう。ここで僕の意見を言っても良いものか、少し悩んだけれど、ずっと黙っているのも居心地が悪いので、おずおずと手を挙げた。
「あの、話してる途中で思い出したんだけどさ、確か元希を助けた時、同じような状況になったんだよね。あの時は扉が消えていなかったからあんまり疑問には思わなかったけど」
「怪しい男に元希を預けたって話?」
真央が少し棘のある言い方をしてきたが、言い返して興奮させてしまっても面倒くさいので無視した。
「その時あの男に、『扉を願う気持ちがトリガーだ』的な事を言われてさ」
何の根拠もない上に、全く信憑性のない人間からの情報なので、僕の発言も自然と自信なさげになる。
「そう言えば、信君らしき人と会ったって話してる時も、悠平君が扉を出現させる役割だー、みたいな話出てたよね?」
言われてみればそうだ。
「つまりアンタが心からここを出たいと思ってないから閉じ込められてるって事ね」
「そんな僕の所為みたいに言われても……」
先程無視されたのが気に入らないのか、真央は僕をずっと睨みつけている。
「兎に角、試してみる価値はあるかもね。こんな訳の解らないものに、理論的な答えを求めたって仕方ないし」
提案したは良いが、肝心の試し方が解らない。信もあの男も、気持ちがトリガーで、扉を出現させようと願えば出てくる、的なニュアンスで言っていたけれど、それならもう出現してくれても良いはずだ。
「でもさ、さっきからずっと心の中で『扉出ろ』って念じてるんだけど……」
両手を挙げて首を左右に振る。真央も愛ちゃんもそれを見て黙り込んでしまう。二人とも真剣に考え込んでいる様なので、僕も考えを巡らそうと目を閉じてみる。
しかし、頭に浮かんでくるのは、何で上手くいかないのか、という疑問だけで解決策は何も思いつかない。




