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遺跡  作者: たいいつ
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期待

「でもさー、そんな急な日程でキャンプ場の予約取れんの?」


 上からは直射日光、下からはアスファルトの照り返しで、オーブンの中の魚の気分を味わいながら下校路を歩く。男子は皆シャツのボタンを開け、腕まくりも限界までしている。真央は太陽に屈したくないと言わんばかりに姿勢よく歩いている。周囲から見れば暑い中ピシッとしている凛々しい子に見えるかもしれないが、実はシャツが背中に張り付くのが気持ち悪いという単純な理由なのだ。愛ちゃんは校則違反の日傘を差しているが、それでも照り返しが暑そうだ。


「その辺は大丈夫だと思う。家族で行くなら親も休みな盆だろうし、暇な大学生たちは九月一杯休みなんだからそっちで行くだろ」


 元希が暑さにうだりながら疑問を口にすると、汗だくになっている信が答える。信は体格がいい事に加え、スポーツマン特有の代謝の良さも相まって僕たちの倍くらい汗をかいている。


「さっき決まったのに……。よくそんなにポンポンと色々考えれるね?」


 信の頭の回転が速い事は知っていたけれど、改めて心底感心してつい口をついてしまった。すると、信は意地悪な笑みを浮かべながら僕の顔を覗き込む。


「そりゃあお前とは頭の出来が違うからな」


 馬鹿にしたように言いながら、肩に腕を回しのしかかってきた。重いし暑いし、何より多量の汗が気持ち悪かったので、振り払おうとしたが、元希と違って体格差のある信は僕の力ではどうにもならなかったので、悪態が口から出るのみだった。


「やっぱ褒めるんじゃなかった!」


「ただでさえ暑いんだから、男同士でじゃれ合わないでよ……。暑苦しいったらない」


 そんな僕らを横目で見ながら、げんなりとする真央だったが、姿勢だけは不自然な程ピシッと保たれていた。その背後から愛ちゃんが忍び寄っていた。


「そんなの僕に言われたって……」


「ひゃうっ!」


 真央が唐突に奇声を上げると、同時に反転して愛ちゃんに向き合う。


「ななな、何すんのよ!」


「えぇー?男の子同士がダメなら、女の子同士でじゃれ合おうと思って」


 どうやら、汗で張り付かない様に正していた背筋を、後ろから指でなぞったらしい。


「女同士でも暑苦しい事に変わりないわよ!って言うかやる事が悪質!」


 未だ手を背後に回そうとする愛ちゃんと、それを防ごうともがく真央。それを繰り返す内、お互い掌を合わせて組み合う形になった。


「あれ、掌の汗とか気持ち悪くないのかな?」


「いや、それより背中の汗とか、紫外線は良いのかとか色々あるだろ」


 僕が素朴な疑問を口にすると、信は色々な事に呆れたように答えた。最早、愛ちゃんは意地でも背後を取ろうと、日傘を差す事を放棄してその辺に放っぽり出しているし、真央も愛ちゃんの動きを封じるため、前傾姿勢になりシャツがぴったりと背中に張り付いてしまっている。確かにあれではお互いが不快な思いをしているだけかもしれない。


「男同士も女同士もダメなら男女でじゃれ合おうぜ!」


 僕らがげんなりと女同士の戦いを眺めていると、それまで静かだった元希が二人の方へと突撃していった。


「うっさい!」


 片や睨みつけ、罵倒しながら蹴り上げる。


「えーちょっと恥ずかしぃ」


 片やぶりっ子を発動しつつ落ちた日傘を拾って叩き付ける。


「はぁ……。車には気を付けろよー」


 信は、そうしてはじき出された元希を、車道にはみ出さない様受け止めながら女子二人にも忠告をする。これじゃあまるでお父さんみたいだな、と思いつつ笑って眺めていた。


「おい悠平、ニヤニヤしてねぇで道空けろ。自転車の邪魔になってる」


「え?あ、ごめんなさい!」


 スッと避けると自転車が通り抜けていく。僕も人の事笑っていられないみたいだ。


「ったく世話が焼ける……」


 と溜息を吐きつつも、何処か楽しそうなのは見逃さなかった。


「何だかんだ信もまだ子供だね」


「どの口が言うか」


 そんな感じで騒ぎながら歩いていたら、いつの間にか、いつもの分かれ道に差し掛かった。ここからは五人バラバラな方向に帰るのだ。


「じゃあ明後日朝9時に出発しよう」


 その信の一言に、皆返事をすると各々の帰路へと就く。いつも通り、いやいつもより、楽しい夏休みになりそうだ。

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