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遺跡  作者: たいいつ
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廃村・再1

 扉の先には、雑木林が広がっていた。森、と言えるほど深くはなく、何処かの山村だろうか。暗くて良く見えないが、大体想像はつく。あの狼の居た村だ。ただ、どの時点なのかが解らない。陽が沈んでいる事を考えれば、狼を撃退して、扉を潜るくらいの時間だろうか。


「ウォーン」


 思考を遮るように、遠くで狼の鳴き声が聞こえる。一瞬、身構えるが、どうやらかなり遠くから吠えている様だ。その安堵感から、もう一度状況を分析しようと周囲を見回す。暗さに目が慣れてきて、うっすらと建物が見えてきた。


「あ、あの家がまだあるという事は……」


 僕が見つけたのは、例の扉が出現した家だ。という事は、必然的にまだ真央が置き去りになる前という事になる。

 すると、民家の方から声が聞こえてきた。もっとよく目を凝らすと、民家の前で三人が言い争っているのが見える。そのまま民家に入っていく様だ。


「あれ、でもあの家は扉とは関係ないはずじゃ……」


 普通に扉を潜り、中へ入っていった。おかしいとは思いつつも、確かめるため三人が入っていった民家に近付いてみる。隙間だらけの壁から中を覗くと、元希が僕に包丁を差し出していた。これは、あれだ、この世界に来たばかりの時だ。という事は、今晩僕たちはここに泊まって、明日の夕暮れ時、また狼に襲われるのか。状況が理解出来た所で、一旦民家から離れる。


「僕も一晩待たなきゃいけないのか」


 万一に備えて、僕も武器になるものを探しておこう。扉が崩れた後の事は、僕も知らないわけだし。



 幸いにも、辺りに何軒か民家が連なっていたため、すぐに包丁が何本か見つかった。正直、僕一人で狼相手に何とかなるとは思わないが、ないよりはマシだろう。


「ふぅ……」


 久しぶりに、一息ついた気がする。真央を助けるにあたって、僕が危険に晒されることはないだろう。少なくとも、扉が崩れるまでは経験済みだ。だから、今考えるべきは次の事、即ち愛ちゃんをどう助けるか、だ。足りない頭で考えったっていい手段は思い浮かばないかも知れないけど、僕がやるしかないのも事実だ。愛ちゃんを救えなかった時、彼女はマグマに囲まれつつあった。そうなると、近付くのも困難だ。じゃあ、どうするか。


「……夜風に当たってこよ」


 考えたって何も浮かばないので、取り敢えず外に出る事にした。上を見上げると、いつか皆で見た星空にも負けない程綺麗な空だった。以前ここに来た時には、色んな意味で空を見上げる余裕はなかったけれど、こんな事なら三人でも見たかった。しばらく思考を放棄して、星空を見上げ続けていると、視界の端で何か動くものを捉えた。


「……」


 静かに、手の中の包丁を構える。これは不味い。あの時は兎に角追い詰められていて、全然思い当たらなかったけれど、今冷静に考えてみれば、狼は夜行性だ。『僕たち』が寝ている時に襲われないのはおかしい。しかし、僕たちは狼に襲われるどころか、気配すら感じなかった。何故か、理由は簡単だ。他に獲物が居たから。


「くそっ……」


 僕は全速力で走り出した。ざっざっと言う小さな音が僕の後ろから追いかけてくる。しかも一つではない。複数だ。元々群れで狩りをする狼が、単独で僕たちを襲ったこと自体おかしかったのだ。走っても走っても音はついてくる。振り返るのも恐ろしかった。僕が疲れるまで待つつもりだろうか。どちらにせよ、このままではすぐに追いつかれる。僕は、林の方へと方向転換した。だが、隠れたとしても、臭いですぐに見つかってしまうだろう。


「まともに戦ってもっ、どうしようもっ、ないしなっ……」


 グネグネとルートを変えながら走り、少し距離を稼いだところで、包丁を仕舞い木に登る。すぐに彼らも登ってくるだろうが、何とか登り切れれば、多少有利になるだろう。考える時間稼ぎも出来るかもしれない。


「グルルルル……」


 しかし、そんな甘い考えはすぐに打ち砕かれた。半分も登り切らない内に一匹の狼が木の根元まで追いついてきたのだ。


「やっば!」


 狼も僕と同じように木を登り始めた。しかし、スピードが段違いだし、僕は抵抗できないのに対して、向こうは四足使っていたとしても牙がある。圧倒的に不利だ。必死に登りきろうとするが、追いつかれる。


「グッ……アァ!」


 脚に噛みつかれた。そのまま力を込めて引きずりおろそうとしている。


「ギャンッ」


 しかし、唐突に僕の足は解放された。それどころか、狼は根元まで落下していく。ドス、という狼の落下音と同時に、カラン、という乾いた音も響く。


「ッ……。ざ、ザマァ見やがれ」


 どうやら、脛の辺りに固定してあった予備の包丁に思い切り噛みついて、口の中を切った様だった。本当にツイている。他の狼たちも追いつきつつあったが、先程のカウンターに少し怯んでいるようで、こちらの様子を窺っている。その隙に、噛まれた左足を引きずりながら、何とか木を登り切った。改めて下を見ると、六つの目がこちらを見上げて、低く唸っている。群れにしては少ないとは言え、僕一人で相手するには多すぎる。


「さて、これからどうしよう……」


 登り切ったはいいが、未だ狼たちは根元をぐるぐる回りながらこちらに唸っている。どうやら逃す気はないらしい。手元には包丁が三本、他に使えそうなものはない。おまけにこちらは脚をやられた。降りたってまともに走れない。つまり、僕はここから降りずに、この包丁だけで何とかこの場を凌がなければいけない訳だ。


「頭を使うのは僕の役割じゃないとおもうんだけどなぁ……」


 かと言って、肉体労働が得意な訳でもないけれど。相変わらず下でグルグル言いながらぐるぐる回っている狼たちを見下ろす。


「こうなりゃ長期戦だ」


 僕は跨っている枝の根元を包丁で削り始めた。

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