廃村・再3
その後、下敷きになっていた二匹が確実に死んでいる事を確かめ、あちらの僕たちが動き出す前に、捜索範囲外の民家で眠ることにした。夜通し狼と戦っていたため、疲れはひとしお強く感じた。と言っても半分程木を削っていた時間だから、肉体的にと言うよりは精神的にだけど。そんな訳で、気が付いてみれば空はオレンジ色を次第に暗くしている頃合いだった。
「普段の週末みたいな過ごし方しちゃったよ……」
そろそろあっちで決着がつくころだろうか。扉が崩れた後の事は知らないので、一応見守っておく必要がある。かと言って近付きすぎて、僕が僕に気付いても困る。記憶では、僕は僕と遭遇はしていないのだから。
「取り敢えず、あの扉の家の付近に居るか」
まだ正確な時間帯が解らないので、静かに外に出る。遠目に、僕たちが談笑しているのが見える。三人共地面に体を投げ出しているという事は、全て済んだ後の様だ。記憶ではこの後少し休憩して、元希の傷を治療できないか物を探している時に扉に遭遇したはず。今、三人の気が緩んでいる内に移動してしまおう。
気付かれない様に移動するのは、思ったよりも難しかった。まず、狼と対峙するに当たって、僕たちは見晴らしのいい場所を選んでいたため、隠れる場所がなかった。だから、気付かれないために大回りをして行こうとしたのだけれど、どれだけゆっくり動こうと、足元の低い草がカサカサと音を立ててしまう。その度に、ビクッ、と動きを止めて振り返るけれど、何とか気付かれずに目的地までたどり着けた様だ。
「あの時は三人で一匹だったのに、昨日は一人で三匹なんだもんな……」
未だ腰を抜かして動けないでいる三人を眺めながら、つい感慨に耽ってしまう。
しばらく見守っていると、三人が動き出した。今僕が居るのは、件の扉が現れる民家の裏側だ。もしかすると、真央が家の崩壊に巻き込まれないとも限らない。立ち位置的にそんな心配はなかったけれど。兎に角、真央の安全が確定していない以上、なるべく近くでスタンバイしておいた方が良いだろう、と言う考えだった。
「思いのほか大丈夫そうね」
「だから大丈夫じゃねぇって」
騒ぎながら僕たちが現れた。確か、この後僕が開いた扉が……。
「行った方が良いのかな?」
「まぁ、移動先がどんな所か解らない、ってのがネックね」
「ここに留まったってどーしようもないじゃん?」
フラフラとした足取りで元希が二人の間をすり抜けていく。覚えている通りの展開だが、ここから先は僕も知らない。すぐに駆けだせるように、と腰を上げかけた途端、横から突如強い衝撃を食らった。
「ぐぅっ」
叫び声ともならない音を出しながら、民家の壁に激突する。元々ボロボロだったためか、簡単に壁を突き抜け、そのまま反対側の壁まで転がっていく。
幸いにも、新たに傷が増える事はなかったが、体当たりを受け前後不覚になっていた。すると、何かがこちらへ向かってくるのが見えた。
昨日の痛みを引きずりながら、横へ転がる。僕が居た所へ何かが衝突する。あの毛むくじゃらの体躯には見覚えがある。壁にぶつかり、頭を左右に振っているのは、狼だった。
口からは血を垂らしている。怪我をしているのだろうか。狼が頭を振るのを止め、もう一度僕に向き直る。先程無理に動いたせいで、余計に足の痛みが増していた。
周りを見回し、どうにか切り抜けられないかと思案したが、手の届く範囲に武器になりそうな物もない。取り敢えず、狼から目を逸らさず、突進して来たら避けられるように腰を上げる。
「グルルル……」
睨み合う事数秒、すぐに狼が動いてきた。牙は剥かず、爪を繰り出してくるようだ。横に倒れ込む形で何とか回避すると、再び狼が壁に突っ込む。すると民家全体が揺れ始めた。
そう言えばこの民家はもう直に崩れるのだと思いだす。転がったことにより、丁度扉の前に来ていた僕は、急いで外に飛び出した。
怪我をしている脚がもつれ、地面に這いつくばる形になる。すると目の前には、立ちすくんでいる真央の両足が見えた。僕の後ろでは轟音が響き、民家が崩れていっているのが解る。




